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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第5章 これが新規プロジェクトチームだ!!

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第34話 アズキ先生ってだれですか?

「あの〜、もしかしたらですけど……」


 歩きながらスズナは遠慮がちに話し始めた。


「この会社にはアズキ先生が勤めているみたいなので、お願いしてみてはどうでしょう?」

「「アズキ先生!?」」


 スズナの唐突な提案に、ユウヤたちは思わず声をそろえて驚きの声を返した。

 そしてユウヤとコノハは何かを考えた後、向かい合い互いの顔を見る。

 その光景を見たスズナは、「我が意得たり」と言わんばかりに笑顔でガッツポーズを決めた。


「……アズキって人、知ってる?」

「全っっ然心当たりない……」


 真顔で見つめ合い、固まる2人。

 そんな2人を「アレ?」と不思議そうに見るスズナ。

 それは世界が固まったかのようだった。


「ま、まあ、ゲーム開発事業部(うち)にいないだけで他の部署にいたり?」

ゲーム開発事業部(ワグプロ)のメンバーのペンネームとか?」


 コノハとユウヤは慌ててフォローに入る。

 しかし何の進展にもならないのは確かだった。


「ねえ、スズナちゃん。アズキ先生について詳しく教えてくれる?」


 コノハはスズナに向かって質問を投げかけた。

 少なくとも、事業部内でアズキと名乗る人物には覚えがなかった。

 そのため詳しい情報を知るにはスズナの記憶に頼るしかなかったのだ。


「そ、そうですね……」


 唐突に問われて戸惑うスズナ。

 彼女にしてみれば、『アズキ先生』の名前を出せばきっとすぐに伝わると信じていたからだ。

 ならばと改めてアズキ先生について思い出してみる。


「先生と初めてお会いしたのは、『創フェス』の時でした」

「『創フェス』って品川辺りで定期的にやってる『創作フェスティバル』のこと?」


 コノハが細かく確認する。

 似た名称の催しが多いため念のための確認だが、それ自体が重要なわけではない。


「はい。3年前、初めてサークル参加した時に隣の席だったんです」

「「うんうん」」


 答えには程遠いが、ユウヤとコノハは相槌を打ち話の先を促す。


「設営準備後にご挨拶したら、わたしの絵をほめてくださって、連絡先を交換したんです」

「スズナの隣だとジャンルは『オリジナル創作』か……その人もイラストを?」


 以前に創フェスについてスズナから聞いていたユウヤだが、ここも念の為に確認。

 それに対しスズナは「ううん」と答える。

 全体的に涼やかな印象のスズナだが、親しい人の前では子供っぽさが表に出る。

 そのギャップに耐えられる奴がスズナと結婚するんだろうなと、ユウヤは兄的目線で考えていた。


「アズキ先生は原案担当での参加だったよ」

「へぇ~」


 詳しいことは知らないので、とりあえず相槌を打っておく。

 後でコノハがフォローしてくれるのを信じてのことだ。


「その後、個人的に創作のことを教えてもらったりしていたんだ」


 どこかウットリとした表情のスズナ。

 それを見たユウヤの胸には、言葉にはできない小さな痛みのようなものを感じた。


「で、具体的にアズキ先生って、どんな事やっている人なんだ?」


 スズナが『先生』と言うくらいだから、きっと何か世に作品を出しているはずだとユウヤは尋ねた。

 そこには対抗心のような気持ちが有ったが、ユウヤ自身はそれには気がついていない。


「えっと、確かマンガ原案やっていたはず?」

「作品とか知らないのかよ……」


 途端に歯切れが悪くなるスズナに、ユウヤは落胆したように言う。


「しょうがないじゃない、連載始めた直後ぐらいは脚本やっていたけど、その話を聞いた頃には脚本も他の人になったって言っていたんだもん……」


 少し拗ねたように返すスズナ。

 そんな2人を見て内心、コノハは頭を抱えていた。


(いくら幼馴染みだがやってこんな、幼いやりとり往来でしなくたって……)


 実際にはこの位、幼い行動をコノハもたまにしているのだが、本人に自覚はない。

 ゆえにそのやりとりに少しムカムカしていたのだ。


「ならさスズナちゃん、掲載誌とかは分からない? そこから確認できるかもしれないから」


 助け舟とばかりにコノハが尋ねる。


「たしか……、キープだったはず……」


 思い出すように、指を顎に当てて考えながら話すスズナ。


「キープって言っても少年か、ヤングかでも随分違うぞ?」


 ユウヤもキープなら講読館のだと、連載マンガを思い出そうとする。

 そんな2人とは別に、コノハはなにか引っかかるものを感じていた。


 最近見たものに、なにかあったはず……。


「あっ!!」


 コノハは思わず声をあげた。


「キープで原案やっていたアズキ先生ってもしかして……」

「心当たりあるのか、コノハ?」


 気になったユウヤが問いかける。


「フッフッフッ……」


 それに対してコノハは腕組みしながら含み笑いを始める。


「その人ならね、ユウヤも知ってるはずだよ~?」

「ん、知人ってことか?」


 もったいぶったいつもの言い方をしつつ、ユウヤを藪睨みに見上げる。


(絶対なんかあるな……)


 ユウヤも警戒を強くするあたり、コノハの扱いに慣れてきている感じだ。


「あ、わからないんだ〜」


 どこか楽しそうにからかい半分の言葉を投げるコノハ。

 これにはユウヤも憮然とする。


「わかってるんなら教えろよ!」

「ユウヤの記憶力が低いだけよ!!」


 少し強気に返すが、コノハはそれより強く返してくる。

 しかし2人ともそこで引き下がる性格ではない。

 互いに睨み合ったまま、引かない姿勢だった。


「ま、まぁまぁ……」


 慌てて仲裁に入ろうとするスズナだが、恥ずかしさで顔が赤くなり、言葉に詰まってしまう。

 ユウヤたちは言い合いに夢中で、いつの間にかロビーに出てきていた。気が付けば、周囲の社員たちの視線が3人に集中している。

 人から注目されることに慣れていないスズナにとっては、恥ずかしい状況だった。


「なんか楽しそうだね?」


 そんな3人のやりとりに割り込むように、不意に声がかかった。

 その瞬間、ユウヤとコノハは睨み合うのを止めそちらを向く。


「お兄ちゃん!」

「レイトさん!?」


 そこにはいつものように微笑むレイトの姿があった。


「大体、話しは聞こえていたけどコノハ、少し意地悪が過ぎないかな?」


 コノハに向かい静かに語りかける。

 するとコノハは先ほどの勢いはどこへ行ったかと思うほどシュンとうなだれる。


(まるで怒られた子犬みたい)


 その姿を見たスズナは、いつも飼い主に叱られてしょんぼりしている近所の子犬の姿を思い出した。

 普段は元気に駆け回っておりいたずらもよくやるが、怒られた時の雰囲気は今のコノハとそっくりだった。


「それに蒼馬君も、元営業職なら周囲をもっと気にしないと」


 続けてユウヤにもやんわりと忠告する。

 特に感情を込めたわけではない言葉だったが、先日の講読館の件を思い出したユウヤもまた恐縮する。


「2人とも、そう遠くない時期にメンバーを率いるんだから、そこは気にしないと僕たちの企画(うち)には勝てないよ?」


 それだけ言うと2人の返事を待たずにレイトは去っていった。


「その、ゴメン……ちょっと調子に乗っていた……」


 即座にコノハが謝る。


「いや、オレこそもう少し考えて話すべきだった、スマナイ……」


 ユウヤも照れくさそうに謝る。

 そのまま2人はお互いの顔を見合わせるが、途端に笑いがもれてくる。

 恥ずかしさと、照れくささを隠したのかもしれないがおたがいの笑顔に許された気分だった。

 それを見てスズナも自然と笑いがこみ上げてきた。

 もっともスズナの場合は身近で真剣になれる仲間ができたことへの喜びの笑いだった。

 上原がダメという訳ではないが、やはりどこか自分の中に壁があった、しかしユウヤはもちろんコノハとも、うまくやっていけそうな気がしたからだ。


「じゃあ、わたしソロソロお暇しますね」


 ひとしきり笑った後、スズナはそう切り出した。


「ゴメンね、変なトコ見せて」


 照れくさそうにコノハが返す。

 それをスズナは「いえいえ」と真面目な顔で否定する。

 それを見てコノハは改めて笑顔になる。


「じゃあ契約関連の連絡は別途するんでヨロシクね!」


 そう言うと右手をさしだす。

 スズナも、その手を両手でつかみしっかりとした握手を交わした。


「じゃあユウヤ、出入り口までお送りして」


 しばらく握っていた手を離すと、ユウヤにそう言ってウィンクする。


「コノハは見送らないのか?」


 唐突に話を振られて驚くユウヤだが、コノハは片手を大きく振りながら何も言わずに去っていってしまった。


「……行くか?」


 一瞬、呆然としたユウヤだがすぐに気を取り直し、スズナに問いかける。


「そうだね」


 そう答えるスズナはどこか嬉しそうだった。


 ***


 出入り口までとは言え、ロビーからでは目と鼻の先である。

 自動ドアをくぐり、少し右に避けたところで二人は立っていた。


「今日はなんか巻き込んでしまったみたいで済まなかったな」

「そんなことないよ、コノハさんに声かけてもらえてわたしも助かったし」


 気遣うユウヤの言葉にスズナは、優しく微笑みながら返す。


「じゃあ、気を付けてな」


 ユウヤが静かに語りかけた。


「うん、契約決まったら改めて会社に来るから」


 スズナも元気に返すと、気がついたように付け加える。


「お兄ちゃんで話すのもいいかも?」


 クスクスと笑うスズナにユウヤは困った顔を見せる。


「な〜んて、冗談だよ」


 笑いながらそう言うとスズナは小走りに走っていった。


「大人をからかうもんじゃないぞ!」


 その背中にユウヤはそう語りかけた。


 ***


「それで、何が分かったんだ?」


 オフィスに戻るなり席に座ったユウヤが、コノハに問いかける。


「ん?」


 そんなユウヤに、コノハは手にしたスティック状のクッキーを差し出す。

 ユウヤはそれを遠慮なく1つつまむと、ひと噛みする。


 パリッ!


 小気味良い音を立ててスティッククッキーが折れる。


「あ〜、あ〜、粉こぼして〜」


 大げさな仕草で折れたクッキーを指さす。


「ちゃんと拾うわ!」


 ユウヤもコノハと同じノリで返し、ティッシュを使い、折れたクッキーを拾う。


「やっぱり、まだ気が付かない?」


 唐突にコノハが問いかけてきた。

 今の話の流れかと思いながら、顔を上げるユウヤ。

 しかしそこにはコノハの真面目な顔があった。

 すぐさま、コノハが仕事モードであることを理解したユウヤは、椅子に座りなおした。


「講読館と言っても、少なくともこの前の件とは関係ない話だよな?」


 ユウヤは暗に情報漏えい疑惑の件ではないことを確認する。

 もし、アレに関わっているなら、そのアズキ先生の話はご破算にした方が安全だからだ。


「違うわよ、もっと前!」


 コノハはそう言うと、レポートの束を差し出す。


「あっ!」


 思わずユウヤの口から驚きの声が出る。

 コノハが出してきたレポート。

 それはプレゼン合戦以前にユウヤがコノハに提出し、プレゼン形式で説明したものだった。


「もしかして……」


 ここまで来ればユウヤも思い当たるモノがあった。

 念の為にレポートを受け取り、最後のページを確認する。


「参考文献」


 そこにはレポート作成の際に参照した本やサイトについて記載が並ぶ。

 その中の『週刊少年キープ』と書かれた項目。

 そのさらにサブ項目に掲載マンガが並ぶ。

 その中の一番上。

『エアリアル・レブ』の項目を確認した。

 そこには作画と脚本担当の名前が並んでおり、その最後には、見覚えのある名前が刻み込まれていた。


「原案:鼎アズキ」と。

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