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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第6章 君のやりたいこと

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第42話 問われて飛び出て

「いや〜、ようやく体調戻ったよ~!!」


 とても二日酔いだったとは思えない元気な声が響いた。


「おや、もういいの?」


 間髪入れずに小豆が答える。


「まぁねえ〜、ってええ!?」


 コノハが何気なく答えた後に叫ぶ。

 同じ反応は、今日になってすでに何回目だろうか。

 すでに周りの人々は慣れてしまったのか、一瞬顔を上げるとすぐに作業に戻っていた。

 人間の順応とは恐ろしい……。


「どっ、どどどど、どうしたのお義姉(ねえ)ちゃん!?」


 小豆の元へとすっ飛んでいくコノハだが、小豆はそれを手を挙げて制する。


「はいはい、慌てない」


 その言葉にコノハは慌てて止まる。

 それを見て満足した小豆だが、すぐに眉間にしわを寄せて鼻をひくひくさせる。

 そのままデスクに置いておいたスマホを持ち上げる。

 そして、手早く何かを打ち込むと画面をコノハに見せる。

 初めは興味深そうに目を光らせて、スマホを覗き込んだコノハの顔が見る見る青ざめていく。


「ち、ちょっと失礼〜!!」


 一言そう言うと慌ててオフィスから出ていった。

 その後、わずかだが深酒特有のアルコールの臭いがユウヤの鼻をついた。


 しばらくして戻ってきたコノハは、居心地悪そうにデスクに着く。

 そのままノートPCを起動させつつ、顔を袖口に当てる。


「大丈夫、ほとんど臭いは消えてるよ」


 隣で少しぶっきらぼうに言う。


「完全に消えてないんじゃ〜ん」


 悲しそうな顔で文句を言う。

 普段ならさらにユウヤが返してくるのだが、今日は特にリアクションなし。

 

 「ん、どうしたの?」


 先ほどまで自分に染み付いた臭いを気にしていたのに、コノハはユウヤに近づく。

 やはりユウヤの反応は薄い。

 そんなリアクションのなさにコノハは少しいたずら心を刺激された。

 なんとしてもユウヤを、自分の話題にのらせようとなったのだ。


「もしかして……、緑谷ヒサシって人のこと?」

「っ!!!」


 効果は抜群。

 慌てたユウヤが驚いた表情でコノハを見る。


「な、なんでそう思うんだよ!」


 思わずユウヤは声を荒げる。

 しかし、その反応はコノハにとって想定内だったらしい。

 目の前で叫ぶユウヤを前にニンマリと笑っている。


「ず・ぼ・し、なんだ〜」


 そう言うと楽しそうにくるっと回りながら、一歩後ろへと下がる。


「コノハちゃん、遊んでいたらダメよ〜」


 小豆の声が響く。

 だが彼女は自分の端末に目を向けたまま動かない。

 ただその目だけが、忙しくモニターに映る文字を追っていた。


「これも仕事のうち〜」


 そう言いながら、さらにもう1回転。

 楽しそうにスカートの裾を翻し回っているコノハを見ながら、ユウヤは「まだ酔っているのでは?」と思った。

 だがそんな思いも、先ほどのコノハの言葉を思い出すと吹き飛ぶ。


 緑谷ヒサシ。

 忘れるはずもない。

 あの男の一言がユウヤの初の商談成功を阻んだのだ。


 ***


「そのシステム、我が社の環境には合わないね」


 商談の最後、契約書を手渡そうとした際に発したその言葉に会議室の空気は凍った。

 まだ慣れないスーツに着られているようなユウヤにとって、続く言葉はトドメに等しかった。


「君は、相手のこと考えて提案したのかな?」


 辛辣な一言を放ったその男の顔には何の表情も浮かんでいなかった。

 ただ、値踏みするかのような両目がユウヤに向けられていた。


「りょ、緑谷君、これは既に両社間で合意した内容で……」


 先方の担当者が慌てて割って入る。

 彼にしても既に社の認可を取ったシステム導入にケチが付けば来期の評価に響くのだ。


「これは()()()()だ」


 最後にそう言った緑谷が席を立つ。

 会議室を出ていくその姿を誰も止められなかった。

 その騒動で頭の真っ白になっていたユウヤが気がつけば、契約の件は持ち越しになっていた。


 ***


 物思いに耽りながらモニターを見ていたユウヤだが、視線を外すと大きく伸びをした。


(これは君の問題だ)


 緑谷の最後の言葉は今でも心に残っている。

 だが、自分の問題となる以前に、客先で満足に受け答えができず、ほどなくユウヤは二階堂興産の担当を降ろされたのだった。

 その後、元の内容のまま契約が成立したと聞いたユウヤにとって答えはおろか、ただ緑谷に対する敗北感だけが残されたのだった。


 しかしそうなってくるとなぜ緑谷がこれまでのキャリアとは異なる、ゲーム部門ワグテイルプロジェクトの門を叩いたのかが気になる。

 とりとめもない考えがユウヤの心を占めていた。


「と、こ、ろ、で」


 一人沈痛な面持ちのユウヤに、突然声がかかる。

 ユウヤは我に返り振り向く。

 そこには、先ほどのコノハと同じほどの距離に黄島の顔があった。


「黄島さん?」


 思わずユウヤは後ずさる。

 黄島の顔は笑顔だったが、なぜか迫力があったからだ。


「物思いにふけるのはいいけど、仕事しよ?」


 笑顔のまま放つ言葉は迫力があった。

 その迫力に、思わずユウヤは顔をそらす。

 ふと小豆と目が合った。

 だが小豆はユウヤと目が合ったことに気がつくと、親指を上に上げウィンクを返した。


(健闘を祈る!)


 言外に伝えるそのサインを見つつ、ユウヤの望みは絶たれたような気がした。


 いったい、オレが何をしたって言うんだ……。


 などと考えるユウヤに、今度はコノハが肩を叩く。


「とりあえず、頼んでおいたヤツ出来てる?」


 楽しそうに聞いてくるコノハに、ユウヤはようやっと我に返った。


「ああ、遷移図なら、だいたい終わってるよ」


 そう言いながら、デスクの端末を叩く。

 すると画面上に表示される表計算ソフト。

 そこには幾つもの四角と、それを結ぶ線が描かれていた。

 四角の1つ1つには『トップ画面』や『編成画面』、『MAP』などと書かれていた。


「うんうん、いいじゃん!」


 さっと目を通したコノハは満足そうにうなずく。

 その反応にユウヤは心の中で肩を撫で下ろした。


「各ページへの遷移に不足なし、画面要素も揃ってる」


 指を折りながら改めて確認するコノハ。

 いつの間にかその表情は真剣そのものとなっていた。

 ユウヤも先ほどまでのことを忘れたかのように、自作の図に見入っていた。


「すごいじゃない。元営業が初めて作ったとは思えない!」


 コノハはユウヤに素直な感想を告げる。

 しかし、ユウヤの表情はやや険しい。


「こんなんでいいのか?」

「?」


 ユウヤのその言葉に、コノハは不思議そうな顔をする。


「いや、あんだけしっかりした仕様から作ったのに、いつもと同じ雑な図だから」

「フフ……」


 不満そうにするユウヤを見て、コノハは少し笑いがもれる。

 思わずコノハの方を向いて「んっ?」とさらに不審げな表情になるユウヤはさらに何か言おうとするが、コノハは遮る。


「いいのよ。これはメンバーが分かればいいんだから」


 コノハの言葉にユウヤは納得し表情を少しだけ和らげると、すぐに次の話題に移る。


「なら、次の段階か?」

「そ、そうねぇ……」


 途端にコノハの言葉の歯切れが悪くなる。

 どこか目が泳ぎ始めたコノハを、ユウヤは不思議そうに見る。

 その視線に耐えきれなくなったかのようにコノハは、ため息をついた。


「はぁ〜、分かったわよ……」

「心底嫌そうだな?」

「今のあんたに説明するのが面倒くさいと思ったの!」


 なんとなく険悪そうな雰囲気に周囲が、一瞬コノハたちを見る。

 だがほとんどはいつものことかと顔を戻し仕事に戻っていく。

 ユウヤも大半のことなら聞き流すようになってきていたのだが、理由もなくこのようなことを言われればスルーすることもできなかった。

 なのでユウヤ自身、怒りはしなかったが、非難するような目線をコノハに送った。

 コノハはコノハでユウヤを睨み返し、一触即発。

 いつぞやのように大きなケンカが起こるのではと思う人々の中、声が響いた。


「こ~ら! 二人とも喧嘩している場合じゃないでしょ!?」


 二人を諌める声の主は、掛けていた少し色の入ったメガネを取り外しながら近づいてきた。


「でも、お義姉ちゃん……」


 コノハが反論しようとする。

 すると声を掛けた本人。すなわち小豆カナエはニッコリと笑顔を向ける。

 包容力の代名詞とも言われる小豆の笑顔だったが、よく見れば目は笑っていない。

 その無言の圧力に気圧されたコノハが沈黙。


 続いて小豆はユウヤの方を見る。

 しかし既にユウヤは頭を下げていた。


「無用な騒ぎを起こしてすみませんでした!」


 営業先でミスったときのように深く頭を垂れた姿で謝罪の言葉をつむぐユウヤ。

 なぜかわからないが、そうしないといけないと思い必死に頭を下げ続ける。

 その背中を冷たい汗がわずかに伝う。


「もう、仕方ないなぁ……」


 少し困ったような声を聞いて、ユウヤは顔を上げた。

 そこには小豆が少し困ったような表情でメガネをかけ直すところだった。

 ちなみに先ほどまでの謎の圧力も消えていた。


「ともかく、コノハちゃんはしっかり説明して、ユウヤ君は心外でも怒らないようにね?」


 いつもの笑顔に戻った小豆はそれだけ言うと、席へと戻る。

 あとに残された二人は、顔を見合わせるが少し気まずい空気が漂う。


「こ、今回はわたしが悪かった……」

「お、オレの方こそ理由も聞かずに……」


 同時に発された言葉は、お互いの言葉に打ち消されるように尻切れトンボになる。

 それでも二人は頭を下げ「ごめん」と小さく謝り合うのだった。


「それで……」


 しばらくして、顔を持ち上げつつユウヤが声をあげる。


「次の段階はどうするんだ?」


 それまでと違った真面目な声に戻りつつ尋ねる。

 まだ一瞬コノハは言いにくそうにしたが、決心したように答える。


「次の段階は制作者、つまりプログラマーやUIデザイナーとの打ち合わせよ」


 その言葉でユウヤは、コノハが言いたくない理由に納得した。

 昨日の件をコノハが覚えていたからだ。


「あ、あ~、余計な気を使わせちゃったな?」


 ユウヤは申し訳無さそうに声をあげる。

 これは自分でかたを付けるべき問題なのに、余計な気を使わせてしまったのだ。


「彼との件はオレ自身で決着をつけるから、コノハそのまま進めてくれ。採用決定ならそれでも構わない」


 会社として緑谷ヒサシが必要なら採用すればいい。

 これはオレの心持ちの問題なんだ。


 ユウヤは心の中でそう繰り返す。


「ホントに大丈夫?」


 念を押してくるところを見ると、採用はほぼ確定なのだろう。

 なので、ユウヤは素直に答えることにした。


「正直、緑谷ヒサシと上手くやれるかは分からない。だけど昔のこと、もう一度確認してみることにする」


 ユウヤはそう言うと大きく伸びをした。

 そして、言葉を続ける。


「なんで、あんなタイミングでご破算になるようなことを言ったのか、オレへの質問の意味は何だったのか……」

「……まあ、頑張りなさい」


 どこか清々しい顔でそう言うユウヤに、コノハは少し苦笑し答えた。

 その言葉に少しユウヤが、ムッとした顔をしたとき、オフィスのドアが開いた。


「お、おはようございます!」


 慌てた様子でスズナが入ってきたのだ。そして……。

 ふと二課の方を見たスズナは、視界に小豆を捉えた。


「えええええええええええっっっ!!!!!!」


 素っ頓狂な驚きの声がオフィスに響いた。

 まだ今日は五嶋や黒瀬がこれから出社してくるはずなので、賑やかな一日になりそうだった。


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