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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第7章 前方の研修、後方の再編成

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第48話 嵐の中で

「はい! はい! よろしくお願いいたします!」


 おおよそゲーム開発事業に似つかわしくない雰囲気の言葉が響く。

 皆、すでに慣れてきたユウヤのテレアポの声だった。


「よくやるね〜」


 ディスプレイから目を離した黄島が、あくび交じりにつぶやいた。

 その視線の先で、ユウヤはスマホを耳に当てながら、部屋の隅を行ったり来たりしていた。


「仕方ないんじゃない。彼はそっちの仕事(IT事業部)もやってるんだし」

「まあ、それはわかるけどね……」


 同じく手を止めた小豆が眼鏡を外しながら答えると、黄島は腕を組みわざとらしくうなずく。


「だけどねぇ〜」


 チロリと横目で周りを見回した黄島がわずかに嘆息した。

 普段から騒がしい部署ではある。だが、今の有様はいささか常軌を逸していた。


「だ〜か〜ら〜、1年とは言わないから、半年だけでも協力してよ!」


 コノハの大きな声が響く。

 苛立ちまぎれのその言葉に、相手は困惑している。

 社内システムエンジニア(SE)である彼は、たまたまコノハの近くを通ったところを呼び止められた。

 そしていきなり来週までにPCとサーバーを数台、都合してほしいとの相談だった。

 当然、彼としては業務で必要な機材を揃えるのはやぶさかでない。

 だが、必要な手続きをすっ飛ばし、あまつさえすぐに社内に独自のネットワークを構築するなど聞ける相談ではなかった。


「だから、必要な手続きと会社の認証を取ってからにしてくれよ」


 普段は温厚な彼が雑に言葉を投げると、周囲に緊張感が走った。


「あ……」

「あ〜、ごめんなさい! ちゃんと計画書作って承認とってきますから! ……うぐ!?」


 顔を赤くし拳を振り上げたコノハが、さらに声を上げようとした時、ユウヤの早口の謝罪と、うめき声が響いた。

 電話を終え、慌てて2人の間に割って入ったユウヤだが、あまりにもコノハに近かったため、振り下ろされた拳が背中に命中したのだ。

 そして思いのほか背中を叩かれた音は大きく、周囲の視線がユウヤたちへと注がれた。

 

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫……」


 SEがユウヤに声をかける。

 実際、偶然当たっただけなのでユウヤは大して痛みも感じなかった。

 だがSEは顔を見るまでもなく、焦りが浮かんでいるのがよくわかる。

 ともかく、ユウヤは苦笑いを浮かべつつ、手をヒラヒラと振る。

 それを見てSEは「気をつけて」とだけ告げてその場を後にした。


「ありゃあ、しばらくウチには来ないねぇ」


 入れ替わるようにユウヤのそばへ来た黄島が言う。

 頭の後ろで両腕を組み、モゴモゴと棒キャンディを口の中でもて遊ぶ姿は気怠げだ。

 それでも何かを言おうと、黄島は棒を持ち、キャンディを取り出した。

 しかし、ユウヤの方が先に口を開いた。


「ともかく、いつも言ってるだろ?」


 少しだけ厳し目の口調で問いただす。

 再び、周囲の空気が緊張した。

 周囲がいつぞやの騒動の再来を予感する。


「だ、だって……」


 周囲の予想に反してコノハの言葉は弱々しかった。

 普段、あまり動じない黄島や小豆すら、その言葉に目を大きく見開き、驚愕の表情をコノハに向けていた。


「お前なぁ……」


 ユウヤもまた注意するつもりだったのだが、その言葉に毒気を抜かれ大きくため息をついた。

 ふと、幼い頃スズナに怒った時を思い出した。

 あの時、スズナは必死に弁明していた。

 反応は違うが、当時のユウヤもまた同じようにため息をついて、その場は終わった。


(これが妹属性ってやつかね……)


 後頭部をかき、コノハから目をそらしながら、そんな事を思っていた。


「きゃう!?」

 

 次の瞬間、脇から伸びてきた手がコノハの顔を掴んでいた。

 一瞬のことで、ユウヤも反応が遅れたが、コノハを掴む手は黄島のものだった。

 親指と人差し指で、コノハの小さな顔のこめかみをしっかりとホールドしている。

 さらに黄島の手首から親指にかけての筋肉がわずかに震えており、じりじりと力を強くしていることが見て取れる。


「コ~ノ~ハ~、しおらしくしてやり過ごそうとしたってダメだからね?」


 満面の笑顔を見せる黄島なのだが、ユウヤはその顔から温かみを感じることはできない。

 むしろ、冷酷なまでの冷たさを感じる。


「サッちゃん、ギブ! ギブ~!!」


 ジタバタともがきながら、コノハは悲鳴にも近い声をあげる。

 その、あまりの事態にユウヤは目を白黒させたが、すぐに間に割って入ろうとした。


「ユウヤくん、自分の仕事に戻っていいよ〜、コノハは忙しいからね」


 ユウヤは思わず「はぁ」と気の抜けた返事をした。

 納得していないユウヤは、何か口を開こうとしたが、そこへ黄島の左腕が電光石火のごとく動いた。


「うぐっ!?」

「それでもなめて、リラックスしなさい」


 慌てたユウヤが口に突っ込まれた棒を取り出す。

 先端が球形で、口の中にリンゴのような風味の甘い味が広がった。


「アメ玉?」


 不思議そうに見つめるユウヤだった。

 黄島はいつこのアメを取り出したのだろう?

 ふとユウヤは、まだコノハの頭を掴んでいる黄島に視線を向けた。

 先ほどと変わらないように見えるが……。


 (あっ……っ!)


 先ほどまで、黄島の口に入れていたアメがなくなっている。

 そのことに気がついたユウヤは、改めて黄島に話しかけようと、一歩前へと出た。


「ユ〜ウ〜ヤ、く〜ん」


 黄島の頭だけが動き、ユウヤに顔を向ける。

 やはり笑顔のままだが、言外に「細かい事を気にする」と伝えているようだ。


「わ、わかりました!」


 反射的に背筋を伸ばし直立の姿勢をとったユウヤは、そのまま回れ右をすると、席へと足早に移動した。


 閉じていたノートPCを目の前にして、ユウヤは大きくため息をつき脱力する。

 背もたれに体を預けたが、そのままズルズルと滑り落ちていく。

 さすがに椅子から転げ落ちることはなかったが、尻は椅子の端へわずかに乗っかり、頭がヘッドレストに乗っかっている状態であり、非常に行儀が悪い。


「ずいぶんと、ウチに慣れたな」


 通りがかったメンバーがニヤニヤと冷やかしてくる。

 その言葉にだらんと腕を上げて答えたユウヤだが、態度と裏腹に目から真剣さが抜けていない。

 たまたまとは言え、貰ったアメ玉の味が、思考をリセットしてくれた。


(部内はいつもどおり、でも状況はマズイな……)


 口をモゴモゴさせながら、視線を左右に動かす。

 いつもの緩い雰囲気ではあるが、熱心に作業をするメンバーの顔が映る。(相変わらずじゃれている約2名は除く)


 だがユウヤは、今その雰囲気にのまれる訳にはいかなかった。

 一昨日の件を考えれば……。


 ***


 広い会議室に、スーツ姿の社員が集まってくる。

 その顔は一様に引き締まっており、緊張感が漂う。

 元より決して気楽な会議ではないが、普段に比べても皆の表情は厳しい。


「それでは今週の定例会議を始める」


 会議室の中央に座る営業部長、十鳥(とっとり)の声が響く。

 一同の視線が集まる中、十鳥は軽く咳払いする。

 彼の背後に設置されたモニターが明るくなり、資料が表示される。


「みんなも知ってのとおり、大口の取引先だった二階堂興産が債務不履行(デフォルト)になった」


 全員が既知の事実とは言え、改めて宣言されるとユウヤも心穏やかではいられない。

 人知れず机の下で握っていた拳が、汗でぬかるんでいき、喉も渇いてきた。

 周囲も多かれ少なかれ同じなのだろう、全員が黙って十鳥の言葉を待っている。

 そんな中で十鳥は、集まる一同を見回すとゆっくり言葉を続けた。


「二階堂興産の不履行が、すぐに我が社の経営に影響を与えることはない」


 その言葉にわずかに安堵のため息が漏れる。

 おそらく新人たちであろうとユウヤは感じていた。

 まずは当たり障りのない話から始めるのが、部長の話し方。クセと言ってもいい。

 だから、ユウヤは続く言葉に警戒していた。


「とは言え、大口顧客であったことは間違いない。」


 十鳥は語りながら、ゆっくりと眼鏡のブリッジに中指を当てて位置を直す。

 眼鏡の奥で瞳が鋭く光を放ったような気がした。


「ウチを含め事前に話を聞いていた会社はある。だが大半の中小企業が昨日初めて聞かされた状態だ」

「つまり、二階堂と取り引きしていた会社に営業をかけろと?」


 不意に話が遮られる。

 十鳥を含め、室内全員の顔がそちらに向けられる。

 発言した本人。倉科の厳つい顔は不敵に口元を歪めていた。


「倉科、君が優秀なのは分かっているが、無茶はするなよ?」


 十鳥が指でテーブルを小刻みに叩きながら、「この前の件もあるんだ」と付け加える。

 しかし、倉科は平然とその視線を受け止める。

「同じミスはやりません。それより重大なことがありますよね?」


 ニヤリと口の端を引きつらせる。

 まるで全てお見通しと言いたげな凄絶な笑み。

 見ればハッタリかも知れないが、真正面から上司に挑発紛いの言動をする。

 豪腕営業マンとはこういうタイプなのだろうか。

 しかしユウヤは自分にはとても真似できないと思い、手元のPCに目を向ける。

 なにか見落としていないかを確認するためだ。

 

「ん……?」


 ふと、ある行に書かれた一文がユウヤの目に留まる。

 それは項目の見出し。

 書かれていたのは一言。


『会社組織再編の可能性』

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