戦ってみた
俺達は町の外に出る。
久しぶりの光景だ。
せっかく異世界に来たのにいきなり勉強づくしだったからな。
俺は腕を伸ばしながら前へと進む。
うぐぐぐ。
「あ、ユウヤ気をつけてよ」
「なんで?」
「この辺スライムがいるから」
スライムなんて雑魚だろ。
最初の経験値上げにもならねぇよ。
しいて言うなら序盤のチュートリアル要員だ。
俺は余裕な面持ちで草原を歩く。
すると、1匹のスライムが俺の足に付く。
ヒンヤリしてて気持ちいい。
「お、なんだ? 可愛いヤツめ。名付けしてやるよ。テンペストは流石に付けたらまずいからそうだなぁ。イムとか――」
「ちょっとユウヤ! 早く振りほどいて」
「え?」
イスタは慌てながら俺に指示する。
イスタも心配症だなぁ。
俺はイスタの肩を叩いて力を抜かせようとするとスライムがくっついてる所がヒリヒリとしてくる。
……これ、やばいやつ?
俺はうるうると泣きながらイスタの方を見る。
「た、助けてぇ……イスタァ」
「ほんと、バカだね。とりあえず、足ブンブンして」
俺は足をブンブンと振る。
が、スライムは一向に離れない。
すぅーはー、すぅーはー、すぅーはー。
大きく吸って吐いて、吸って吐いて。
あまりの怖さに平穏を保てなくなってくる。
「イスタやばい。どうしよ」
「ユウヤ、魔法使えるでしょ。魔法使ってスライム打って」
え、魔法?
えぇっと、魔法はまずイメージしながら詠唱して。
「やばい、詠唱の時のセリフ忘れた」
「あんたバカァ!?」
俺は撮っておいた魔導書の中身をイスタに見せる。
「じゃあ私に続いて。神よ、目の前ものを焼く力を」
「神よ、目の前のものを焼く力を」
俺はイスタに続いて詠唱する。
魔力が熱くボアボアと燃え盛り、血管や神経の隅々にまで広がる。
そして、かざした手に向かって魔力を押し出すと炎の玉が手から出てくる。
後はこれをスライム向かって放つ。
火の玉に当たったスライムは液体となって地面に吸収される。
「体力は雑魚なんだ」
「スライムは魔法には弱いからね。物理攻撃はほぼ無効だけど」
なにそれチートじゃん。
ていうか、せっかく倒したのになにも取れないのか。
スライムってコスパ悪いな。
ここで魔力使うのがほんと馬鹿らしいな。
「スライムは魔法生物だから一応コアがあるんだけど小さすぎて見えないんだよね」
魔法生物か。
モンスターの種類が多いな。
「だから、ユウヤ。この辺歩く時は本当に注意して。スライムなんかよりゴブリンの方がまだマシだから」
「肝に銘じます」
異世界、怖い。
俺達は森の方へとやって来る。
迷わないように人魂に録画させる。
「今日はユウヤに頑張ってもらうね」
「分かった。何をすればいい?」
「ゴブリンとかいるといいんだけど。とりあえず、適当に出会ったやつと戦って」
「はーい」
イスタいるし、安心だな。
「流石に雑魚ぐらいは一人で倒せるようになってもらわないとね。そゆことでー」
イスタはそう言ってすぐ様どこかに行く。
「……ふぇ?」
俺一人でやるのか?
いくらなんでもスパルタすぎない?
森に行く間にイスタに読み方を聞いて魔法書の録画に読み方の字幕を貼った。
だから、魔法はいくらかは使える。
けどさぁ。
怖いって。
俺達は魔王を倒そうしてるからっていくらなんでも背伸びしすぎじゃないか?
俺が森の中を歩いていると草むらから何かが飛び出してくる。
緑色の人型モンスター、ゴブリンだ。
「クガァァ」
数は1。
仲間とはぐれたんだろう。
俺は魔導書を撮った動画を近くに映し、いつでも腰につけてる短剣を取り出せるような体勢になる。
スライムの時と同じやつを使おう。
「神よ、目の前を焼き尽くす力を」
体にめぐる魔力が熱くなってきた。
これを体外に出す。
すると、先程と同じく炎の球体ができる。
勢いよく飛ばした火球はゴブリンに当たりゴブリンは後ろにのけぞる。
イスタがいればこれで決着だが、どっかに行ったからな。
魔法の詠唱、森に来るまでの道中に聞いててよかった。
「神よ、あなたのお力の一端をこの場に顕現させ、目の前のものに神の裁きを」
体中の魔力がビリビリとなるのを感じて俺は魔力を放出する。
すると、電気がゴブリンに向かって飛びゴブリンを痺れさせる。
大層な詠唱のくせに威力しょぼいな。
でも、動きは止めた。
俺はゴブリンに近づき腰に付けてた短剣をとる。
そして、力を込めて首をはねる。
首は見事な放物線を描き体は地面に倒れる。
俺は息を荒らげる。
これが生き物を殺す感覚か。
慣れる気はしないけど、とりあえずはなんとかなったか。
俺は一息つく。
あ、やば。足プルプル震えてるわ。
めちゃくちゃビビりな俺の所にイスタが拍手しながらやってくる。
「……なんか悪役っぽいな、それ」
「え? ほんと?」
イスタはゴブリンの死体に近づいて状態を見る。
「頭を綺麗にはねれてるのは高得点」
「短剣の切れ味すごかった」
「ゴブリン一体だけだけど初心者冒険者にしてはいい方だね」
イスタがやるなら俺が1人でするのあんまり意味ないんじゃね?
「まぁ、1匹程度なら大丈夫ってわかったし。次行こうか」
俺達は今のゴブリンの足跡を辿ってゴブリンの集団を見つける。
数は5。
こん棒持ちが4人、ローブを被って杖を持ってるやつが1人か。
ゴブリン達は血が出るから撮影しても投稿できないな。
俺は人魂を見ながらため息をつく。
「ユウヤ、私はローブに奇襲するから電気魔法で他のやつらを足止めして」
「アイアイサー」
イスタは足音をあまり立てずにローブに近付く。
緊張しないのかな?
イスタはローブの近くの草むらに隠れる。
俺は電気魔法をボソボソと詠唱する。
イスタが飛び出した瞬間、俺は電気をこん棒持ちのゴブリン達に当てる。
ビリビリビリビリ。
ゴブリン達の体は光り輝き、麻痺する。
イスタはローブのゴブリンが混乱してる隙に首を切る。
麻痺をしていたゴブリン達は動き始めイスタに向かってこん棒を振りかぶりながら飛びかかる。
そんなに麻痺は長くなかったか。
俺は急いで火魔法の詠唱をする。
「神よ、目の前のものを焼き尽ちゅ」
噛んだ。
ってやばい、もう1回詠唱し治さないとイスタが。
俺は慌てて詠唱しようとするが中々上手く出来ない。
ゴブリンはブンッとこん棒を振り下ろそうとする。
イスタは冷静だったのかその1匹の首をはねる。
けど、まだ残ってるヤツらがいる。
残りのゴブリン達はこん棒を振り下ろす。
魔法が間に合わない……
背中から生きた心地がゾワッと抜けていく。
イスタはじっと体勢を変えずにゴブリンを見る。
グチャっとゴブリンの首が落ちた音ともにイスタは倒したゴブリンのこん棒を手に取り、全て弾く。
弾いた後は一気に衝撃波が襲ってくるようだった。
弾かれたゴブリン達は皆地面に倒れる。
……え?
イスタは1匹のゴブリンの頭をこん棒で押し潰し起き上がろうとしたゴブリンの首を剣で切る。
最後のゴブリンは起き上がりドサドサとイスタに向かって突っ込みこん棒を振り上げる。
が、イスタはその振り上げたこん棒を手で押さえ、ゴブリンの脳天に剣を突き刺す。
ゴブリンはバタッと倒れる。
俺はホッと胸をなでおろす。
良かった。
「ユウヤ、死んだフリの練習忘れたの? どんな状況でも心拍数は下げるようにするんだよ。上げるのは動き回る時だけ」
死んだフリの練習って冷静さを保つための訓練でもあったのか。
仲間がイスタで良かった。
イスタじゃなかったら今頃死んでた。
これからは気をつけよう。
イスタはポケットから紙を取り出す。
「ゴブリン達はコイツらでいいのかな? でも、この書かれ方だとゴブリンキングかクイーンがいないとダメなような」
イスタは紙をみながらうーんと唸る。
クエストの紙なのだろうか。
ゴブリンキングを探してるのか。
俺は人魂を出してドローンのように上空に飛ばす。
上からは何も見えないな。
「ユウヤ、何か映った?」
「いや、なにも」
「これ貼られたの今日だし、あの町にゴブリンキングと戦おうとするやつらはあんまりいないんだけどな。もしかして、ゴブリンエンペラー? 一応報告だね」
うわぁ、なんかヤバそうなのが聞こえたな。
俺達はしばらく森の薬草を摘んでから帰路に着く。
初めての戦いでめちゃ疲れた。
今後の課題としては冷静になることだな。
帰ったら魔法の翻訳の続きするか。




