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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第6章 君のやりたいこと

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第41話 出来ることの意義

「ただいま戻りましたっ!」


 ユウヤが朝イチで講読館での打ち合わせから戻ったのは午前10時少し前だった。

 大した内容ではなかったのだが、講読館が比較的近場であることと直接確認したいことがあったため、先方へと伺っていたのだ。

 他のルート営業担当には、リモートや電話、メールで済ませればいいのではと言われることもあるが、セキュリティ商材が元々の担当であるユウヤは目に見えていない問題があるかもしれないと、担当先には足繁く通うようにしていた。

 それは半出向となった現在も同じである。


 結果、特に新たな案件のような大きな収穫はなかったが、細かいが気になる点を見つけることができたので、今後の営業の種になりそうな予感を抱きながら帰社したのだった。


「あれ、ユウヤ君、外出だったの?」

「ええ、直行で担当先に行ってましたよ」


 席に戻るなり声をかけてきた黄島に軽く挨拶を返す。

 その時、気がついたのだが、二課の席には空席が目立つ。

 万年在宅の五嶋や、週に3回出社のスズナの席が空席なのは分かるが、コノハや黒瀬までまだ出社していなかった。


「二人、どうしました?」

「ああ、二人とも()()よ」


 心配しながら尋ねるユウヤを見ながら、黄島は悪戯っぽく笑う。

 そしてグラスを傾ける仕草から頭を軽く叩いた。


「な、なるほど……」


 そのジェスチャーから意図を察したユウヤは少し驚いた声をあげる。

 昨日の歓迎会で飲みすぎて二日酔い。

 黒瀬などはよくバーに通っていると聞いていたのでそれなりに強いと思っていたユウヤには驚きだった。


「先輩はお酒好きなんだけど弱いんだよね〜」


 そんなユウヤを見ながら困ったとばかりに黄島は話す。


「ともかく二人とも午前中は使い物にならないから、一人で片付けられるところから仕事しちゃいなよ」


 そう言いながら黄島は自分のモニターを指さす。

 そこにはコノハと黒瀬の午前半休の届。

 どちらも理由欄には簡潔に「二日酔いのため」と書かれていた。


「はぁ、そうですね。了解しました」


 ユウヤも少し呆れ気味に声をあげた。

 体調管理も仕事のうちと叩き込まれているユウヤにとっては、風邪などの病気ならまだしも痛飲による二日酔いでの体調不良には思うところがあるのだが、これは歓迎会を金曜日に設定しなかった幹事(黄島)にも責任があるので、一旦自分の気持ちは抑えて自分の作業を始める。


「さ〜て、どうしますかな……」


 さっそく、自分の端末の電源を入れながらユウヤは呟く。

 当面やるべきことは各メンバーの仕事を整理し進行計画を立案すること。

 いわゆる制作進行の仕事だ。

 大まかな計画はコノハと話をしている。

 リリースは1年半後、それに向けてシステムの試作つまりアルファ版は半年後までに完成させる算段である。


「とは言え、早く端末クライアント側のエンジニアが決まらないとなぁ……」


 モニターに表示された表計算ソフト上へと書かれたスケジュールを見ながらユウヤはぼやく。

 半年というと短くも見えるが、基礎部分は社内の別プロジェクトからの流用になるので、ゲーム体験の根幹部分であるバトルシステムの開発がメインとなるため、大幅な作業短縮ができるのだ。

 とは言え担当のエンジニア=プログラマーが決まってないため、次のステップである仕様書制作以降が進捗どころか、スケジュールすら真っ白な状態だった。


「緑谷さんか……」


 昨日見たプロフィールを思い出し、言葉が漏れる。

 彼は確かにプログラマーとして優秀だが、性格に不安が残る。

 端的に言えば彼はコノハとは別方向にコミュニケーション下手である。

 ユウヤから見た緑谷のイメージは一匹狼。

 実際に彼が所属していた二階堂興産では、新規導入が決まっていたシステムについて彼がひっくり返してしまったことがあった。

 その際、システムメーカー側と二階堂興産の間を取り持ったのがワグテイルであり、社内の担当がユウヤだったのだ。

 しかし、結果はメーカー側のエンジニアを怒らせてしまい契約はご破算。

 その原因は他でもない緑谷の態度だったため、ユウヤも納得いかない出来事だった。


「仮に彼を入れても、絶対コノハと衝突するよなぁ」


 先々のことをシミュレートし暗澹たる気持ちになったユウヤは今日何度目かのため息をついた。


「こ〜ら、若い者がため息ばかりついていると幸せ逃げるぞ!」


 不意に誰かがユウヤの肩に手を乗せ語りかける。


「そんなに年離れてないんだから、からかわないで……っ!?」


 流れから黄島だろうと軽く手を払いながら振り向いたユウヤは思わず目を見張った。

 それは目の前に立っている人物に心当たりがなかったからだ。


 原色のキャミソールに、スリムストレートのジーンズ。

 ヒールの高いサンダルの先には明るい色のネイルで彩られた足先。

 頭を持ち上げ相手の顔を見れば、化粧は薄めで、青いサングラス。

 髪は後ろでポニーテールに纏めているが、本来はかなり長いことを思わせる。


「ええっと、どちら様でしょう?」


 ユウヤの口から思わず出たのは、凡庸な一言。

 さすがに出向から一月以上経っている。

 そんなユウヤがこの部署で見たこともないタイプの女性の存在に戸惑っていたのだ。


「ん? ……ふふ〜ん、だ〜れだ?」


 ユウヤの戸惑いを感じ取った女性がいたずらっぽく笑い尋ねてくる。

 この言い方、恐らく知り合いなのだろうけどこんな派手めな人は黄島や(方向性は全く違うが)コノハを除けば思いつかない。


「何やってんですか、カナちゃん」


 返答に困っているユウヤを尻目に、相手に気がついた黄島が声をかける。


(カナちゃん? もしかして……)


 その一言にユウヤは引っかかるものがあった。

 でも、しかし……。

 見れば黄島と女性は「イエ〜イ」と笑顔でハイタッチを交わしている。

 まだ疑問は尽きないが、このまま黙っていても間が持たない。

 ユウヤは思い切って答えることにした。


「もしかして、小豆(おず)さん?」


 ユウヤの答えに女性はキョトンとした顔を返す。


(もしかして外れた?)


 その反応にユウヤは少し焦った。

 しかし次の瞬間、女性は笑顔になりサングラスを外した。


「正解! よく分かったね()()()()()


 その言葉にユウヤは大きく安堵のため息をついた。


「でも、すごく雰囲気違いますよ」


 ユウヤは小豆に素直な言葉を返す。

 普段見慣れた彼女はタイトなスーツに身を包み、清楚を絵に描いたような出で立ちだった。

 しかし、前に立つ彼女の活動的な姿は同一人物だと分かった今でも、にわかには信じられなかった。


「普段の服装は会社で支給された制服みたいなものよ」


 ユウヤの疑問を感じ取ったのか小豆は軽く説明を始める。

 ワグテイルでは秘書課が受付も担当している。

 そのため、ある程度着る衣服は決められており、これまで見ていた小豆の姿や行動はその規範に沿ったものであり、今の出で立ちこそ普段の彼女なのだと。


「と言ってるけど、秘書スタイルの時も素じゃない?」


 ニヒヒと笑いながら黄島がツッコむ。

 それに対し小豆は少し恥ずかしそうにしながら笑う。

 その笑みから彼女は間違いなく秘書課の小豆の笑顔であると、ユウヤは確信できた。


「でも今日は何でそんな格好で?」


 ユウヤは疑問を口にする。

 ラフな格好では秘書課どころか、ゲーム開発事業部(ワグプロ)以外での業務なんて不可能だろうから、当然の疑問だった。


「ん? 私は週二でゲーム開発事業部(こっち)での業務に専念するから、問題ないわよ?」

「ええぇぇぇー!!」


 こともなくそう言う小豆にユウヤは思わず声をあげる。

 その声はそれなりに大きかったが、すでに部内ではユウヤは週に数回驚きの声をあげ続けていたので周囲は「いつものことか」と気にしなくなっていた。


「そんなに驚くこと?」


 驚愕の表情を浮かべるユウヤに、小豆は不思議そうに尋ねる。

 その後ろで黄島がうんうんとうなずいているのが見えるが、何に対して同意してるのかユウヤは理解できなかった。


「だって、オレは日に数時間はIT事業部の仕事してるんで……」


 しどろもどろに答えるユウヤ。

 その姿を見て小豆の顔から笑みが消え、真面目な顔になる。

 厳しい顔も素敵だなと一瞬だけユウヤは思った。


 しかしその直後に先日のことを思い出す。

 彼女がレイトと似た冷静な中に熱い炎を宿しているタイプであることを。


「それって、ユウヤくんが『中途半端な人』って評価されているからじゃない?」

「えっ?」


 思わず見た小豆の瞳。

 それは冷たいまでに透き通っており、ユウヤの内面を映し出す鏡のようだった。


「でも、IT事業部に必要とされていることも事実ですし……」

他人(ひと)の事情はどうでもいいの」


 ぴしゃりと小豆は言い放つ。

 その一言にユウヤは言葉を続けられなかった。

 何か言えば他人を理由とした言い訳になりそうだったから。


「あなたの人生よ、自分の行き先は自分で選ばないと」


 小豆はそう言うとユウヤのもとを離れ、彼女に割り当てられたデスクへと向かった。


「オレが何をしたいか……」


 これまで目の前のことで手一杯だったユウヤに突きつけられたそれは、自分が現状を理由に未来から逃げていたことを突きつけられた気がした。


「いや〜、ようやく体調戻ったよ~!!」


 元気かつ呑気なコノハの挨拶が響いたのはその直後だった。


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