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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第5章 これが新規プロジェクトチームだ!!

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第35話 アズキ・イズ・誰?(正しくは「Who is Azuki」です!)

「う〜ん……」


 ユウヤから少し離れた席で黒瀬が頭を抱えていた。


「どうしたんです?」


 ユウヤは思わず読んでいた少年キープのバックナンバーを閉じて声をかける。

 黒瀬と言えば、問題があっても涼しい顔で乗り越えるイメージがあったので気になったのだ。


「そっとしてあげなよ」


 そんなユウヤに黄島が声をかけてきた。

 ユウヤがそちらを見れば「静かに」とばかりに右人差し指を口に当てていた。


「は、はぁ……」


 よく分からないがとりあえず返事をしつつ席に戻る。

 すると黄島が近づいてきた。


「ゴメンね〜ユウヤ君。今日さ、運営元クライアントとバッチバチにやりあってさ〜」


 笑顔ながら困ったなと言うジェスチャーを交えて話す黄島。


「先方となにかあったんですか?」


 『やりあった』という言葉にユウヤは俄然興味を引かれた。

 自分も取引先と口論になったことはそれなりにあるのだが、正直なところ黒瀬がそんなことになるとは思わなかったからだ。


「まあ、詳しい話は避けるけど、原因は君たちかな?」


 身体をやや前かがみにし、右人差し指をユウヤに向けた黄島はニヤリとしながら言った。


「オ、オレ!?」


 自分を指差しながら驚くユウヤに、黄島は大きくうなずく。


「この前の社内プレゼンと、それまでの動きに感化されちゃったみたいでね〜。『最後までユーザーの思い出に残るサービスを続けるべきです!』ってプロデューサーに噛みついちゃったのよ」


 そう言うと黄島は机に手を叩きつけるようにユウヤへと迫る。

 それに対して、ユウヤはわずかに見えそうなブラウスの内側を見ないようにそっと視線を反らしつつ「な、なるほど?」と返す。

 なんだか自分のせいではない感じもするが……。


「ま、打算もあったんだけどね〜」


 ケラケラ笑いながらそう言うと黄島は去っていった。

 そんな先輩社員を唖然とした表情でユウヤは見送った。


「……蒼馬君……」

「ふぇっ!?」


 突如響く地獄の底を這いずるような声。

 その声に弾かれるように出た声は奇妙な音程であり、声を出したユウヤすら驚いた。


「き、黄島の言うことは冗談半分にとっておいてくれ……」


 新たに発せられる声。

 この時になってユウヤはようやく、黒瀬が自分に話しかけていたことに気が付いた。


「だ、大丈夫っすか?」


 思わずでたのは営業課での体育会系のノリの返事。


「だ、大丈夫……、ただ疲れているだけだから……」


 大丈夫と返す言葉もまた地獄の底から響くようでとても大丈夫そうにみえない。

 素直に助け起こすべきか思案するユウヤの前で、黒瀬はデスクに常備されていた栄養剤のアンプルを手にとる。

 そのまま器用に寝そべった状態でアンプルを飲み干す。

 清涼飲料水に比べて少量とは言え、どうやったのかユウヤには理解できなかった。


 アンプルを飲み干し、少し時間が流れる。

 ユウヤとしてもどうしていいのか分からず固まったままでいると、黒瀬は突然上半身を持ち上げる。


「よっしっ!!」

「ぬおお!?」


 そのまるでバネ仕掛けの人形のような勢いに、ユウヤはまた驚く。


「気合いも入ったし、作業に戻るか!」


 そう言いながらストレッチをする黒瀬を呆然と見つめる。


「黒瀬さん……、意外と体育会系のノリなんですね……」

「ん? 気合いだとかは体育会系の専売特許って訳じゃないと思うけど?」


 当然とばかりに返す黒瀬は、そのまま席に座り直す。

 そのままPCに向かうと表示されているシートをチェックする。

 どうやら話しは終わりかとユウヤは自席へと戻ろうとした。


「蒼馬君」


 ポツリと黒瀬がつぶやく。

 ユウヤが振り返ると、黒瀬はPCの方を向いたままだった。


「改めて言うが、黄島の言ったことは真に受けないでいい」


 先ほどと同じ言葉を繰り返す。


「でも僕は、君たちに教えられたことがあった。ありがとう」


 決してユウヤの方を向くことなく、淡々と言葉を連ねる黒瀬。


「だから合流するまで、少し待ってほしい。今は終わるサービスの面倒を最後までみたい」


 それだけ言うと、話しは終わりと言うようにエナジードリンクのフタを開けた。

 その姿を見て、ユウヤは軽く頭を下げる。

 黒瀬の後ろ姿は終わることが確定したとは言え、そのサービスと利用者に最後まで向き合おうとしている事が分かる。

 そのため、ユウヤは彼の姿に敬意を示したのだった。


 短い礼の後、自席へと戻り椅子を引くガラガラという音が聞こえる。

 その音を聞きながらわずかに微笑んだ黒瀬は改めて自分の作業に集中するべく、ヘッドホンを装着しお気に入りの音楽を流した。


 ***


「おい〜す! ただいま~」


 コノハが意気揚々とオフィスに顔を出したのは夕方だった。

 さっそくユウヤに能天気な挨拶をしたが「ああ」と生返事が返ってきただけだった。

 ユウヤの薄い反応が気になったコノハは、ユウヤのPCの画面をのぞき見た。


「うげっ!」


 そこには複雑な回線図が表示されており、横には端末名と思われる名称のリスト。

 その煩雑な内容にコノハは思わず声をあげていたのだった。

 コノハの言葉でのぞき見ていることに気がついたユウヤが後ろを向く。


「他人のPC盗み見なんて感心しないな」


 いたずらを見つけたかのように諭すユウヤ。


「どうせ見たって、IT事業部(そっち)の資料なんて分からないわよ」


 そう返すコノハをユウヤはやれやれといった感じに見る。


「それはそれとして、今の時間まで何やっていたんだ?」


 社内なら見られても問題ではないので資料のことはひとまず置いて、ユウヤは問いただす。

 “資料探し”と社内スケジュールには書かれていたが、具体的な行き先は書かれていなかったからだ。


「創フェスの実行委員やっている知り合いから話を聞いて来んだよ」

「創フェスの?」


 さらりと返すコノハにユウヤは少し驚いた。

 コノハが創フェス関係者に知り合いがいたとは思ってもいなかった。

 元々どの業種でもある程度は横の繋がりがあるものだが、ユウヤから見るとゲーム開発業種は他と比べて横の繋がりが有る者と無い者が分断されているイメージだった。

 そして、コノハに対する評価は後者。

 とにかく自分でできるところまでやろうとするスタイルは余人の介入を拒むように見えたからだ。


「でも、なんで創フェスの関係者と話を?」

「ま、今日その人と会えたのは偶然なんだけどね!」


 その言葉にユウヤの頭に「?」マークが浮かぶ。

 なにか話しが矛盾してないか?


「とはいえ会えたんで、()()()()についてちょっと話を聞いてみたの!」


 勝ち誇ったように返すコノハに、ユウヤは一瞬怪訝な顔をした。

 そんなユウヤに、コノハは意地の悪そうな目つきで見上げる。


「おやおや~、『講読館の方は?』って顔してるねぇ〜」


 鼎アズキが少年キープ掲載作の原案担当だと分かっているのだから、発行元の講読館へ聞くのが早いとユウヤは思っていた。

 しかし、コノハの考えは異なる様子だった。


「鼎アズキは脚本担当を途中で降りてるんだよ。なんか編集と有ったって考えるのが普通じゃん」


 自信満々、そう答えるコノハにユウヤも、一理あると納得しかけた。

 だが疑問がある。


「確かに編集とのトラブルの可能性はあるとは思うが、創フェスの委員に聞いたからってアポとか取れないだろ?」


 それがユウヤの疑問だった。

 その手の催し物の関係者なら、サークル参加者の代表の連絡先は分かるかもしれない。

 だが、フェス関連以外のことで無闇に連絡するのは規約的に問題があるはず。

 ユウヤはそのことを気にしていたのだ。

 いわゆる『収集した個人情報は目的以外に使用しません』というヤツだ。


「当然、直接聞き出すなんて野暮なことはしないよ」

「じゃあ、どうしたんだよ?」


 なぜか勝ち誇ったように返すコノハを疑わしげな目で見る。


「フッフッフッ!」


 もったいぶった含み笑いをしつつコノハは肩から下げたカバンを開き、中から数冊の冊子を取り出した。


「これよこれ! 鼎アズキが参加した創フェスのカタログ!」


 これ見よがしに掲げるコノハ。


「鼎アズキはたまにしかサークル応募していなかったらしいから、スズナちゃんが出会えたのは本当に偶然の賜物よね〜」


 勝ち誇ったように語るコノハは、さあ読んでみなさいとばかりにユウヤに向けて冊子の束を差し出す。


「ん?」


 そこに至ってコノハは気がついた。

 ユウヤの諦めたようにジト目で彼女を見ていたのを。


「な、何よ、顔に何か付いてる?」


 慌ててスマホを取り出しカメラモードで自分の顔を確認する。


「……それだったら、ネット版カタログを確認すればいいんじゃないか?」


 感情のこもっていない声で問いかけるユウヤの言葉にコノハは笑顔を返す。

 ……ただし、その笑顔はぎこちなく、ほおに一筋の汗が流れている。


「そ、それはたまたまよ。」

「たまたま?」


 コノハの答えにユウヤはさらに食いつく。


「セミナーに行ったら、たまたま知り合いに会ったから……」

「なんのセミナーだよ、オレは外出理由聞いてないぞ?」


 さらに追求する構えのユウヤにコノハは一歩後ろに下がる。


「ほら、ゲームアワードジャパン選考委員会のヤツが……」

「あれは次期選考委員会の候補者が対象だろ」


 ゲームアワードジャパン。

 それはその年におけるゲーム業界で注目された作品や人物を選び表彰する、業界のセレモニーである。

 既に30年近い歴史を持っており、選考委員会自体の選出基準が厳しく、国内でもっとも中立性の高いことでも有名だった。

 そのセミナーと言えば、選考委員会に選ばれる可能性のある人だけが参加できるいわば選ばれた人だけの集まりである。

 コノハは『それなりに』有名ではあるがあくまでアマチュアとしての話で、業務実績は皆無に等しい。

 よって彼女自身が呼ばれることはないはずだ。


「レイトさんにくっついて行ったんだろ?」

「うえぇぇ!?」


 一発で見抜かれ慌てるコノハ。

 このあたり彼女の脇の甘さが見て取れる。


「セミナーに参加すること自体は反対しないが、事前に行き先と帰社予定くらい共有しておけよ」

「んん……」


 呆れ気味に返すユウヤへ、なにか言いたげにするコノハ。


「どうしたんだよ?」


 思わず質問するユウヤにコノハは不満そうに答える。


「せっかく、喜んでくれると思ったのに、小言ばっかり……」

「いや、コノハが色々頑張ってるのは分かってるがな」


 やれやれといった感じに返す。

 コノハが努力していることは認めるのだが、どこかズレていることと、ユウヤが詳細を聞き出そうとすると、何故かはぐらかす事が気になっていたのだ。

 前々から気にはしていたのだが、その辺りコノハが周囲から敬遠されている理由だろうと思っていた。


「まあ、データ貰えるんなら、ネットに掲載してない情報も有るかもな……」


 ユウヤが少し考えるフリをしながら答える。

 おそらくは無理だろうと思う。

 もし部外秘の情報を立ち会いもなしに開示したらそれこそ問題だからだ。

 だが、コノハも自分の伝手をたどって調べていたのは確かだ。

 そこは素直に称賛するべきだろう。


「そ、そうだよね! 情報来たら直ぐに渡すから」

「ああ、頼む」


 ユウヤの言葉に、コノハは少し照れたような表情を見せる。

 それを見てユウヤも、笑顔で言葉を返した。


「ただ、もう少し情報が欲しいな……」

「情報?」


 席に戻ろうとするコノハの後ろでユウヤが呟いたことをコノハは耳ざとく拾う。


「いや、ぶっちゃけた話、年齢性別はあまり気にしてないんだが、本人の嗜好、つまりジャンルの得手不得手とか知りたいなと思ってな」

「ああ、確かに」


 ユウヤの言葉にコノハもうなずく。

 今の世の中、作品投稿サイトなど多くある。

 そして創フェス以外にも、一次創作つまりオリジナル作品を扱う即売会なども多々ある。

 しかし、『鼎アズキ』は創フェス以外の活動や投稿などは一切ないため、どうやって少年キープの連載作品の原作脚本にたどり着いたのかも分からないのだった。

 そして、その謎は資料を見ても解決しないだろう。

 悩んでも解決しないことは理解しているが、考えてしまうことは往々にしてある。


「なあ、2人とも」


 そんなドツボにハマりつつあるユウヤたちに声をかけたのは黒瀬だった。


「「はいっ?」」


 思わずタイミングもぴったりに振り返る2人。

 その見事なシンクロっぷりに思わずたじろぐ黒瀬だったが、下を向き咳払いをした後、改めてユウヤたちに視線を戻す。

 そして、2人を改めて見渡すと小さくため息をついた。


「本当に心当たりないのか?」


 静かにそう問いかける黒瀬だが、2人とも目が点になっている。


(これは本当に分かってないな……)


 心の中でもう一度ため息をつくと黒瀬は話し始めた。


「まぁ、|ワグテイルプロジェクト《うち》に来て間もない蒼馬君は百歩譲って仕方ないが、コノハちゃんが知らないのは少し問題だぞ?」


 そう言うと手早く自分の端末を操作し一通のメールが表示される。

 日付は約3年半前。

 送信者は社長である。

 送信先(to)には1つ1つメールアドレスが記載されていることから、メーリングリスト宛てに送られたものではない。

 そして、件名の頭には【機密】の文字。

 つまり社内では社長と受信者たちのみが知る情報だろう。


「あの〜、入社前の情報なんてわたしには分からないですよ?」


 コノハが困ったような表情で疑問を投げる。

 確かに、コノハやユウヤは、入社3年目でありそれ以上前の社内機密文章など見られる訳がなかった。


「このメール自体はな、でも内容を読んでみろ」


 そう言いながら黒瀬はメール本文のある1点を指さす。

 それにつられてユウヤたちはその部分を見た。


「「えええええええええぇぇぇぇぇ!!!」」


 その瞬間、大きな驚きの声が室内に響いた。

 示されたメールの文章にはこう記されていた。


『「エアリアル・レブ」の原作脚本については小豆カナエ君と赤根レイト君の共同作業とする』


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