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強く強く握りしめて

 学校に復帰して以降は授業で治癒魔法について学びながら、騎士の適性を持つ人と手当たり次第に手合わせをお願いして過ごしていた。何故か顔を合わせる人皆に怖がられるが、あまり気にしていた事はない。

 騎士の適性を持っているとはいえ、訓練の年数の桁が違う。大概の相手には苦戦もせず勝つ事ができた。その度に、今まで自分が積み重ねてきたものを実感できて嬉しかった。

「ねぇ知ってる?…くんが剣の大会で優勝したんだって。」

「そうなんだぁ。あの子最近有名だよね〜。」

「…」

 ある日偶然その噂を耳にした。どうやらこの学校に、剣の天才と呼ばれている人がいるらしい。その人となら良い勝負ができそうだ。一度会ってみたくなった私は、帰ってからロゼットに聞いてみた。

「剣術科の最近噂になってる人?そうだな…あ、あの子か。」

「誰なの!?」

「珍しく食い下がるじゃん。まぁ名前は知らないんだけど、確か…」


 翌日の放課後、その人が教室から出てくるのが見えた。後ろから近づいて肩を叩き、声を掛ける。すると彼はこちらを振り返り、面倒くさそうな目で見てきた。

「もしかして…俺に用があるのか?」

「えぇそうよ。私はラヴィーネ、手合わせを願いたいわ。」

「…ちょっと用事がだな。」

「嘘つかないで、さっきまで暇だ暇だって嘆いてたじゃない。そんなに嫌なの?」

そう質問すると、彼は余計に眉をひそめた。私が怪訝な顔をすると、今度はため息をつき出した。

「アンタ、学校復帰後に先生斬りつけて話題になった人だろ?そんな奴と好んでやりたがる方がおかしいわ。」

「じゃあもしその話題を知らなかったら、やってくれるの?」

「…まぁな。でも別にいい。俺はフォルズ。手合わせ、付き合ってやるよ。」

 私とフォルズは剣の模造品を持ち、校庭の真ん中で構えた。本当は真剣が良かったのだが、フォルズに猛反対されて却下となった。

「えーと、それでは!よーい…始め!」

始めの合図があった。私はその場を動かず、相手の出方を待った。彼は素早く距離を詰め、手数で攻める戦法を取った。全てを受け流すのは難しいが、それより動きに隙がありすぎる。この調子ならすぐに体力切れを起こすだろう、それを待つとしよう。

「くっ…雑な攻め方の割に一発が重い…!」

 私はたまらず一歩後退りした。防御の体制が崩れた瞬間を狙い、彼は強く踏み出して剣を横に大きく振ろうとした。今しかない、そう思って私は渾身の力を込めて剣を振り、彼の剣をはたき落とそうとした。

「そう来ると思った…」

その瞬間、彼はニヤッと笑った。次の瞬間、彼は自分の剣を宙に投げた。私の視線は思わず剣の方へ向き、彼の姿は映らない。フォルズは体勢を低くしながら私の背後に回り、背中を思い切り蹴り上げた。そして宙に舞った剣を掴み取り、体を押さえつけて首に剣を突き立てた。

「どうする、降参か?」

「…ッ!まだ、まだ負けてない!」

 力ずくで拘束を解こうとしたが、余計にフォルズの体重がのしかかってきて無理だった。それでも抵抗を続けると、彼は私の左腕を握り、静かにこう言った。

「これ以上続けるなら、左腕折れるぞ。」

「…わかったわ、降参よ。」

すると彼はすぐに体を押さえる力を弱め、上からどいてくれた。服の汚れを手で落としながら、フォルズの方を見ると、何だか気不味そうな顔つきだ。彼の友人らしき人は彼と肩を組み、こう話した。

「女子の上に乗って、挙げ句脅迫とか…お前容赦ねえな。」

「…仕方がなかったんだよ、ああでもしないと終わらない。それに…」

フォルズが私の方を見た。理由がわからずキョトンとしていると、彼はボソッと呟いた。

「それに、女子だからとかで手加減したら失礼だろ。」

 その言葉を聞いて、私はハッとした。フォルズと本気でぶつかってみたいという私の気持ちを、彼は汲んでくれていたのだ。友人からの冷たい視線を気にする様子もなく、彼は笑顔で私に近づいてきた。

「楽しかったよ。また勝負したいから、気が向いたら声かけてくれよな。」

「えぇ、勿論。ところで、貴方のことは何と呼べばいいかしら。」

「…?フツーにフォルズでいい。」

「じゃあフォルズ。今度からラヴィで良いわよ。」

お近づきの印として、その日は軽く握手を交わして帰った。学校でできた、私にとって初めての友人。明日こそは必ずフォルズに勝つ。


「只今戻りました。」

「はーい、いつも通り無駄に畏まった挨拶で。」

家に帰るとロゼットが自分の部屋で何かを食べていた。口の周りに食べかすがついているが、これは何だろう。

「ロゼ…貴方一体何を食べてるの?」

「ん?あーこれは…」

ロゼットが答えを言う前に、シャルロットが勢いよく扉を開けて入ってきた。鬼のような形相でロゼットを睨みつけ、逃げようとする彼の首根っこを掴んだ。

「お兄ちゃん、私のタルト食べたでしょ!」

「ぎゃあぁ、食べてない!邪魔だからって母さんが机の隅に移動させたんだよ!」

「え?…あ、本当だ。買い物袋で埋もれてただけだ。」

シャルロットが手を離すと、今度はロゼットが鬼の形相でシャルロットを叱りつけた。

「根拠もなく真っ先に僕のせいにするなって、いつも言ってるじゃん!」

「それは、お兄ちゃんが度々つまみ食いしてるからでしょうが!この前だって家にあったクッキー勝手に食べたし!」

「う、それは…」

「ほら言い返せない!日頃の行いの問題だって、自分でもわかってるでしょ?」

そう言い捨て、シャルロットは怒りながら部屋を出て行ってしまった。ロゼットはベッドに寝そべり、深くため息をついた。

「はぁ〜…日頃の行いか。前にも同じような感じで怒られたような気がする。やっぱり、皆優等生のシャルが可愛いんだろうな…」

「ロゼ、卑屈になりすぎよ。そんな事ないわ。」

「本当のことだよ。シャルは器用で何でも上手くいく。僕は学校の成績は中の中、それに加えてつまみ食い常習犯。どっちが可愛がられるかなんて一目瞭然。」

ロゼットの声色は段々と弱くなっていく。そして顔を窓際に向けてこう続けた。

「大体、家にはタルトやグミ、クッキーとかがあるけど、それは僕のものじゃない。ぜーんぶシャルか母さんのもの。本当に嫌になってくるよ。」

「そう、ロゼの家庭にも色々と問題があるのね。ガーチェ家とは全く違うけれど。」

「ふーん、ラヴィにも兄弟とかいるの?」

「…異母兄弟はいるわね。」

私のこの言葉に反応し、ロゼットはベッドから飛び上がってきた。そして急にカーペットの上に座り込み、完全に話を聞きたい様子だ。

「カルシュトというのだけど…そういえば私以外の人と話しているの見たことないわね。」

「ふーん、姉弟仲は良いんだ?」

「そうね、喧嘩もしたことないわ。カルシュトの生母が私の母と揉めて、精神を病んで屋敷を追放されたらしいから、人との関わりとか揉め事とかを警戒しているのかもね。」

ロゼットは思わず苦笑いし、顔が少しひきつっている。想像以上に重たい話をしかも真顔で言ったので、色々と思うことがあるのだろう。

「な、中々ドロドロだね…僕この家に生まれてよかったかも。」

「そう思ったのなら、早くシャルロットと仲直りしてきたらどう?」

「うん…ちょっと行ってくる。」

 部屋で一人になった時、ふと考えてしまった。あの父母はともかく、カルシュトは今どうしているのだろうか。本当はあの家に近づきたくもないが、久しぶりに会いに行きたい気持ちのほうが強い。精神が不安定だったときと比べ、私も少しは成長しているようだった。

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