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ワグテイルプロジェクト ~俺達のゲーム開発は前途多難(仮)~  作者: サイノメ
第3章 企画書を通すぞ!

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第13話 要素の分解

 結局ユウヤは22時頃までオフィスに残ることになった。

 途中までコノハも残っていたのだが、彼女がうつらうつらとデスクに向かって舟を漕ぎ始めたのを見たユウヤは無理やり帰らせていた。


(会社の近くに部屋借りてるらしいが、さすがに眠りそうな女の子を深夜まで仕事場にさせる訳にはいかないからなぁ。)


 付き添って行くべきかとも思ったが、たまたま帰り支度をしていた黄島がその役を買ってくれたので任せることにした。

 そして、今オフィス内で一人黙々と週刊少年キープのバックナンバーを読み返していた。

 センターカラーだった連載第1回。

 その後は2か月くらい雑誌の真ん中あたりにいたが、次第に後ろの方へ掲載順が移っていき、最終回辺りには安定の最後での掲載。

 キープでは典型的な早期打ち切りパターン。

 コノハが言っていたように、空中競技という斬新な設定があるが、ストーリーに目新しさがない。

 有り体に言って『よくある展開』だ。

 読み込むほどに問題点が見えてくる。

 こいつをまとめれば良いのだろうか、持っていた雑誌をデスクに置きながらそう考えていた。


「あら?まだ誰かいたの?」


 不意にオフィスに誰かが入ってきた。

 しかし、ユウヤにとってはそう珍しい事ではなかった。

 IT事業部には取引先との打ち合わせを兼ねた食事会を仕切った後に、社に戻り報告をまとめる者もいたからだ。

 ただ、入ってきた人物を見た時、ユウヤは驚いた。

  出向から日の浅いユウヤはまだ部署の人の顔を全て覚えている訳ではないが、部署の人間でないと分かった。

 それは、入ってきた女性が社内の有名人だったからだ。

 モデルを思わせる細身の体型に、腰まで届かん程のストレートの黒髪。

 かけた眼鏡越しに見える顔立ちはどこか憂いを帯びた儚さを感じさせる。

 総務部秘書課の小豆(おず)カナエだった。


「お、小豆さん!?」


 思わずユウヤは声をあげた。

 社長秘書の1人である彼女が深夜にゲーム事業部に姿を現すのは完全に想定外だったからだ。


「えっ、蒼馬さん?」


 そして、小豆もまたその声に驚きながらユウヤの方を見る。

 2人にこれまでほとんど接点はない。

 しかし、彼女はユウヤの名前がサラッと出てきた。

 それは小豆は数百人はいるワグテイルの社員の名前と顔を把握しているからだ。

 そのことを聞けば、「総務としては当然です」と静かに笑うのだが、実際に総務部でも同じ事ができる人物は他にいない。


「こんな遅くまで、どうなさったのですか?」


 小走りに近づいてきた小豆は、興味深そうにユウヤのデスクを見る。


「か、課題ですよ、作品のテーマを調べろって」

「へぇー」


 少し緊張しながら答えるユウヤに相槌を打ちつつ、手近な一冊を持ち上げる。


「あ、半年くらい前のキープね」


 表紙をさっと見た小豆がつぶやく。

 それを意外と言った面持ちでユウヤは見る。


「よく分かりますね」

「わたし『フィッシャーキング』が好きなんで、毎週会社の帰りにキープ買ってるの」


 そう言いながらページをペラペラとめくっている。

 ユウヤはその姿を意外そうな顔で見ていたが、小豆もそれに気がついた。


「ん、どうしたの?」


 気取ったところもなく、友人に話し掛けるようにユウヤに問い掛ける。


「いや、意外だったんで」


 その言葉を聞いた小豆は少し驚いた後、クスクスと笑う。


「それは心外だなー」


 雑誌をデスクに戻しつつ、いたずらっぽく微笑む。

 普段は年上のお姉さんの様な小豆だが、その笑顔は少女のように見えた。


「ドフトエフスキーとかしか読んでないとでも思った? ざーんねん、漫画もラノベも読むし、アニメだって欠かさず見てるわよ?」


 そう言いながら少し胸を張る彼女の姿からは「お姉さんはお見通し」オーラが半端ない。

 ユウヤはそう思いつつも、自分の課題について相談してみようかと思った。

 漫画もアニメも今まで漫然と見ていた自分と違う視点での答えがもらえるかもしれない。


「あの、よろしければ、相談に乗って頂けますか?そんなにお時間は頂きませんので」


 その言葉に、二つ返事で了承した小豆。

 そこで、ユウヤは経緯を説明した。


「ふ〜ん、なかなか厄介な話しね」


 課題を聞いた小豆はそう言う。

 近くのデスクから椅子を引き出しそこに座りながら少し考える。


「蒼馬さんは、どう考えてるの?」


 考えがまとまったのか、小豆はそう切り出した。

 ユウヤは「お、オレですか?」と慌てて回答した。

 てっきり彼女なりの回答がもらえると思ったのだから、そこまで頭が回っていなかった。


「え〜と、『努力』『友情』『勝利』ですかね?」


 苦し紛れにそう答える。


「それはキープの三大原則よ。真面目に考えなさい」


 少し頬を膨らませながら小豆は言う。

 かわいいなぁと思う気持ちを押さえつつユウヤは改めて考え直す。

 しかし、テーマを考えるというのは「作者の考えている事を答えよ」の様なものではないか?

 であれば作者の考えている事なんて分かりはしないのだから答えようがない。

 そのまま思考のドツボにハマったように考え込むユウヤを見て、小豆は助け舟を出すことにした。


「……そうね、例えば往年のサッカー漫画『ライト・ウイングス』を例にするのが良いかしら」


 そう言いながら、ユウヤのデスクにあった小さなメモ紙を手に取る。

 そこにサラサラと手早く『努力』『友情』『勝利』の3文字を書く。


「いい?ゴールデン・ウイングスは三原則に沿った成功例だけど、その3つの要素は1話の時点で登場してるわ」


 そう言うと努力の下に『練習』と書き入れる。


「主人公の大原光君は、生まれながら天才的なサッカーのセンスを持っていたけど、冒頭からリフティングしながら歩いていたりと練習を欠かさない描写があるわ」


 さらに友情の下に『親友』。


「で、引っ越してきてすぐに最初の親友になる大地君と知り合ってすぐに意気投合してるわね」


 勝利に『ライバル』を足す。


「話しの途中で地元でサッカーの英才教育を受けていた最初のライバルである、西山君とのPK勝負に勝ってるわ」


 一通り書き終わったメモを切り取る。

 そしてそのメモを『エアリアル・レブ』の第1話のページに貼り付ける。


「その上で物語の主軸は、ワールドカップ優勝を目指していく、じゃあ《《この物語》》はどうかしら?」


 そう問いかけると小豆は立ち上がり、ユウヤの胸を人差し指でコツンと軽く叩いた。

 完全に意表を疲れたユウヤは「えっ!?」という言葉を残し、よろめきながら自分の椅子へと座り込み呆然とする。

 その姿が可笑しかったのだろうか、小豆は口元に手を当ててクスクスと笑う。


「わたしはそろそろ行くわね。あまり遅くなって家族に心配させてもアレだから」


 小豆はそう言うと、オフィスの奥へと歩いていく。

 それを呆然と見ていたユウヤは、1つ気になることを思い出し呼びかける。


「小豆さん、なんでゲーム開発事業部(ここ)に、来たんです?」


 その言葉に小豆は足を止めて振り返ると、持っていた書類を掲げる。


「五嶋課長宛の書類をね」


 困ったねと言う感じに笑いながら答えると小豆はそのまま、五嶋のデスクに書類を置き部屋から出ていこうとする。


「そうそう、いくら残業申請したからってソロソロ帰りなさい」


 最後に扉に手をかけながら、そうユウヤに伝えると小豆は去っていった。

 1人取り残されたユウヤ。

 ふと窓へ目を向けると強い夜風にサッシがわずかに揺れていた。


***


 部屋の窓を揺らす強い風に気が付き、スズナは外へと視線を向けた。

 大通りから外れた住宅街にある自宅前は人通りもなく閑散としている。


「今日は遅いのかな、お兄ちゃん……」


 スズナはそう呟くと、作業机の方へ視線を戻した。

 小学校へ入学した時に祖父母から贈られた学習机をそのまま、作業机として使っているため、いささか年齢不相応なファンシーさのある机だったが、スズナは亡き祖父母から最後にもらった品であるこの机を変える気にはならなかった。

 それに広さも十分にあるし。

 そう言いながら使い続ける机の上には、PCと2枚の大型ディスプレイ、そしてキーボード、マウス、液晶タブレットなどの入力デバイスが所狭しと並べられている。

 PCを床に置ければいいのだが、あいにくと机の下には引き出しがついているため、足以外に入れる隙間は無かった。

 そんな使い慣れた作業スペースに向かいながらもなかなか気が乗らない。

 やはり、事前にユウヤに連絡しておくべきだったかとも思ったが、そのままメッセンジャーでのやり取りになりそうだったので止めていた。

 ユウヤはしきりにメッセンジャーでの情報のやり取りのリスクについて話してくれるのだが、彼にメッセンジャーで連絡するとその場で解決しようと根掘り葉掘り聞かれてしまう。

 普段の会話ならそれほど気にはしないが、今日の話しはそれで解決するのは少し危険とスズナは考えていたのだ。


「はぁ……」


 1人では答えのでない答えにため息をつきつつ、作業机の端に置かれた雑誌を手に取る。

 それは会社から資料として送られてきた『週刊少年キープ』の最新号だった。

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