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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第7章 前方の研修、後方の再編成

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第49話 取り敢えずOJTは続いている

「蒼馬さん、よろしいですか?」

「あっ、えっ、はい!」

 

 不意に声をかけられたことで、ユウヤの思考は切断され、現実が目に入ってくる。

 慌てて振り向くが、そこには椅子に座り放心したように口を開き中空を見上げるコノハ。

 突然、そんな状態で声をかけてくるわけがない。


「大丈夫ですか?」

 

 改めて声をかけられ、左側を向けば、緑谷が立っている。

 彼もユウヤと同じくスーツ姿なのだが、なぜか普段着を着ているような雰囲気であり、周囲に溶け込んでいるようだった。


「新しい企画案を出したので、見てもらえます?」


 緑谷はやや面長な顔を少し傾け、ユウヤのディスプレイを覗き込むと、ユウヤ宛の投稿があるスレッドを指差した。


「ああ、ありがとうございます」


 反射的に礼を述べ、スレッドを開くユウヤ。

 だが、緑谷の投稿を確認し、添付されたファイルを開こうとした時、ユウヤの指はマウスをクリックする直前で止まった。


「どうしました?」


 不思議そうに緑谷が顎に片手を当てる。


「……今度は大丈夫ですよね?」


 ディスプレイから目を離したユウヤは、傍らに立つ緑谷へと顔を向け、その細い瞳を覗き込むように凝視した。


「今度はと言いますと?」

「既に2回直しているじゃないですか……」


 両手を組み、考える緑谷を見ながらユウヤは小さくため息をついた。


「1回目はターン制コマンドRPG……」

「2つ目はレースゲームですよね」


 企画案を思い出しながら話すユウヤに対し、緑谷はあっけらかんとした態度で答え、「ボツになっただけですから」と朗らかに笑う。


「そのボツになった理由が、大事なんですよ!」


 ユウヤが思わず立ち上がると、緑谷に顔を近づけ、強めの勢いで返す。


「……趣味に合いませんでしたか?」

「そういう話ではなく……」


 ユウヤから視線を離し考える緑谷に、ユウヤは肩を垂らし思いっきり脱力した。


「と、取り敢えず見ますよ」


 そのまま、ユウヤは再びPCへと向かうと、改めてファイルを開いた。

 ユウヤは理路整然と並べられた文章を、ひととおり目を通すと「ふむ……。さすがですね」とかすかな嘆息とともに短い感想を述べた。

 実際、緑谷の企画案は読みやすく、よくまとまっている。

 何を作るかに始まり、目的と目標が記載。

 セールスポイントになるギミックの説明。

 そして最後に簡単な図式が載っている。


「いや、やっぱりスゴイですよ」


 改めて目を通しても、ユウヤの感想は賞賛で始まった。


「必要事項を端的にまとめてあって、最後に簡易的な構成図まであるし……」

「ん、どうしました?」


 そこまで言うと、ユウヤはわずかに苦笑した。

 その笑みは緑谷の興味を引いたらしく、細い目をわずかに広げてユウヤに少し近づいた。


「いや、これまでの企画案を思い出して……」


 わずかに頭を傾け、ユウヤは緑谷を見る。

 その笑いたそうにも、困ったようにも見えるユウヤの表情に、緑谷も「ああっ」と納得した顔になる。

 初めの企画だったRPGは、システム的にオーソドックスであり開発に時間がかからないものだった。


「必要最低限のシステムは揃っていたんだけどねぇ……、シナリオが丸投げになっていなければ」

「ハハハハ」


 ユウヤがややキツめのツッコミを入れる。

 普段ならコノハくらいにしかしない、やや毒のある言い方だったが、緑谷は笑ってスルーする。


「レースゲームの方は、デザイン欄に『お願いします』の一言だけ……」


 そう言いながらユウヤは椅子から立ち上がる。

 その後ろで、コノハがコテリとデスクに突っ伏したのが目に入ったが、あえてユウヤは無視し歩き出す。


「スズナ、ちょっといいか?」


 ユウヤは、やや離れたデスクのスズナに声をかける。


「えっ、なにお兄ちゃん?」

 

 一心不乱、液晶タブレットに何かを描いていたスズナ。

 呼ばれたことに驚いたのか、少し目を大きくしながら振り向くが、すぐに柔らかな微笑みを見せる。


「緑谷さんの新しい企画案。それ見て素直な感想くれないか?」


 話しかけながらユウヤは、スズナの席へと歩み寄る。

 いそいそとメールソフトを開いたスズナの横に立つと、ディスプレイの一点を指さす。

 スズナは指先にあるメールを開き、中身を読み始めた。

 全体としては専門用語も多く、スズナには理解できない内容だった。

 だが最初の部分だけは、簡単な言葉で書かれていたのでスズナにもすんなりと理解できた。


「落下系パズルゲームだね。私はいいと思うよ」


 メールから目を離したスズナはそう言うと、ユウヤの方へ向く。

 その際、ユウヤの肩越しに見えた緑谷が、小さくガッツポーズを決めているのを見て、スズナは思わず口に手を当てた。


「ん? なんかあったか?」

「んん。何でもないよ」


 緑谷が視界に入っていないユウヤは不思議そうに聞いてきたが、既に普段どおりに表情の薄い顔で立っている緑谷を見てスズナはごまかした。

 恐らく先ほどのことをユウヤに話しても信じてもらえなさそうだし、なにより少しユウヤには秘密にしておきたいとスズナのいたずら心がうずいたからだ。


「これならデザイン入れると思うけど、コンセプトどうする? やっぱり、動物とかかわいい系かな?」


 スズナの問いにユウヤは少し考えた。

 普通なら、売り物ではない研修用作品に、凝ったデザインは必要ないだろう。だが、今回はスズナも研修対象である。

 それ相応の内容が求められるが……。


「緑谷さん、イメージありますか?」


 考えた末、ユウヤは緑谷に話をふることにした。

 一応、自分の意見はあったが、今回のリーダーは緑谷である以上、彼の意見が最優先と思ったからだ。


「僕は、果物イメージだけど……」


 そう言うと、緑谷は顎に手を当て考える仕草をする。

 その視線の先には黄島の席がある。

 デスクの脇に、駄菓子類の入ったカゴが置いてあり、「ご自由にお取りください(1個10円)」と書かれている。

 緑谷は無言でその中のチョコレート菓子を1つ手に取ると口へと放り込む。

 口内に広がるであろう甘みにも顔色を変えずに、ゆっくりとした速度で緑谷は歩み寄ってくる。

 気がつけば、黄島の席には10円玉が置かれている。


(いったい、いつの間に……?)


 あまりの早業に、思わずユウヤは身構える。

 まるで緑谷との距離を測るように、すり足でわずかに後退する。

 軽い足どりで近づくにつれ、笑顔になる緑谷に対し、ユウヤの表情は厳しくなる。


(あと一歩で、向こうの射程距離……)


 鋭さを増したユウヤの瞳だが、同時に喉が鳴る。

 ユウヤの緊張は限界まで引き絞られる。


(来る!)


 反射的に構えようとするユウヤの行動より、緑谷の行動は早かった。


「うん! いいね、かわいい系の動物!」


 満面の笑みを浮かべ、スズナの案に賛同する緑谷。

 思わずユウヤは膝から崩れ落ちながら、叫んでいた。


「待って、さっきの緊張感は!?」

「「緊張感?」」


 ユウヤの言葉に緑谷とスズナがハモリながら返す。

 奇しくも小首を傾げる仕草まで一緒だった。


「緊張感はいいとして、何でわざわざチョコレートを!?」

「ああっ、黄島さんのチョコがおいしそうだなと思ったら、買えるみたいで」


 頬をかきながら、どこか気恥ずかしそうに返す緑谷。

 そんな緑谷より奥から「まいど〜」と黄島の声が響いた。

 大きく肩を落としユウヤは「はぁ〜」とさらに大きなため息をつくと、頭を大きく振るった。


「悪い。ちょっと、余計なことに気を取られすぎたみたいだ」


 ユウヤは2人に軽く謝罪の言葉を述べる。

 スズナは不思議そうにユウヤを見つめ、緑谷は目をさらに細めた。


「気を取り直して、企画案はこれでいいですかね?」


 それまでのことが何もなかったかのように、平然とした口調で緑谷が尋ねる。

 一瞬、顔をしかめるユウヤ。どうも緑谷のタイミングは取りづらかった。


「ええ、オレはいいと思いますよ、スズナは?」

「私もいいと思います」


 2人の返事に緑谷は「なら決定ですね!」と手を叩いた。

 その後、細部をまとめるために緑谷が席に戻り、スズナもまたデスクに向くと、手持ち無沙汰になったユウヤは大きく伸びをした。

 振り上げた腕に引っ張られ、背筋が伸びていくのが心地よい。

 だが、その瞬間、再びユウヤは視線を感じた。

 慌てて周囲を見回すと、目が合った。


「楽しそ〜だね、ユウヤ……」


 机に突っ伏した姿勢で首だけをユウヤの方に向け、大きく両目を見開いたコノハが、感情のこもらない声で問いかけていた。

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