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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第1章 出向辞令が出た

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第4話 二人の悩み

 その晩、ユウヤは寝付けなかった。

 布団の中で悶々と考え事をしている内に気がつけば東の空が明るくなってきた。

 幸いにも今日は土曜日。

 会社は完全週休二日制であり休みだ。

 しかし休みの朝を仕事のことで悩みながら迎えたのであった。


 ユウヤは両親と暮らしている。

 都内の企業に勤めているので、東京近郊にある実家から通うのが一番楽だった。

 しかし困った点もある。

 それは家族の生活リズムに合わせる必要があること。

 普段は父親も出勤しているので、あまり困ることはない。

 しかし、徹夜明けでようやく眠くなってきた時は地獄である。


 バタン!


 ウトウトし始めたところに、突然部屋のドアが開かれる。

 その音に驚き、寝付けたところなのに半ば目が覚める。


「ユウヤ! 休みだからって何時(いつ)までも寝てると片付かないんだけど!」


 母親の声が部屋に響く。

 これがトドメとなり、ユウヤの意識は無理やり覚醒状態になってしまった。


「はいはい、起きますよ!」


 半ば自棄(やけ)になって返事を返すと、勢いをつけてベッドから飛び降りる。

 気分は重いが、身体は問題なさそうだ。

 一応、学生時代に陸上部にいたこともあるので、それなりに身体は鍛えられていた証拠だろう。

 ともかく、頭はモヤが掛かったままであるが、それでも軽快に階段を降りていった。

 食事を取れば少しは頭も整理できると思ったから。


 ……結果は同じだった。

 腹は満たされたが、別に心は晴れない。

 問題が解決した訳では無いので当然だ。

 食事が終わってから居間のソファーに座り込んだユウヤは悩み続けていた。


(とは言え、悩んでいても解決するもんじゃないよなー)


 そう、これは人事の話である。

 自分の将来を考える必要はあるが、同時に企業人として考えれば自分だけの問題ではない。

 身の振り方一つで、今後の会社の方針にすら影響が出るかもしれないのだ。

 そこまで考えるに至った時、ユウヤは気がついた。

 提示された未来について自分は何も知らない。

 ゲーム開発とは言われたが、自分が知っているのはディレクターの下に、シナリオライター、イラストレーター、プログラマーがいて各自が分担してゲームという一つのコンテンツを作っているくらいだ。

 それが認識として正しいのかも分かっていない。

 大体、その区分けが正しいのであればコノハは何の仕事をしているのだろうか?

 ゲームの企画をしているんだからディレクター?

 いやいや、新人がいきなりディレクターになんかなれないはずだから、アシスタント()ディレクター(D)か?

 TVなんかでたまに映るADはアシスタントと言うには、下っ端の雑用係に見える。

 あのプライドの塊みたいなコノハが雑用係(AD)なんてやるか?

 そこまで考えた時、ユウヤはまずはゲーム開発の仕組みについて調べることから始めるべきではという考えに至った。


「母さん、ちょっと駅前まで出かけてくるわー」

「構わないけど、着替えて身だしなみ整えてからにしなさいよ」

「わーてる」


 のそりとソファーから立ち上がったユウヤの言葉に母親が反応する。

 母親ってのはずっと息子は子供のままだと思っているのだろうか?

 そんな事を考えながら生返事を返した。


「そうそう、出かけるなら白樺さんところ寄ってあげてくれない?」


 二階へ上がるユウヤを母親は呼び止めて要件を伝えてきた。


「いいけど、何か届け物?」


 ぶっきらぼうにユウヤは答える。

 それに対し母親は少し考えるような素振りをする。

 どうも言葉を選んでいるようだ。


「スズナちゃんのことよ」


 しばらく考えた末、母親は端的な言葉を返してきた。


「ああ、なるほど」


 ユウヤも心当たりがあり納得し、階段を登っていった。

 白樺スズナ。

 蒼馬宅の隣に住む白樺家の長女だ。

 ユウヤとは5歳ほど歳が離れているが、幼い頃は一人っ子同士、兄妹のように育った幼馴染みだ。

 実際に現在もスズナはユウヤのことを兄と呼んでいる。

 引っ込み思案なところがあるスズナにとって、ユウヤは頼りになる兄も同然の存在だった。

 もっとも最近はユウヤが仕事が忙しいのであまり顔をあわせていない。

 そのこともあり、ユウヤはたまに顔を見に行くのもいいかと思った。

 今抱えている問題を解決することはできないだろうが、気分転換になるだろう。

 そう考えたユウヤは普段の休日よりは少しだけしっかりと身だしなみを整えると家を後にした。


 1時間ほど後。

 駅前の本屋でゲーム開発の基礎をうたった本を数冊購入したユウヤは、直接白樺家へ向かうのではなく、自宅近くにあるケーキ屋へ寄ってから向かった。


 ピーンポーン


 インターホンを押すと、典型的な電子音が屋内から響いてきた。

 しばらくすると自宅で誰かがスリッパで小走りしている音に続き、インターホン越しに返事が聞こえた。


「はい?」

「どうもユウヤです」


 聞き慣れた白樺のおばさん、つまりはスズナの母親の声が響く。

 それに対しユウヤは名乗った。

 インターホンにはカメラが内蔵されているので、気がついているとは思うが念の為。


「ああ、ユウヤちゃん。鍵は開いてるから入っていらっしゃい」


 白樺のおばさんの朗らかな声が響く。

 ユウヤの母親共々地元出身で子供の頃からの付き合いとのことだが、性格には随分差があるなとユウヤは思っている。

 そんなことを思いながら扉を開けて家の中に入る。


「お邪魔しま~す」


 軽く挨拶をしてから、靴を脱いでいると白樺のおばさんが近くの居間につながる扉から顔を出した。


「そんなかしこまらなくても良いのよ?」


 笑顔でそう言い廊下の反対側。

 二階へ続く階段へと視線を向ける。


「スズナ〜! ユウちゃん来てるわよ~」


 二階へも聞こえるように大きな声で娘の名前を呼んだ。


「お兄ちゃん来たの? ちょっと待ってもらって」


 間髪入れずに二階から声が返ってくる。

 その声はおばさんの声に似ているが、もう少しトーンが高くか細い。


「急いでないから慌てるなよ!」


 靴を玄関の脇に揃えて置いたユウヤも立ち上がりながら二階へ声をかけると、居間へと入っていった。


 居間に入るとユウヤはおばさんに手土産のケーキを渡し、しばらく話をしていた。

 お隣同士とは言え、母親はともかく昼間自宅にいないユウヤとは近況の話でも盛り上がる。

 たまに笑いを交えながら会社などで起こったことを話していると、慌てて階段を下りてくるドタドタという音が響いてきた。

 そして、そのまま居間へと来るのかと思いきや、家の奥へと廊下を走っていった。


「あら、うふふふ」


 その音に少し驚いた顔をしたおばさんだが、すぐに笑い出した。

 ユウヤもまたくすりと笑った。


 ガラガラガラガラ


 その笑い声より大きい音を立てて部屋の奥、キッチンへとつながる引き戸が開いた。

 そこにはユウヤが幼いころから見慣れた少女の顔。

 色白の肌に、可愛いというより美人といった方がしっくりくる顔立ち。

 だが、その顔はよほど急いだのか、焦りで乱れていた。


「お兄ちゃん、待った?」

「あ、いやそれほどでもないが……」


 息を弾ませながら聞いてくる幼馴染みにユウヤは、押され気味だった。

 彼女が生まれて間もない頃からの付き合いであり、普段はユウヤがリードしているのだが、最近はたまに勢いに負けてしまうことがあった。

 そんな時はいつもは引っ込み思案な少女のどこに、こんな力が秘められているのかと考えてしまう。


「とりあえず相談事ってなんだ?」


 このまま勢いに負けてしまう前に、ユウヤは本題に入ることにした。

 SNSでも繋がっているのにわざわざ母親を介している時点で、親しい人以外に知られたくないことだろう。

 少しだけ真剣な眼差しをスズナへ向ける。

 その視線を受けてか、本来の目的を思い出した様だった。


「え、え~とね……」


 ちらりとスズナは母親の方に視線を向ける。


「あ、あ~ハイハイ」


 それに気がついた相槌を打ちながらおばさんは席を立った。


「じゃあ、ごゆっくり~」


 そう言い残し席を立った時の少し意味ありそうな笑顔を見たユウヤは、おばさんも母親と同じく勘違いの世話焼きだなと思った。


「実は絵のことで相談したいんだ」

「イラストの描き方はオレもわからないぞ?」


 引き戸が閉まると同時に小声で話しかけたスズナに、前置きをしておく。

 昔、自分が分かる範囲について線引きをしていないために喧嘩になったことがあるためだ。

 大人になった今では些細なケンカでも後々まで響き、お互い気まずくなる。

 スズナが独立、もしくは結婚するなどして、自分の元から離れるまでは仲良くしていたいというのがユウヤの考えだった。


「それは分かっているよ。相談したいのはコレ」


 スズナは手に持ったタブレットを操作し、おもむろにあるメールを見せた。

 件名は『新規イラスト制作ご依頼について』と書かれている。

 それを見てユウヤは驚きの表情をスズナに見せる。

 スズナは『白雀(しろすずめ)』の名前でイラスト投稿サイトなどに独自のイラストを公開している。

 いわゆる版権キャラクターのイラストなどは描かないため、知名度はそれほどではないがそれでもそこそこファンがいる。

 とは言え、これまでコンテストの類に応募しても入選することもない、言うなれば狭いコミュニティでの有名人であった。

 それが急に仕事の依頼が来たのだ。

 初めてのことに誰に相談したらいいかわからなくなるのも当然だろう。

 そこで一番親しく門外漢とはいえ、仕事をしているユウヤに相談を持ちかけたのだ。

 少し考え込んだユウヤだったが、おもむろにスズナのタブレットを手に取り、該当のメールを指差した。


「ふーむ……。メールの中、見ていいか?」

「え!? う、うん」

「大丈夫、他のメールなんか見ないから」


 少し緊張しつつも了承するスズナを見て、ユウヤは微笑む。

 昔から彼女が緊張している時は、こうして笑顔を向けると安心するのでユウヤは無意識に笑顔を向けていた。

 そして、該当のメールを開く。

 初めに飛び込んできたのは相手の挨拶文。


 ―突然のメールによるご連絡、失礼いたします。


 ビジネスメールの典型的な挨拶から始まる文面の2行目をユウヤは見た。

 そこに書かれていた文面を見た彼は、驚きの声をあげていた。


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