第28話 オレ達のゲーム開発は前途多難
「今回は完全に僕の勝ちだ」
レイトのその言葉は現実となって現れた。
数十分後にユウヤ、コノハ、レイト、そして五嶋と一色は部長室へと集められた。
「いよいよか……」
ユウヤのつぶやきにコノハも同意すると2人は緊張した面持ちで部長室へと入った。
そして、全員が揃ったことを確認すると浅川は重い口を開いた。
「今回のコンペについて双方の得票は拮抗したが、結果は一課の企画の勝利とする。双方プラントしては甲乙つけがたかった。しかし、一課のプレゼンの実現性及び確実性が評価されての結果だ」
その言葉に喜びの声を上げる者はいなかった。
一色は事前に知らされていたのだが、レイトもまた当然といった顔でいたからだった。
そして、コノハの顔は真っ青になっていた。
正直勝てるかは分からない勝負だったが、自分たちが負けたという事実はコノハには重かった。
その後、コノハとユウヤは自席にすぐ戻ることはしなかった。
勝負に負けたことで自分たちの企画が立ち行かなくなったからだ。
そこで、まずは落ち着くために、2人はカフェエリアへと足を進めていた。
夜にはまだ早いが日は傾き、街路樹から伸びる影以外、カフェエリアに動くものはなかった。
窓際の横一列にならんだ椅子へと座った2人はしばらく無言だった。
「まけ、ちゃったね……」
ようやく言葉が出たコノハの最初の言葉。
それに対してユウヤは「ああ」とだけ答えた。
ユウヤ自身はこれまで社外の入札案件で勝ち知らずだったこともあり、こんな時の自分の対処法は心得ている。
だが、コノハにとって今回は入念に準備をした上での初めての敗北だった。
例えその相手が兄であるレイトであったとしても、その心は穏やかでいられなかった。
それは彼女の小柄な身体が震えているところからもそれは明らかだった。
そして途方にくれた顔には、涙が滲んでいた。
今の時刻は16時過ぎ、午後で一番いそがしい時間帯。人通りはあまりない。
そう思うとユウヤはコノハの頭を抱きしめた。
普通に抱きしめていたら間違いが起こりそうな雰囲気だが、抱きしめなければいけないと考えたユウヤの最大限の行動だった。
コノハはそれに始め驚いたが、やがてその驚きが治まると涙が止まらなくなった。
やがて小さな嗚咽混じりに泣きじゃくるコノハ。
ユウヤはただ、何も言わずに抱きしめるだけだった。
そんな状況が10分は続いただろうか。
コノハも落ち着きを取り戻してくる。
「ありがと、大丈夫」
小さくそう言うとコノハはユウヤの腕の中から抜けた。
今までは誰も来なかったがいつ誰が来てもおかしくはない。
とは言え2人とも話しづらく、かといってその場を離れがたい気持ちだった。
そんな2人にせまる影があった。
「あの〜、お二人さん。そろそろ仕事の話がしたいんだけどいいかな?」
唐突に2人の顔の間から五嶋が顔をだす。
「「!!!!」」
その瞬間、ユウヤとコノハは声にならない悲鳴を上げていた。
***
「そんなに怒ることないじゃない」
五嶋が珍しく神妙な顔をする。
あの後、悲鳴を聞きつけた人々が駆けつけて一悶着があったのは言うまでもない。
結果として総務部から小豆が来たことで騒ぎは沈静化した。
しかしその後、五嶋は小豆から厳重注意を受けることとなった。
「五嶋さんはコミュニケーションのつもりかもしれませんが、これってセクハラ・パワハラ案件ですよ!」
小豆にとってコノハは入社前から知っており、妹のような存在、いや一時期は本当に義妹になる予定だった相手であり、今でも可愛がっている後輩である。
そのコノハを驚かせたのが上司である五嶋だと知って、小豆は雷を落としたのだった。
「とりあえず弁明は後で聞きますので、何がしたかったのかだけ教えて下さい」
言外に「今日は許さない」と匂わせつつ、小豆は五嶋に説明するように促した。
「説明と言うか、プレゼンで至らなかったところが無いかチェックしろって言おうと思ったら2人が……ねぇ?」
五嶋が意味ありげにユウヤを見る。
その瞬間、ユウヤは顔を真っ赤にした。
(すべて見られていた!)
ラインを超えなかったのは正解だったが、それでも気まずい。
そこでユウヤは話題をそらすことにする。
「プレゼンの反省会って、実質企画が動かないのにですか?」
ユウヤは心を落ち着かせつつ質問を投げる。
「蒼馬、おまえは何を言ってんだ?」
それに対し五嶋は訳がわからないという顔になる。
「だから、オレたちの企画は負けたんですよ? 来期の予算無いのに企画は進めらないじゃないですか!」
そこまで聞いて、ようやく五嶋は合点がいったと説明を始めた。
「来期の開発予算が総取りされたからって、別に企画自体が頓挫した訳じゃないぞ」
「「ええっ!?」」
ユウヤとコノハが声を揃えて驚く。
その姿を見て五嶋は(仲がいいなぁ、俺の予想間違っていたかも)と心の中でぼやきつつ、説明を続ける。
「開発予算が無いなら、予備費から捻出すればいい。それでも足りないのなら他のプロジェクトから予算を組み替えを考える」
そう言う五嶋の言葉を聞いてユウヤは自分の迂闊さを恥じた。
勝負に目を奪われすぎて肝心な予算配分の確認がおろそかだったのだ。
「まあ、お前たちが来期に”リリースします”って言うんなら予算は足りないがな」
そう笑う五嶋だが、そうなると別の疑問が湧いてくる。
それをユウヤが口にしようとした時、先にコノハが話し始めていた。
「そうなると、お兄ちゃんは何で今回のコンペを了承したんですか? まったく意味のない争いなのに……」
コノハは自分も考えているのか話がしりすぼみになる。
「そいつには2つ理由があった。1つは予算が足りない向こうのプロジェクトの問題」
「予算が足りない?」
思わずユウヤが身を乗り出す。
確か来期の部の予算はゲームを2つ開発しても余るほどだったのでは。
「それは普通の期間で開発を行った場合だ」
ユウヤの表情を見て話を先回りした五嶋は話を続ける。
「先日、うちも制作委員会に入った以上、アニメの放映とアプリのリリースは近づける必要がある。そうなると開発期間短縮のため人員を大量投入する必要がある」
そう言うと五嶋は「まあ、向こうは火の車だよ」とだけ付け足した。
それに対しユウヤは一番金がかかるのは人件費である事を思い出した。
コノハも感慨深げにうなずいている。
彼女もある程度同じ答えにたどり着いたのだろう。
「一課のことはともかく、二課はお前たちのプロジェクトを中核に再編するからしっかりやって、困った時は俺に相談しろよ?」
「「は、はい!」」
五嶋の激励にユウヤたちは勢いよく返事を返した。
それを見た五嶋はもう大丈夫だろうと思ったが……。
「あと一応言っておくが、あまり職場でいちゃつくなよ?」
「い、つ、し、ま、か、ちょ、う?」
真面目な話の最後にふざけたことで、小豆の逆鱗にふれてしまった五嶋は逃げるようにこの場を去っていった。
「まったく……、あなた達も困ったらちゃんと相談してね?」
小豆は五嶋の逃げ足の早さに呆れつつ、ユウヤたちに声をかけると彼女のもまた去っていった。
結局2人で残されてしまったので、どこか居心地の悪さを感じていた。
「なあ、どうする?」
それとなくユウヤが聞いてみる。
「どうするも無いんじゃない?」
呆れるように答えるコノハ。
だがその声は笑いが含まれており、表情も柔らかい。
「じゃあ、やりますか相棒」
「そうね、相棒」
そう言うと2人は大きく伸びをする。
強ばっていた全身の筋肉が伸びて心地いい。
そして2人はオフィスへと戻っていった。
「さてやるわよ、次はお兄ちゃんをギャフンと言わせてやるんだから!」
「今どきギャフンなんて誰も言わないだろ……」
ブンブンと腕を振り回すコノハにユウヤは笑いながら答えた。
彼らのゲーム開発は始まったばかり。
その道は前途多難であるだろうが仲間たちと乗り越えていくであろう。
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます。
『ワグテイルプロジェクト~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~の第1部「企画始動篇」は今回が最終回となります。
引き続き、29話から第2部「開発始動篇」が始まります。
なんとかプロジェクト存続できたユウヤたち。
次はプロジェクトを円滑に動かすための仲間集め、チームビルディングが始まります。
一癖も二癖もあるキャラクターたちが集っていく話となりますのでお楽しみにして下さい!




