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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第4章 大乱闘!!企画コンペティション

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27/50

第26話 決戦(コンペ)の前夜

「いよいよね」


 それが、その日の最初にコノハから掛けられた言葉だった。

 講読館の漏えい弾劾が解決した後、ユウヤはコノハと共に必死に準備を進めていた。

 プレゼンの内容は固まっていたが、付随する資料、特にメインビジュアルとシナリオ関連は足りていない状態だった。

 いずれもゲームを売り出すにあたって重要な部分であるので、慎重に決めたいところである。

 しかし、無情にも時間は流れていき、どちらも既に決めたところで制作が間に合わない。


「仕方ない、仮の設定はわたしが作るから、ユウヤは生成AIなんかで仮のビジュアルを用意して」


 コノハはそう言うと自分のPCで文章作成ソフトを起動する。

 恐らくある程度の想定はしていたのであろう。

 凄まじい早さで文章を入力していく。

 その姿を見ながら、ユウヤも画像生成AIのサイトを検索する。


「内々のプレゼンと言っても画像の権利関係は注意してよ」

「分かっている」


 コノハの注意に、ユウヤは心得ているというように返答する。

 制作者がいくら注意しても、外部へ出してはいけない画像が貼られてしまう問題はままある。

 100%避けきれないとしても、わざわざそのリスクを負う必要はない。

 そう考えつつ、画像生成に取り掛かった。


「しかし、明日のプレゼンで出してもAI生成の画像じゃ反応は微妙じゃないか?」

「明日はビジュアルなしでもなんとかなるわよ。偉い人向けだから主軸は利益関連が中心だし、イラストよりグラフとかのほうがよっぽど効果的じゃない?」

「確かに」


 コノハの少し皮肉めいた言い方が可笑しくて、ユウヤは思わず笑ってしまう。

 とは言え、明日の結果によって今後の業務が変わってくるのだから真剣に取り組まなくてはならない。

 準備万全とはいかなくても、可能な限り出来ることはしておきたい。

 その思いでPCに向かうと、手慣れた操作でAI向けの指示(プロンプト)を入力していく。

 生成AI向けのプロンプトは基本的に英単語の羅列だ。

 プログラミングやスクリプト制作を少し学んでいるユウヤにとって作業自体に苦はない。

 だが思い通りのイラストが生成されるかは賭けであるため、失敗した時などは始めからイラストレーターに依頼しておけば良かったと思うこともある。

 もっとも今回のような緊急的かつイラストがそこまで重要ではない時や、発注時の大まかな構図やデザインの資料を作る時には重宝しているのは確かだった。

 何度も失敗し、思ったものと違うイラストが出力されるたびにプロンプトを修正していると、コノハが声をかけてきた


「確認なんだけど、講読館に行った時にお兄ちゃんから何か聞いてない?」

「何かってなんだよ?」


 唐突にコノハが主語が抜けた質問を投げてくるので、ユウヤもぞんざいに質問で返さざるをえない。


「お兄ちゃんたちの企画の内容とかね……」


 当然ながらいつものような強気な返答があると思っていたが、返ってきたのは意外なものだった。

 コノハにしては珍しい弱気なセリフ。


「さすがに企画の内容自体が問題だったわけじゃないからなぁ……」


 ユウヤは先日の一件を思い出しながら答える。

 あの時は必死だったが、なんでライバルに塩を送るような事をしたのか。

 我ながら少し不思議だった。

 あの時にレイトたちを助けたからって、昔の自分が救われるわけではないのに。

 そこまで考えた時、ふと自分にコノハの弱気が伝染していることに気がついた。

 コノハの弱気が一時的なものであれば問題ないが、もし明日まで引きずるようなことがあれば問題だ。

 そう考えたユウヤは行動を起こすことにした。


「とりあえず相手の出方を考えても仕方ない。根を詰めて明日に影響がないように程々で上がっておいたほうが良いぞ」


 そして「ちょっと出てくる」と告げるとユウヤはオフィスから出ていく。


「ちょっと、まだ定時じゃないけどー?」


 そう呼びかけるもユウヤの姿は既になく、コノハは仕方ないと自分の作業に集中することにした。

 しばらくして何事もなかったかのように戻ってきたユウヤを見て、コノハは睨みつけた。


「それで、お前は自分の企画に対する自信はどのくらいある?」


 定時も近づいてきた頃にユウヤが口を開いた。


「何よ藪から棒に、そうね……企画自体は十分合格ラインに達していると思う」


 唐突な質問に一瞬考えたコノハだが、はっきりと答えた。

 元々自分が提案した企画をベースとして手直ししてきたのだ、自信がない訳がない。

 本来ならすぐに認可をもらって開発に移れるとも考えていた。


 ……でも……。


「お兄ちゃんが相手だと考えるとまだまだ足りないと思う……」

「後どれだけ足りないと思う?」


 そう答えうつむくコノハにユウヤは改めて質問する。


「そんなの分からないよ……、人間の才能なんて偏差値で計れるものじゃないし」


 今にも弱音で潰れそうな声が聞こえてくる。

 コノハがここまで追い詰められるほどに、兄の存在は大きかったのだ。


「でもオレたちはチームだろ?」


 何気ない一言。

 当たり前の一言。

 だけど今のコノハにとっては重要な一言。


「オレたちは2人でやってきたんだ、お前は1人で戦っているわけじゃない」


 その言葉に弾かれるようにコノハはユウヤの方を見た。

 椅子の背もたれに身体をあずけ、両手を後頭部で組んだ状態で天井を見ていた。

 よく見れば顔が少し赤い。

 自分でも言っていて恥ずかしくなったんだろう。


「……な~に自分でカッコつけて恥ずかしくなってんのよ」


 思わずコノハは意地悪い言い方をする。

 それによっていままで自分にかかっていた圧力(プレッシャー)から解放されたようだった。


 人間生まれた時も、死ぬ時も1人かもしれない。

 でもその間はいくらでも他人と分かち合うものだ。


 昔、誰かに言われた言葉。

 優秀な兄レイトとなにかにつけ比較されることに嫌気がさして、逃げ出した先で言われた言葉。

 あの時は素直に聞くことができなかったが、今なら素直に受け取れる気がした。


「ほらっ」

「えっ、ちょちょちょっと!」


 過去の余韻に浸るコノハにユウヤは何かを投げてよこした。

 慌てて受け取ったコノハは、手の中にある小さな箱に目をやる。

 包み紙には最寄り駅に隣接するデパートに入っているアクセサリーショップのロゴが記載されている。


「なにこれ?」

「オレたちが仲間の証」


 ぶっきらぼうに答えたユウヤは左腕を持ち上げる。

 そこには先ほどまで無かった四角い小さなカフスボタンが輝いていた。

 それを見たコノハ「開けるわよ」と断りを入れつつ包装紙を広げ、中の箱を開ける。

 そこにはユウヤのカフスボタンと同じ意匠のバッチが入っていた。


「お前は私服だから、バッチのほうが合わせやすいだろ?」


 そう言いながらユウヤは天井を見続ける。

 正直コノハが指摘するまでもなく、ガラにもないことをしている自覚があり恥ずかしすぎてコノハの方を見ることができなかった。


「……」


 コノハが何か言いたそうな雰囲気が伝わってくる。

 それが気にかかり、ユウヤは横目でコノハを見る。

 箱を胸に押し付けるように抱きかかえるコノハが瞳に写った。

 その表情はいつもの勝ち気なものや、先ほどまでの弱気なものでもなかった。


「……気に入ったか?」


 コノハが話さないため、間が持たなくなりユウヤは無粋と思いつつも言葉をかける。

 するとコノハはいつものようにニヤリとに笑った。


「わたしは物で釣られるほど安い女じゃないんだけど?」


 笑い声と一緒とは言え、そのあまりの言葉に思わずユウヤは椅子から滑り落ちた。


「お、お前なぁ……、せっかく人が気を使っているってのに……」


 立ち上がりながらユウヤは反論するが横から黄島が参戦してくる。


「いや~、女心をバッチ1つでどうにかしようなんて、じっっつに虫がいいね~」


 両手を組みながらうなずく黄島の顔は、コノハ同ようにニヤニヤしており、ユウヤはさらにげんなりした。


「いや、下心とかではなく純粋に励まそうと思ってですね……」


 ユウヤはあらぬ方向へと向かう話に必死に弁明をする。


「なるほどなるほど、コノハを励ましたいと。ならば今日はユウヤくんの奢りで決起集会だ!」

「あっ!いいね!わたし焼き肉がいい!!」


 勝手に盛り上がる黄島とコノハ。

 必死に止めようとするユウヤだが、確定事項として進む話に何処か諦めに近い心情だった。


「分かりました、分かりましたよ。でも高いところはダメですからね」


 半ばヤケになりながらユウヤは答えた。

 その瞬間、2人は「ヤッター!」とはしゃいでいるのを見つつ財布の中身の紙幣を数えだした。

 そんなユウヤを横目で見たコノハが穏やかな笑顔を見せ口を動かした。

 その言葉はユウヤの耳には届かないが「ありがとうね」と言っているように見えた。

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