第十八話 悪徳商会vsクロノス商会
その日、クロノス商会の屋台は開店直後から妙な空気に包まれていた。
「……誰も来ないな」
セレスティアが腕を組んで辺りを見渡す。
「昨日まであれだけ人だかりができてたのにね……」
フィオナが不安げに呟く。
「誰かが“来るな”って言ってんだろうな」
ノアが短く分析する。
「つまり、王都商会連合の差し金か……」
修也はあくびをしながら、椅子に腰かけたままココアをすする。
「ま、いずれ来ると思ってたけど、やり方が早いな」
「これからどうするの?」
リオンが心配そうに尋ねる。
ノアは一枚の地図を取り出した。
「……移動する」
「え?」
「王都を離れて、郊外の村々を回る。“移動販売”を開始する」
地図には、周囲の集落や小都市の位置が記されている。
「都市部を封じられたなら、郊外を回るしかない」
「それ、めっちゃ地道じゃね?」
修也が面倒そうに言うが、ノアは微笑を浮かべた。
「でも、地道に拾った信頼は、崩れない」
「……あー、そういうセリフ、好きだわ」
フィオナがぼそっと言うと、ノアが一瞬だけ照れたように目を逸らした。
「じゃ、準備始めよう。馬車改造して、移動屋台にする」
「また俺の出番か……!」
修也が泣きそうな顔で腰を上げた。
***
数日後。
クロノス商会の“移動屋台”は、王都を離れ、郊外の村へと旅立った。
「ここが最初の目的地、“テルナ村”か」
木造の家々が並び、農作業の人々が忙しそうに動いている。
ノアが屋台を設置すると、さっそく村人が集まってきた。
「おお、これは……魔法なしのランプ!?」
「このふいご、すごいぞ! 火が一瞬で強くなる!」
「この水ろ過装置……川水がそのまま飲める!」
王都では見向きもされなかった製品たちが、村では大反響を呼んだ。
「魔法の届かない場所だからこそ、科学が輝くんだよなぁ」
修也が満足げに呟いた。
「ま、苦労した甲斐があったな」
ノアが同意するように頷いた。
「ねぇ、これ……すごい発明だと思う!」
村の少女がキラキラした目で修也に声をかけた。
「お兄さん、天才なの?」
「おう、まあな。だが俺はただのサボリーマンよ」
「かっこよくない自己紹介ね……」
セレスティアが呆れていた。
***
その頃、王都では――
「なんだと!? クロノス商会が村を回ってるだと!?」
「しかも、移動販売で売上を伸ばしていると……!?」
王都商会連合の幹部たちが顔をしかめていた。
「ただの素人商会かと思っていたが……侮れん」
「どうします? 貴族の圧力も限界がありますぞ」
「くっ……別の手段を考えるしかない……」
王都の“陰”が、さらに強くうねり始めていた。
***
拠点に戻った夜。
遺跡の焚き火を囲んで、移動販売の結果報告が行われた。
「売上、金貨53枚。予想より15枚上回ってる」
「すげぇな。俺、途中から完全に観光してたけど」
修也がジュースを飲みながら言うと、
「……次は君を商品にするか?」
「ちょ、それはダメだ!」
「意外と売れるかも?」
フィオナが茶化すように言った。
「やめてくれ、俺は自由人でいたいのだ……」
「ほんと自由すぎる……」
セレスティアは頭を抱えた。
***
その夜、リオンがこっそりノアの隣に座った。
「ノアさん、今日もありがとうございました」
「礼を言うのは、君のほうだよ。頑張っていたじゃないか」
「でも、僕、まだ何もできないし……」
「人を笑顔にしたいって思う、その気持ちだけで十分さ」
ノアの言葉に、リオンの目が潤んだ。
「……僕も、ノアさんみたいになりたい」
「……光栄だよ」
少し照れながらも、ノアはその言葉を真っすぐに受け止めた。
***
翌朝。
王都からの使者が、拠点に現れた。
「クロノス商会様。王宮より召喚です。――国王陛下が、あなた方にお会いになりたいと」
一瞬、空気が止まる。
「……ついに、来たか」
ノアが静かに呟いた。
修也はのんびりした口調で、空を見上げながら言った。
「面倒だけど……まぁ、行くしかないか」
「私たちの活動が、誰かに届いた証拠よ」
フィオナの言葉に、皆が小さく頷いた。
王宮への道は、険しいけれど――
確かな足跡と共に、クロノス商会の未来が動き出していた。




