表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第6章 君のやりたいこと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/50

第46話 今さらOJT!?

「ということで〜」


 コノハのハキハキした声が講堂内に響き渡る。

 ユウヤがこの場所に来たのは、社内コンペ以来だった。

 自分たちが負けた場所である以上、気持ちのいい場所ではない。

 ……そのはずだが、コノハは気にした様子もなく壇上に上がり話を始めた。


「なあ」


 喜色満面の笑顔で話を続けるコノハに対し、最前列に座るユウヤは不機嫌そうに片手を上げた。


「なにかな?」


 話をさえぎられたにもかかわらずコノハは変わらない調子で応える。


(絶対、何か企んでる)


 嫌な予感を感じつつも、表向きにはなんとか平静さを取り戻した風に装おうと口を開いた。


「なんで講堂を使うんだ?」

「せっかくのOJTだし、雰囲気よ雰囲気!」


 全く答えになっていない回答に頭を抱えたくなる。

 だがユウヤはポーカーフェイスを続けながら、右隣をチラリと見る。

 そこには緑谷が、座ってコノハのほうを見ている。

 その顔は微笑んでいるように見えるが、何を考えているかは読み取れない。

 緑谷に対する不信感がぬぐえない以上、ユウヤは彼の態度も不安であった。

 だが今はコノハの真意を問いただすのが先だ。


「OJTっていうなら、それはオレの担当だぞ?」

()()()()()()ならそうだけどね」


 ユウヤの指摘にコノハは胸をそらし答える。

 やはり何かろくでもないことを企んでるなと、ユウヤは心の中で嘆息する。

 そんなユウヤの心を知らないコノハは話を続ける。


「今回は、あなたたち三人にOJTを受けてもらいます!」

「うえええぇぇぇ!?」


 壇上で腰に手を当て、得意満面にコノハが宣言したと同時にユウヤは思わず声を上げて席から立ち上がった。

 半出向から数ヶ月も経っているユウヤにしてみれば今さら感が強い。


「ち、ちょっと待ってくれ、なんで今さらオレもなんだ?」

「もっちろん! いい機会だから、ユウヤも教育受けるのよ!」


 躊躇なく言い切るコノハを目にして、力なくユウヤはうなだれた。

 調子に乗ったコノハが他人(ひと)の言うことなんて聞くわけがないことは、十分に理解している。


「お、お兄ちゃん……」


 そんなユウヤに左側からか細い声が聞こえる。

 視線をそちらに向けると、緊張のあまり座りながら硬直していたスズナが、不自然なほどぎこちない動作で首だけユウヤの方へ向けていた。


「オージェーティーって、なに?」


 不安と物を知らない恥ずかしさで、今にも消え去りそうな声になりながらスズナは尋ねてくる。

 その姿を見て、ユウヤは一瞬にして冷静さを取り戻した。

 根っからの兄貴気質である。


「OJTってのは簡単に言えば新人研修だよ」


 先ほどまでと変わり、落ち着いた口調でユウヤは答える。

 あくまでも大したことではないといった風で伝えたつもりなのだが、スズナの顔はさらに不安でいっぱいといった表情になっていく。


「し、新人研修っていうと、山奥の施設に閉じ込められて、朝イチでマラソンさせられた後に大声で社訓を暗唱させられるとか……」


 どうやらスズナは、とある大手の新人研修風景を何かで見たらしく、その苛烈さを『新人研修』という言葉で思い出してしまったのだろう。


「どこのブラック企業だよ……」


 思わずユウヤは真顔で小さくつぶやくが、すぐに笑顔に戻る。

 この辺りの顔芸はさすが営業マンである。


「大丈夫。ワグテイル(うち)はそこまで体育会系体質じゃないし、やる事は実務研修だから」


 穏やかな声で語りかけるユウヤ。

 ここが自宅かスズナの家なら、彼女の頭を撫でていそうな雰囲気である。


「ふ〜む、『お兄ちゃん』ということは、彼女は蒼馬さんの妹さん? あ、でも名字が違いますね……」


 横で成り行きを見ていた緑谷が、唐突に口を挟む。


「い、いや。これには訳があって、詳しくは後で話しますから!」


 穏やかに語る緑谷だが、ユウヤは勢いよく振り向くと口から泡を飛ばしそうな勢いで制止する。


「それで、俺たちはなんで呼ばれているんだ?」


 ユウヤたちがドタバタとしている後ろから声がかけられる。

 そこには黒瀬が鼻筋にしわを寄せながら、両腕を組んで座っていた。


「せっかく講堂借りたんだから人が多いほうがいいかなって、ね?」


 笑顔で即答するコノハに、黒瀬はさらに眉を歪ませるが、ユウヤとは異なり席を立ったり声を荒げることはしなかった。


「くくくくっ」


 そんな黒瀬の横から忍び笑いが聞こえてくる。


「黄島〜、笑い事じゃないぞ……」

「『重要な作業時間がなくなるんだぞ!』ですか先輩?」


 横目で睨みつけてくる黒瀬に対し、1つ席を空けて座っていた黄島が言葉を被せてくる。

 言いたいことを先に言われ「ぐぬう」と言葉を吐き、そのまま黒瀬は沈黙した。


「それなら、なんで私は後ろの席なのかしら?」


 黄島のさらに右隣から穏やかな声で質問が飛んだ。


「ああ、お義姉ちゃん……じゃなくて、小豆さんは一応経験者だから」


 そう言いつつも、コノハは少しバツの悪そうな表情を浮かべる。


「な〜んだ、てっきり私だとコノハちゃんが指導しにくいからと思ったわ?」


 タイトなスーツ姿の小豆は小首を傾げながらニッコリと微笑む。

 その笑顔を見たコノハが額に一筋の汗を流しつつ、「うげっ」とこっそり呻いたのを聞いたのは誰もいなかっただろう。


「おねえちゃん……、こっちもか」


 騒ぎの中、顎に手を当て一人考え込む緑谷。


「ああ、また勘違いしてる! いや、こっちは合ってるのか」


 考え込む緑谷を見て慌てるユウヤは既に正常な判断が効かず、一人ボケツッコミをしてしまう。


 ええい。もうどうにでもなれ!


 半ばヤケになったユウヤはコノハに鋭い視線を向けた。

 しかし、コノハはその視線を平然と受け止めながら、いつもの様に笑みを浮かべている。

 その力強いまでにふてぶてしい表情で、腕を組んでいる。


「フッフッフッ……」


 肩を揺らしながら話し始めるコノハ。

 そのわざとらしい態度に全員の視線が集中する。


「この試練(OJT)が終われば、ようやくね……」


 目を閉じ、わずかにうつむきながら誰とはなく語り始めるコノハだったが、次の瞬間、正面を向き目を見開いた。


「そう、わたしの手の中に!」


 席に向かい勢いよく指を指すコノハ。

 その指の先には先ほどから立っていたユウヤがたまたまいた。

 唐突に指を向けられたユウヤがカクカクと不自然な動きで2歩後ろへと下がると、椅子に足を取られて後ろへ尻もちをつくように座った。

 対するコノハもその姿勢のまま固まっていた。

 よく見ればわずかに口元をひくつかせており、耳のあたりもわずかに赤い。


「あ、べ、別にユウヤだけのことを言ったんじゃないわよ、こ、ここにいる全員がわたしの手下になるって話で!」

「「誰が手下だ!!」」


 慌てたように早口でまくしたてるコノハに対し、ユウヤと黒瀬の反論がハモった。

 それを見て、黄島がバンバンと前の席を叩きながら大笑いし、小豆も口元に手をあてて静かに笑う。

 スズナはまだ固まったままであり、黒瀬は呆れたように大きくため息をつきながら座った。


「やれやれ、なかなか元気で愉快な職場だね」


 眉を寄せ呆れたようでありながら、どこか楽しげに緑谷は呟いた。

 その声が聞こえないコノハとユウヤは、大きな声で子供じみた言葉の応酬を重ねていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ