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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第4章 大乱闘!!企画コンペティション

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20/27

第19話 風雲児、帰還する

 午前10時。

 ゲーム開発事業部ワグテイルプロジェクトのメンバーが出社する頃、ユウヤは既に席で仕事を進めていた。

 社内コンペの公示から2日、まだまだ内容を詰めきれていないのでそこを固めるための打ち合わせが必要だが、そのためには資料をまとめておく必要がある。

 以前、コノハに教わった要素分解にて把握を進めるにしても、資料を整理しておく必要があるのだ。


「朝早くから勤勉だねぇ、ユウヤ」


 突然、声を掛けられる。

 いつものことであり、すでに慣れっこになっていたユウヤは椅子を回転させて振り向く。

 そこには近所のコーヒーショップで購入したアイスカフェラテのストローを口につけて立っているコノハの姿があった。


「朝早いって時間でもないけどな」


 軽口で返すユウヤに向かって、コノハは口を使ってストローの先を向ける。

 わずかにストローについた水滴が飛んでくるのをユウヤは慌てて避ける。


「や、やめろ。今日はこれから営業同行なんだから、スーツを汚すわけにはいかないんだよ」

「同行営業?」


 ユウヤの言葉にコノハはストローを手でつかみ容器に戻しながら、疑問を口にする。

 ユウヤにとっては日常的な言葉であるが、コノハにとっては聞きなれない言葉であった。

 もちろん言葉の意味は分かるが、ど新人でもないユウヤが他の人の営業に付いていく理由が分からなかった。


「ルート営業の先を担当して欲しいって話しが来てるんで、その為の顔合わせだな」


 なんてことない世間話のように話すユウヤに対し、コノハは眉間に眉が寄っている。


「ん~~……」

「何か気になることでもあるのか?」


 ユウヤがデスクに置いてあった缶コーヒーを手に取りながら聞く。


「気になるというか、訪問先を増やして二課こっちの仕事おろそかにならない?」


 その言葉でコノハが気にしていることが理解できた。


「こちらの業務に影響は出ないようにするさ」


 あくまで軽く返すユウヤだが、内心では今回の件を重要視している。

 もちろん、メイン業務であるゲーム開発事業部でのコノハのサポートを怠る訳ではない。

 むしろその為にも今回の件は引き受けていた方がいいだろうと、先日自ら倉科に相談を持ち掛けていたのだ。

 最も翌日に先方へ訪問することになるとは思いもよらなかったが……。


「その辺り分かってるなら多くは言わないから、帰ってきたら打ち合わせやるわよ」

「りょ〜かい」


 言われるまでもない。

 帰社後にコノハと内容について詰めるつもりだったので、ユウヤは軽く流した。


「それじゃ出かけてくるんで」


 昼少し前、ユウヤは時計を見つつ立ち上がった。


「はーい。いってらっしゃーい」


 黄島が生返事を返すのを聞いて、ユウヤは何気なく隣の席を見る。

 それまで集中していたため気が付かなかったが、いつの間にかコノハが席を外していた。


「…………」


 声もかけずに席を外すとは珍しいと、少しの間だけ空席の椅子を見つめていたユウヤだったが、すぐに歩き出した。

 勢いよくオフィスの扉を開き廊下へと出る。

 倉科とは道の途中で合流する予定のため、ユウヤは急ぎ足でその場を後にした。


***


 自動ドアが音もなく静かに開く。

 そこに広がるのは、小さな戸建てなら1軒まるまる収まる程の広さのロビー。

 そこに一歩足を踏み入れるとなんとも懐かしい雰囲気だった。

 たった2年間離れていただけなのに、なんとも言えない懐かしさを感じる。


「何も変わってないな」


 小さな声で感想を口ずさむ。

 こんな感慨を持つということは、それだけ自分が年をとったということだろうか?


 だとしても感性だけは枯れてほしくないと思う。

 ともかく、自分の部署へと足を進める。

 構造も変わっていないので迷うはずもない。

 行き交う人は、……まあ元々部署外との交流が少なかったので変わっているかは分からない。

 そんなことを考えるのは、やはり自分は歳を重ねたのだろう。


「あっ、はい。これから向かいますので駅の改札で待ち合わせで。はい!」


 ふと向かいからスマホで電話連絡しながら駆けてくる青年がいた。

 この奥は自分の所属するゲーム開発事業部のオフィスだけだ。

 しかし、駆けてくる彼はスーツに身を固めた営業マンにしか見えない。


ゲーム開発事業部(うち)に営業なんて入れていただろうか?)


 横を駆け抜けていった青年を横目で見ながらそんな事を思った。

 ともかく、今はオフィスで次の仕事の準備を始めるのが先だ。

 ザックリとした話しは聞いているがなかなかに問題が有る案件だったが、だからこそ彼の闘志は静かに燃えていた。


 昼休み少し前のやや緩んだ雰囲気の中、オフィスの扉が開いた。

 皆、休憩から戻ってきたメンバーだろうと思い、特に気にもしていなかった。

 しかし、その人物がオフィスの中に入り、奥へ歩いていくに従い、周囲がざわめき出す。

 始めは何事かと思っていた者も、彼を見た瞬間に驚きの表情を浮かべた。

 長身ながら細身であることが分かるピッタリとしたシャツを身に着け、彫りがやや深めの顔立ち。

 そして耳や指にさりげなく付けられたアクセサリー。

 モデルかと思わせる男性。

 だが、この場にいる人々は彼がモデルではない事を知っている。

 しかし、彼は広島にある子会社へ出向していたはず。

 その彼が何故ここにいるのだろうか?


「お、お兄ちゃん!?」


 ざわめくオフィスにひときわ大きな声が響いた。

 その声に、注目されていた青年ほかオフィス中の視線が集まる。

 そこには唖然とした顔のコノハが立っていた。


「やあ、コノハ。久しぶり」


 青年はわずかに微笑みつつ、コノハに答えた。

 そんな青年、赤根レイトへとコノハは駆け寄った。


「突然どうしたの?」


 2年間、出向先から戻ってこなかった兄の突然の来訪に喜び半分、驚き半分な気持ちで問いかけた。


「出向期間が切り上げになってね、今日から企画課へ復帰さ」

「なら、実家(いえ)に連絡しなよ! パパもママも知らないんでしょ?」


 大した問題ではないように返すレイトだが、身内としては大事だ。


「決まったのが今週頭だったからね。引っ越しと申し送りで父さんたちに連絡する暇がなかったんだよ」


 穏やかにそう答えるとレイトはコノハの頭を少し雑に撫でる。


「ふぇっ!」


 コノハから小さい声が漏れ聞こえるが、すぐにレイトの手を乱暴にはねのける。


「ん、いつまでも子供扱いしないでよ!」


 顔を赤く染めて恥ずかしそうにするコノハを、少し驚いたように見つめる。

 しかし、レイトはすぐに笑顔にもどる。


「そうか、悪かった。プロジェクトの責任者になったんだもんな」


 手をコノハから放しながらそう言うと、レイトは不意に直立になると頭を下げる。


「久しぶりだね、赤根さん。そしてお帰り」

「ご無沙汰しております浅川部長」


 そこには、にこやかに笑みを浮かべながら浅川が歩いてきた。

 そしてレイトの前まで来ると右手を差し出す。


「兄妹の再会はよろしいが、仕事の話をさせてくれるかね?」

「ええ、先に浅川さんの部屋へ伺う予定でしたが、妹の声を聴いてしまい、思わず……」


 浅川の手を握り返しつつ、少し照れくさそうに恐縮する。

 浅川はそんなレイトの肩を叩きつつ、周囲を見回す。


「みんな知っていると思うが、広島へ出向していた赤根レイト君だ。本日付けで事業部々長補佐として企画へ復帰してもらうことになる」


 浅川の宣言に周りが沸き立つ。

 レイトはまだ30歳でありながら、業界でも一目置かれる存在である。

 これまでは会社都合で一時的に一線を退いていたが、現場復帰となれば自ずとメンバーの士気も上がってくる。


「とりあえず彼の復帰最初の仕事だが……」


 浅川のもったいぶった言い回しに皆息を呑む。

 どこに戦力として投下されても、十分な逸材だ。

 それだけにどのプロジェクトも喉から手が出るほどに欲しいのと同時に、各リーダーが彼自身を活躍させるための皮算用を始めていた。


「企画一課の新規事業のプロジェクトリーダーを務めてもらいます」


 その一言にフロアは湧き上がった。

 気鋭のゲームデザイナー 赤根レイトの新作ゲームの開発が始まるのだから当然だった。


 だがその中で1人、不安げな表情で佇んでいたのはコノハだった。

 一課の新作。

 それは自分たちの企画と同時期に進行する以上、コンペの相手は紛れもなく兄であるのだから。


 そしてまたユウヤが知らないところで話しが進んで、怒りまかせに暴れないか心配にもなっていた。

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