個性が強い、即ち混沌
暫しの長期休暇が明け、あっという間に私達は二年生になった。かといって何か行事がある訳ではなく、クラスの人が変わるだけだ。
「どうなるのかな〜、ラヴィと同じクラスがいいなぁ。」
「別にクラスが違っても何も問題ないでしょう。どうせ学校から帰ったら会えるのよ?」
「わかってないね、そういう事じゃないんだよ〜。授業の合間の話し相手、大事!」
そうしてロゼットと雑談しているうちに、目の前に見慣れた校舎が見えた。学校の門を潜り、入口のドアに張り出されたクラス表を確認した。
「うーんロゼット、ロゼット…あ、ラヴィと同じだ!」
「あらそうね。ふふ、二年生も宜しく。」
「ファ!?…笑った、ラヴィが…!」
人の微笑み顔を何故この男は恐れているのだろう。全く持って意味不明だ。それと謎に顔がポッと少し赤くなっている。何と言うか完全に小動物の域だ。
「うーん、でもまた担任はグローシア先生かぁ。顔怖いから嫌なんだよね。」
「我慢しなさいよ、それぐらい…」
新しい教室に足を踏み入れると驚愕した。明らかに去年より机と椅子が使い古された物になっている。三年生になったらよりボロボロになっていくのだろうか。先が思いやられる。 すると先生が手を叩きながら教室に入ってきた。その音に反応するように、生徒達は次々と自分の席に戻っていった。
「はーい、皆さん座って!このクラスを担当するグローシア・マルドゥークです。よろしくお願いします。では、まずは自己紹介をしましょう。」
三十秒当たりの短い自己紹介を一人ひとり済ませ、ロゼットの番になった。ロゼットは立ち上がった途端にガチガチに固まり、緊張感が見え見えだ。
「あ...えっと、ロゼット・アメラです!好きな事は魔導書の読破、よろしくお願いします!」
頭突きをするかのような勢いで頭を下げ、足早に席に座った。その後机に突っ伏して動かなくなったので、どれだけ恥ずかしかったかが垣間見える。それはさておき、次は私の番だ。
「ラヴィーネ・フォン・ガーチェよ。趣味で剣術を嗜んでいるわ、宜しく。」
全員分の自己紹介が終わった後、先生は中央に立って話し始めた。
「さて、この後は貴方たち僧侶以外の人と四人のグループを作り、劇をしてもらいます。数カ月後に来年ここに入学予定の子達に見せるから、頑張ってね。」
その後広場に移動すると、騎士適正の人や魔道士適正の人など、本当に様々な人が集まっていた。あの人達が皆私の同級生というのだから、世界の広さを思い知らされる。さて、一体誰と組もうか?
「…?あぁラヴィーネじゃん。一緒に組まないか?」
後ろから声をかけられ振り返ると、フォルズが私に軽く手を振っていた。
「構わないわよ。ところでその隣の人は?」
「は〜…君がラヴィーネさん?ぼくはレイニー、宜しくね☆」
「レイニーは魔道士適正なんだ。グループ誰と組むか決めてないんだろ?コイツも入れてくれよ。」
初対面で早々にキャラが濃そうな予感の人が来た。しかし、まだ誰も誘っていなかったので寧ろ好都合だ。これで三人、後一人誰かを誘わなくてはならない。余っている人がいないか探すと、広場の隅でポツンと立っている人が一人いた。
「ねぇ貴方、まだ班員決まっていないのでしょう?私達と一緒に組まない?」
「おい、そんなストレートに…」
その子が顔を上げてこちらを見てくると、その子は前髪で片目が隠れていた。変な布のような物を被っているし、怪しげな宗教か何かなのだろうか。
「いいよー、あたしはシトラ。適正占い師、よろしくです。」
またキャラが濃い人に出会ってしまった。もしかして今日はそういう日なのだろうか。奇想天外な仲間にたくさん出会う運命なのかもしれない。なにはともあれ、こちらから誘った以上は仕方がない。この無茶苦茶な四人で上手くやっていかなければならないのだ。
「…じゃあ改めて、私はラヴィーネよ。宜しくね、シトラさん。」
「おー、宜しく。」
数分後、先生が皆にグループごとに集まるように言い、今後の予定について説明し始めた。話の途中でグループごとに一枚の紙が配られ、先生曰くこれに劇の簡単な起承転結を書くらしい。
「騎士、魔道士、僧侶、占い師か。中々個性豊かだね!」
「レイニーが多分一番個性強いぞ…で、何にしようか?」
「そうね…王道だけど勇者が魔王と倒すとかでいいじゃないかしら?」
「それじゃつまんないよー。もっと面白そうなの入れよう!」
「面白そうって言っても…ねぇ。」
十分程話し合ったが、議論は平行線をたどるばかり。それでも喋らない。シトラは何も言わず、ボーっと話し合いの様子を見ている。もっと積極性はないのだろうか。折角やるのだから、各々が最高のクオリティを求めるのが当然だと思うのだが。
「ちょっとシトラさん!黙ってないで貴方も話し合いに参加して頂戴。」
「ラヴィちゃん真面目だねぇ…このままだと意外性に欠けるって話だっけ?ちょっと紙貸して。」
言われるがままに紙を渡すと、シトラは劇の内容を次々と修正し始めた。
「主人公魔王サイドにして…うーん記憶喪失とか…いやーこれだと面白くないし…」
ブツブツと独り言をつぶやきながら、シトラは手を止めることなく修正していく。あまりの手際の良さに三人とも唖然とした。
「でーきた。これどう?」
「わぁお、これ凄く良いね☆」
「うん、俺も賛成。シトラ、センス良いな。」
「(何だ、ちゃんと考えてるんじゃない…早くそれを言いなさいよ。)」
シトラが考えたのは、記憶喪失の魔王が何故か勇者に討伐されることになり、死を避けるために和平交渉を持ちかける物語だ。ギャグとシリアスの高低差が激しいのが気掛かりだが、案外面白い内容だと思う。少し時間が余ったので配役も決めることになった。
「役は、魔王とその側近、勇者とその仲間の四つ。どれやりたいとかある?」
するとレイニーが速攻で手を挙げ、フォルズをビシッと指さして言った。
「はーい、魔王役はフォルズが良いと思いまーす。」
「はぁ!?何でだよ!」
「だってそういう雰囲気出してるし。大丈夫、心配ない☆」
「じゃあ魔王はフォルズで…」
「何でだよ、当事者の意見を聞けよ!」
本人は食って掛かってきたが、これは仮ぎめに過ぎない。どうしても嫌なら後で拒否すれば良い。まぁフォルズなら渋々了承すると思うが。
「はぁ…わかったよ。やれば良いんだろ、やれば。」
「…」
本当に承諾した。この一年で、私もフォルズのことを少しは知ることが出来たという事か。
「じゃあぼくは勇者の仲間役やるよ。」
「それなら…私は勇者役にしようかしら。シトラさんは魔王の側近役ね、それでいい?」
「え?…あぁうん、いいよー。」
こうして私達の劇の内容と配役は思ったより早く決まり、次は台本を考える事となった。
「はぁーもう、理解できないわ…」
放課後、ロゼットの部屋で壁にもたれ掛かりながらそう愚痴をこぼすと、ロゼットがそれに反応した。
「何、なんか嫌なことでもあったの?」
「…劇のグループにシトラっていう人がいるんだけれど、全然話し合いに参加しないのよ。やる気ないのかしら?」
「皆が皆ラヴィみたいに何事にも全力になれる訳じゃないって事だよ。それに、人と話すのが苦手な人もいるしね。」
[人と話すのが苦手]というのは一理あるかも知れない。思い返してみると、グループ決めの時に目に止まりにくい隅にいたり、内容を話し合っている時に一歩下がった場所から見ていたりと、彼女は意図的に人との関わりを避けているようだった。
「自分と違うものを素直に認められないのが、私の欠点なのかもね。」
「…今気づいたんだ、それ。」
少しだけ、ロゼットを嫌いになった瞬間だった。