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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第3章 企画書を通すぞ!

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第16話 衝突

「ちょ、ちょっとユウヤ、何よ!」


 朝出勤してきたコノハは、デスクにカバンを置いたところをユウヤによってオフィスの隅へと連れて行かれた。


「コンペの話、知っていたのか?」


 静かにユウヤは確認する。

 だが、その口調からは激しい感情が後ろに隠れているのが分かる。


「ウワサには聞いてたけど、なんで君が知ってんの?」


 ユウヤの迫力に負けじと睨み返しながらコノハは言う。


「昨日の夜、一色課長から聞いた」


 感情に乏しい声で返す。


「ち、近いよ……」


 コノハはそう言いながらユウヤの胸を両手で押す。

 その言葉にユウヤは自分たちの立ち位置に気が付いた。


「あ!?す、すまない」


 慌てて距離をとるユウヤだが、わずかに感じていたコノハの腕の力は恐らく全力で押していたのだろう。

 現によく見れば、コノハの足はわずかに震え、瞳には涙がにじんでいた。


「オレが焦っていた、本当に申し訳ない!」


 素早くコノハから離れると深々と頭を下げる。

 その動きを見たコノハは唖然とすると、次の瞬間には笑い出した。

 決してユウヤの動きが滑稽だったからだけではない。

 いきなり迫られて感じた恐怖に凍った感情が、動きだしたことで制御出来なかったからだ

 そしてそれを見てオロオロするユウヤの動きがさらに笑いを誘う。


「あ〜、驚いた……」


 コノハの笑いがおさまるまで、1分はかかっただろうか。

 まだ少し残る笑いの衝動を抑えるように腹を押さえつつコノハは話し始めた。


「そうやって前後見境ないと、女の子にもてないでしょ」


 始めにチクリと一言返す。


「い、いや、オレは……ムグ!?」


 それを聞き慌てて何かを返そうとするユウヤの口に右手の人差し指を当てて制止する。

 暗に「黙って聞いていろ」と言う意思表示だ。


「まずはだけど、コンペの話はタイミングの問題よ」


 そう言うと、ユウヤの手を取り強引に引っ張り歩き始める。

 先ほど同ようにその力は決して強くないがユウヤは抵抗することなく、引かれるままに歩いていく。


二課(うち)と一課の新規事業立ち上げのタイミングが偶然近くなったのよ」


 左手でユウヤを引っ張り、右手でスマホの操作を始める。

 社内管理アプリを起動し、【第3会議の間】の使用予約を入れる。

 そのまま、勢いよく会議室へとすべり込む。

 ユウヤが入ったのを確認し、手早くドアを閉める。


「やっぱり、怒ってるのか?」


 一連の行動を見てユウヤは済まなそうに聞く。

 それに対して、コノハはにらむようにユウヤを見る。


「怒っているし、本気で怖かった!」


 語気を強く話し始める。


「いきなり、腕つかんで壁際に連れて行くなんて、常識を疑う!」


 そう言いながら、指でテーブルを指す。

 座れの合図だ。

 ユウヤはおとなしく従い、縮こまるように座った。

 その前の椅子を乱雑に引きだし、背もたれを前にしてコノハが座る。


 そのまま睨むコノハに対し、ユウヤはうなだれるだけだった。


「でも、もっと腹が立つのはわたし自身に」


 ポツリとコノハが言う。


「ちょっとユウヤの立場になって考えたの、なんで怒っているのかって」

「えっ……?」


 唐突の独白に思わずコノハの顔を見る。

 その顔は悔しさに満ちていた。


「いきなりコンペの話なんて聞かされたら、普通は驚くよね」


 気が付けば、ユウヤはコノハを見つめていた。

 反対にコノハはややうつむいており、表情が見えない。


「……」

「周りはコンペに向けて動いているかもしれないのに、自分だけ知らされずにいたら怒って当然、わたしだって……」


 静かに言葉を止めたコノハ。

 その不自然な行動に、思わずユウヤは身を乗り出す。


「殴り飛ばす!!」


 ドガッ!


「ぶべっ?!」


 まさに偶然がなせるタイミングだった。

 テーブルの前へと乗り出したユウヤの頬に、コノハの拳がクリーンヒットしたのだ。

 直撃を受けたユウヤは盛大な音を立てながらテーブルや椅子をなぎ倒し、その場へと倒れ込んだ。


「ユウヤっ!?」


 コノハが声をあげる。

 それに応じるかのように会議室のドアが乱暴に開かれる。


「コノハ、無事!?」


 会議室へ入るなり叫ぶ黃島。

 それに続いて黒瀬と五嶋が駆け込んでくる。

 そして3人が見たのは殴った姿勢のまま硬直するコノハと、倒れたテーブルの中に埋もれるユウヤの姿だった。


***


 意識が少しずつハッキリしてくる。

 ユウヤはそれを緩やかに感じ取っていた。

 なんとなく感じる開放感。

 胸元や手足首にいつも感じていた締め付け感が今はない。

 その心地よさに再び沈んでいきそうになる意識だが、不意に頬のあたりに感じた冷たさと痛みにより一気に覚醒へと向かった。


「痛ってーっ!!」


 跳ね起きたユウヤの第一声はそれだった。

 まだ完全には覚醒しきっていない顔で周囲を見回す。

 見慣れたソファーやテーブル、自販機が並んでいる。


「だ、大丈夫ですか?」


 自分のいる場所を理解しようとした瞬間に、突然声をかけられる。

 近くに人がいる気配を感じていなかったユウヤは、驚きの顔でそちらをみる。

 そこには小豆が驚きの表情でこちらを見ていた。


「お、小豆さん?」

「はい、小豆です」


 思わず出た声に、小豆は少し微笑みながら答える。

 状況が飲み込めずにいるユウヤに小豆は優しく説明する。


「コノハさんや五嶋課長がここへ運んできたんです。私はたまたま休憩中だったので、そのお手伝いをしているんです」


 そう言いながら、小豆は手にしたハンカチをユウヤの頬に当てた。

 冷たく湿ったハンカチが火照った頬に触れるとわずかに刺激を感じた。


「赤くなっていましたので、しばらくは冷やしていて下さい」


 そう言いながら、小豆はユウヤの手を取りハンカチの上にのせる。

 その仕草一つ一つに、顔が火照る。

 嬉しいのか恥ずかしいのか分からない感情に、ユウヤは戸惑っていた。

 そんなユウヤの気持ちを知っているかは分からないが、小豆が椅子を少し引き座りなおす。


「さて、治療はこれまでです」


 その声からそれまでの優しさが消える。

 声色は変わらないし、言い方も変わらない。

 ただ言葉の圧力がそれまでとは段違いだった。


「ケガした経緯を聞かせてもらえますか?」

「えっ?」


 思わず、聞き返したユウヤは小豆の目をみてしまった。

 それは普段と変わらない静かな瞳だが、その奥に炎が見えるかと思う程に鋭さを感じる。


「え、ええと、オレ、誤ってコノハ……、じゃない、赤根さんに詰め寄ってしまって、それが原因と言うか、その後の話しの弾みで勢いよく彼女の拳が当たってしまったと言うか……」


 焦りしどろもどろに話すユウヤ。

 正直なところ彼自身も拳にぶつかったところは覚えている。

 自分自身が勢いよく前に顔を出した瞬間だったので、その勢いがヒドイ結果になったのではと想像は出来た。

 だから、コノハに咎が無いようにとユウヤは必死に弁明した。


「ハァー、わかりました」


 そんなユウヤを見て小豆はため息をつく。

 それを見ながら(通じなかったか)と内心落胆する。


「ホント、ふたりともお人好しね」


 少し困ったような顔で小豆が言葉を紡ぐ。

 それに対してユウヤは意味が理解できなかった。


「コノハさんにも聞いたけど、彼女もあなたに責任は無いって言っていたのよ。悪いのは説明不足だった自分だってね」


 ヤレヤレと言った表情で話す小豆にユウヤは押し黙る。


「本来なら、あなたもコノハさんも懲戒処分の事態ですけど、お互いに非を認めていることや、備品への損害が無かったことから不問とします」

「え?あ、ありがとうございます……」


 まるで裁判官のように朗々と宣言する小豆の姿に戸惑うユウヤ。

 そんなユウヤを尻目に、小豆は後ろを振り向くとエリアの外へ向け声をかけた。


「と言うことだから出てきなさいコノハさん」


 その声に引っ張られるように、エリアの端からコッソリと覗くようにコノハが姿を現す。


「コノハ!」


 その姿を見たユウヤは思わず声をかけていた。

 その声にビクッと身体を震わせるコノハ。

 まるで厳しい親にイタズラを見咎められた子供のようだ。

 そのまま壁の端をつかみながらユウヤを見ているコノハ。

 そんなコノハのもとへ足早に近寄るユウヤ。

 2人の間に緊張が増していく。

 先に視線をそらしたのはコノハだった。

 パッと壁から手を離し、廊下の奥へと駆け出そうとする。


「コノハ、すまなかった!」


 突然響いたその言葉にコノハの動きが止まる。

 そのまま、コノハは俯きながらたたずむ。

 多分、振り返れば問題は解決するだろう。

 だが、もしもを考えると、怖くなり振り向けない。

 振り向けばいつもの調子で、年上のユウヤに居丈高にあーだこーだと言ってしまいそうな自分が怖い。

 素直に謝ればいいだけなのに……。


(自分に素直になれ、コノハ。)


 その時、言葉が脳裏に響いた。

 歯を食いしばり顔を上げる。

 こんな顔で振り返るな。

 あくまで自然に。

 自分の気持ちを伝えるんだ!


 勢いよく振り向く。

 あくまで自然な笑顔で。

 そして、頭を下げているユウヤに優しい言葉をかける。


 ……………つもりだった。

 振り向いた瞬間、身体を折り礼の姿勢のまま見上げていたユウヤと視線がバッチリ合うなんて想像もしていなかった。


 その瞬間、コノハの頭の中でコンロにのせられたヤカンが沸騰した時のように感情が爆発した。


「わ、分かっているなら、わたしも悪いところあったし、ゆ、許してあげるわよ!」


 数瞬前まで考えていた謝罪の言葉は吹き飛び、ぶっ飛んだ言葉が口から溢れてくる。

 その内容の恥ずかしさから、どんどん顔が赤くなる。

 見ればユウヤはあんぐりと口を開けたまま硬直しており、視界の端では小豆が額に手を当てているのが見える。


「どうしたのよ、そんな顔して。何かわたしの顔についてる?」


 わたしが言いたいのはこんなことじゃないのに!

 そう思っていても恥ずかしさから言葉は止まらず、その言葉がさらに恥ずかしい。

 その羞恥のスパイラルに落ちいったコノハが混乱していると、微かな笑い声が響いた。

 それに気がついたことで、ようやくコノハは冷静さを取り戻していった。


「なに笑ってんのよ」


 仏頂面をして笑い声の主、つまりユウヤへ視線を向ける。

 相変わらず謝罪の姿勢のままかと思ったが、よく見ると両手が自らの腹のところにある。

 必死に爆笑しそうなのをこらえているのだ。


「いや……、そういうところ……、コノハ……、らしいなって……」


 息も絶え絶えに話すユウヤ。

 間違いなく笑いをこらえているのが分かる。


「笑う話じゃないじゃない……」


 必死になって何か言おうとするが、言えば余計なことを言ってしまいそうなのでわずかに抵抗して見せる。


「ともかく、今回の件はオレが大本の原因だ。許してくれるなら殴られた件について何も言わない」


 本心としては元々言うつもりもなかったユウヤだが、こう言うことでコノハの気持ちも治まるのではないかと思っていた。


「分かった……、許してあげる」


 あくまでユウヤの方は向かずに言う。

 向けば恥ずかしさで(……以下略)。

 そんなコノハの心知らずにユウヤは右手を差しだした。


「……何よ」

「仲直りの握手だ」

「子どもかよ……」

「わかりやすいだろ?」

「……うん」


 素直になれないながらも、ようやくコノハはユウヤの右手を握る。

 これで仲直りできるのであれば素直に嬉しいが、人前で握手してるのが死ぬほど恥ずかしかった。


「じゃあ、早速オフィスへ戻って企画書を作るための打ち合わせと行こうぜ!」

「ちょっとストーップ!」


 そう言って歩き出そうとするユウヤだが、小豆がその前に立ちはだかり止めた。

 普段とは異なる少し荒っぽい感じに驚いているユウヤに小豆が伝えた。


「戻る前にその……、服着てください……」


 どこか気恥ずかしそうに言う小豆の言葉でようやくユウヤは気がついた。


 ユウヤは上半身は下着のシャツのみ、スラックスこそ履いているが足は靴も靴下も履いていなかった。


「な、なんでこんなカッコ~!?」

「気絶している人の介抱には、服を緩めてあげるのが基本でしょ!!」


 慌てて周囲を見回し自分の服を探すユウヤに、コノハの言葉が響いた。


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