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レイニーの闘い

 フォルズは部屋でくつろいでいた。今の時間は6時。もう学校へ行くことなどないのに、ついいつも通りの時間に起きてしまったのだ。卒業式を終えたばかりだからか、それとも学生生活に未練があるからか、未だに実感が沸かない。

「ふぁ〜、誰か来ないかなぁ…ん?」

 ふと玄関から音がした。気になって行ってみると、誰かが玄関のドアを叩いているのが薄っすらと見えた。しかも道場ではなく自宅の方のドアを。

「はーい、今開けます!」

服の埃を手で払い、小走りでドアを開ける。すると、そこにはレイニーが立っていた。

「やぁフォルズ」

バタン…フォルズは迷わずドアを閉めた。そして深呼吸をし、静かに自室へと歩き始めた。ドンドンドン!外からレイニーが忙しなくドアをノックする音が聞こえる。非常に騒々しい。瞬時にUターンし、再びドアを開けた。

「やぁ」

「何しに来た」

「遊びに来た♪」

「帰れ」

「やだ♪」

時が止まったように静かになった。フォルズは面倒くさそうな表情で訴えかけ、レイニーは相変わらずニコニコ笑っている。両者一歩も引かない静かな戦いの最中、後ろから誰かの足音が聞こえた。と言っても、この早朝に起きている人など一人しかいないが。

「何だ?客人かって…おぉレイニー君。おら何してんだ、さっさと家に上げてあげろ。」

「はいはい、もー何でこうなるんだよ…」


 文句をブツブツと垂れながらも、フォルズはレイニーを座らせ、隣同士でパンとスープを食べ始めた。レイニーはスープを半分くらいまで飲んだ後、辺りをキョロキョロとし始める。不思議そうに見つめるフォルズに対し、レイニーは質問した。

「ねぇフォルズ。ゴルドー先生はいないのかい?」

「ん?あぁ、今は起きてきてないだけだと思うぞ。もう少しで臨時教師としての期間が終わるから、数週間したら居なくなるんだけどな。」

「そっか…うん、やっぱり来て良かった。」

レイニーはひとりでにそう呟き、小さく頷いた。一呼吸置き、レイニーは体の向きをフォルズの方へ変えた。何やら真剣そうな表情だ。

「実はね、ぼく本気でゴルドー先生に弟子入りしようと思うんだ。」

「え?あれ本気だったのか!?」

フォルズは思わず大きな声を出してしまい、その数秒後、ゴルドーと思われる足音が聞こえてきた。二人揃って急に静まり返り、心臓が忙しなく鼓動するのを感じる。リビングのドアが開き、ゴルドーが部屋に入ってきた。

「おはよ…って、レイニー君じゃないか。どうしたんだ?」

「おはようございます、先生。突然家に来てしまってすみません。本日は先生にお話があってきたのです。」

いつもとは違う、レイニーの改まった態度に困惑しながらも、ゴルドーはレイニーの前に座った。レイニーは被っていた三角帽子をフォルズに渡した。そして床に手をつき、ゴルドーに深々と頭を下げる。

「ぼくを、貴方の弟子にしてほしいのです。」

ゴルドーは一瞬だけ目を見開いて驚いた顔をした。だが、その後は両腕を組み険しい顔をしている。それはレイニーに見えるはずもなく、彼は話を続ける。

「貴方の活躍はよく耳にしています。魔術師適正でないながらも、その精密な魔力のコントロールにより数多の魔物を討伐したそうですね。そして、戦士養成学校の生徒たちからも信頼されている。」

「……。」

「クラージュの村を復興させるに当たり、二度とあのような悲劇を繰り返さないように…人々が魔法の力に恐怖することがないように、ぼくは貴方のような指導者にならなくてはなりません。貴方の協力が必要なのです。お願いします!」

それでもゴルドーは険しい顔を崩さない。眉間にシワを寄せ、ただ黙って頭を下げているレイニーを見つめている。フォルズが口を挟もうとしたその時、ゴルドーは口を開いた。

「…気持ちはわかった。だが、その話は飲めない。」

「理由を、お聞きしても?」

「魔法というものは、君が思っているほど生易しい世界じゃない。いくら鍛錬してもそれが上達につながるかは才能の問題だ。そして、自分の魔法で命を落とすこともある。君の今の言葉には、それら全てを跳ね除けて進もうとする確固たる意思が感じられなかった。今の君を、私の弟子にするつもりはないよ。」

ゴルドーは冷たいながらも、優しく諭すような声でそう言い放った。レイニーはゆっくりと頭を上げ、ゴルドーの目を正面から見た。レイニーはまだ諦めていないと、横から見ていたフォルズはそう感じた。

「…わかりました。なら、先生と決闘をするのは如何でしょう。ぼくが勝ったときには、弟子にしてもらいます。先生が勝ったなら、ぼくは諦めますから。」

「レイニー君、それは…」

「ぼくの意思の強さを、先生に証明してみせます。」

ゴルドーは深くため息をつき、困ったような笑みを浮かべた。何も言うでもなく、ただ首を縦に振った。


 同時刻、私は何故か今もロゼットを叩き起こす朝を迎えていた。先日僧侶クラスを首席で卒業した私は、依然としてロゼットの家に居候している。元々は今日の内に荷物をまとめるつもりだったのだが、アメラさんとシャルロットが、

「いいから。もっと少し家にいても良いじゃないの。」

「そうですよ。あと…一週間ぐらい!」

と言って聞かないのだ。全く、どうしたものだろうか。

 そのようなことを考え込んでいると、ロゼットは慌ただしく身支度を整え始めた。学校に遅刻しそうになったときの光景そのものだ。

「ロゼ、そんなに急いでどうしたのよ。」

「えっ!?あっ…いやぁ、ハハハ…ちょっと買い物にね!な、何でもないよ。」

 ここまで分かり易い嘘をつく人もそうそういないと思うが、まぁ良いだろう。それにしても、一体何をする気なのだろうか。私にも言えないこと、ロゼットの秘密事項……魔術書の読破…まさか、裏社会でお金稼ぎを!?何ということだ、ロゼットはそこまで追い詰められていたというのか。

「ロゼ…悩みがあるなら、気軽に言いなさいね。」

「(ラヴィが一番の悩みのタネなんだけど…)」

ロゼットは苦笑いしながら頷き、バッグをひったくるように掴んで部屋を出ていった。相変わらず理解できない人だ。

 暫くして部屋を出ると、ロゼットが丁度玄関のドアを開けているところだった。軽く見送りをした後、ふと気になったことをシャルロットに聞いてみた。

「ねぇ、ロゼは一体何を買いに行ったの?」

「え?それは勿論プレ……すみません何でもないです。」

プレ、と言うと恐らく誰かへのプレゼントで間違いないだろう。さしずめ家族か友達だと思うが、どちらにしろ私には関係のないことだ。

「(プレゼント、ね…そう言えば、感謝の印としてアメラさんには装飾品をあげたけど、ロゼやシャルロットには何もあげていないわね。)」

どうせ数日後にはこの家を出ることになる。その前に何かあげたい。仕方がない、ロゼットが帰ってくる前に買ってくることにしよう。思い立ったが吉日、私は外出の準備を始めた。

「あれ?ラヴィーネさんもお出かけですか。」

「えぇ、少し買い物に行ってくるわ。ロゼよりは早く帰るつもりよ。」

そう伝えると、シャルロットとアメラさんは互いに顔を見合わせ、にこやかに頷いた。兎に角納得はしてくれたようだ。靴を履き、私は小走りで繁華街へ向かった。


 繁華街は王国の外れにあるのだが、お陰でゆっくりと買い物を出来ると定評がある。年に一回バザーを開催しており、基本的に何でも揃っている便利な場所だ。たまに違法な密売人が混ざっていることもあるが。

「そうね、シャルロットには…きれいな髪を持っているし、髪留めを買おうかしら。」

 私は近くの装飾品店に足を運び、一通り商品を見てみた。シャルロットに何が似合うのかがわからないので相当迷った。結局、選んだのは薄いオレンジ色の髪紐。喜んでくれると良いのだが。

「次はロゼね、どうしようかしら?」

 この三年間、ロゼットには特にお世話になった。あの屋敷から連れ出してくれた恩人でもあり、大切で特別な友人でもある。物の価値よりも気持ちを重視するような人なので、案外手紙などが良いのかもしれない。店を出ようとしたその時、ふと花柄模様が刺繍されたスカーフが目に止まった。この花は、確かハーデンベルギアと言っただろうか。

「(花言葉は…運命的な出会い、奇跡の再会。うん、これにしましょう。)」

 会計を済ませて店を出ると、何やら大勢の人がどこかへ向かっている。そうだ、そう言えば今日は神託が下る日だった。きっと皆そのために神殿へ行く途中なのだ。理由もなく歩いている人々をボーッと見つめていると、その中に一台の馬車が見えた。直感で分かった。あれはガーチェ家が所有する馬車だ。つまりあの中に乗っているのは…!

「カルシュト!待って…!」

必死で足を動かし、手を伸ばせども馬車は止まらない。人と馬では速度が違いすぎる。馬車の影は虚しくも遠ざかっていき、やがて追えない距離にまで離れた。無駄だと頭では理解していても、どうしても諦めきれない。私は構わず馬車の後を必死に追った。

 神殿の前に着いた時、足を止めた途端に急に息が上がった。思わずその場に座り込み、冷静に呼吸を整える。そうするとある程度落ち着いてきたので、私はそっと神殿のドアを開けた。辺りを見渡すと、何だか様子が変だ。その場にいた人々は騒然としている。何か揉め事でも起きたのだろうか。

「あら、アンタ。アンタも信託を受けに来たのかい?」

声をかけられて振り返ると、後ろには見知らぬ老婆が立っていた。

「あっいえ、知り合いが神殿に行ったもので。」

「そうかい。ついさっき、信託受けに来た子と神殿の衛兵とで揉め事があったみたいでね。皆少しピリついてるのさ。」

「成る程…。」

暫く様子を見ていると、神殿の奥の部屋から誰か出てきた。見たところ衛兵ではなさそうだ。こちらの方へ、入口に向かって歩いてきている。ふとその子と目線が合った。緑の髪に、引き込まれるような金色の瞳。

「(カルシュト…なの?)」

三年の月日は短くても濃密なようで、最後に見た時よりカルシュトはずっと凛々しく成長していた。少しだけ、父の面影が強くなったように思う。カルシュトは驚いた様子で直ぐに目を逸らしてしまい、何事もなかったかのように歩いている。

「……良かった。」

すれ違いざま、確かに彼の微かな声が聞こえた。その一瞬だけ、瞬き一つで過ぎ去る僅かな時間の中で、私は初めて彼の屈託のない笑顔を見た気がした。何も言葉にできずただ硬直している間に、カルシュトは馬車に乗って行ってしまった。

 これで本当に良かったのだろうか。私はもっと、彼に話すべきことがあったのではないだろうか。そんな後悔ばかりが渦巻き、私は帰路についていた。あの時、彼や私にとって何が正解だったのかは、いつまで経ってもわからないままである。

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