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家族愛の探究

「だから、何で突然人を斬ったのかって聞いてるんだよ!」

「よく覚えてないわ。」

あれから一時間はたっただろうか。大人が喚きながら取り押さえてきて、何処に連行されるのかと思ったら、続けざまに質問攻めときたものだ。淡々と一問一答の会話を繰り返したり急にイライラしたり、この人は落ち着きがなくて嫌になってくる。

 大体、私は先程から何度も記憶が曖昧だと言っているのに一向に理解する気配がない。こちらの方が理解に苦しむ。

「はぁ〜、自身の令嬢がこの有り様とは…エリート騎士のモーリッツが聞いて呆れるな。」

目の前の人の何気ない一言が、私の逆鱗に触れた。突然腸が煮えくり返るような怒りが込み上げ、剣刃が紅くなった剣を喉元に突きつけた。

「お父様の侮辱は…誰であろうと許さない。」

「わ、わお…オレに怒んないでくれよ。勝手に揉め事起こした自分が悪いんだろ。」

「違う、あの人達が私を嘲笑ってたのよ!騎士になれなかったからって皆クスクス笑って!」

私がそう言うと、取り調べの人は首を傾げ、深くため息をついた。人を小馬鹿にしたような態度が本当に鼻につく。

「(情緒不安定なお嬢さんだ。殺人未遂に脅迫罪、加えて幻聴…こりゃ重症だな、精神科行きか。)」

その人はため息をつきながらファイルを腰に持ち、部屋を出ていった。長かった取り調べがようやく終わったようだ。


「これから貴方の刑罰を決めるので、暫しここでお待ち下さい。」

留置所の壁が薄いのと、話している人の声が大きい。会話内容が筒抜けだ。

「アイツを執行猶予と保護観察処分!?本当かよ、牢屋行きじゃねえの?」

「おいこら、デカい声出すな。大々的な刑を犯すとパパのメンツが潰れるから、だとさ。お貴族さんはいいよなぁ…ムカつくから鼻くそつけてやりたいわ。」

「その発言をお前の奥さんにチクっていいか?」

 そうして私は自宅に強制送還されることとなった。突発的に家出する形になってしまったので、父がどう思っているかが不安で仕方がない。何て言えばよいだろう、最初に謝罪すべきか?そんなことを考えているうちに、あっという間に馬車は屋敷に着いてしまった。

「ご自宅はこちらでしたね?これから定期的に私共が訪問するので、その時にまた。」

追い出されるように馬車を降り、屋敷の扉の目の前に立った。

「…ふぅ。帰ってきたのね。」

扉を叩くだけなのに、手が動かない。意を決して叩こうとした時、脳裏に父の顔が浮かんだ。眉をひそめ、屋敷の害虫を駆除するときと同じ冷たい目。この十数年見慣れた顔だ。

「(ガーチェ家の名を継ぐのに相応しい人間となれ。)」

そうだ、私はそのために生み出された道具だ…道具?違う、大切な子どもだ。それがわかっているなら、何故道具だと思ったんだ?父のことが好きで、敬愛してて、父も私を愛してくれるのに。でも、でもそれなら…それなら父親は子どもを殴るものなのか?母親は子どもを見ないものなのか?

 思い返せば、私は父と母に誕生日を祝われたことがない。王国騎士団のアフィーノ将軍は、毎年妻と息子の墓参りに行くと聞いた。息子の誕生日も、好きだった子守唄も全て覚えている。家族が大事だからと、律儀にも独身を貫き、新しく子どもを作る気もないらしい。

「(姉さんはどうしてそんなに頑張るのですか?)」

父に認めてもらうためだ、父に[ラヴィーネ]という人間を見てもらうためだ。騎士になればそれが叶うと思ったからだ。アフィーノ将軍は、家族三人で過ごした数秒にも満たない時間を何よりも大切にしている。私と父は十五年間一緒に暮らしてきた。

 ガチャッ、ギィー…入口の扉が開き、木材が軋む音が響く。そこには、険しい顔をし、私を蔑む父の姿が映っていた。

「ラヴィーネ…」

「…お、お父様。あの、これは違くて!」

 父は何も言わず、乱暴に私の髪を掴んで屋敷の中に引きずり込んだ。地下の薄暗い空間に階段の上から投げ落とされた。受け身もまともに取れず全身を強く打ち付け、立ち上がれない。暫くの間父の怒号が響き渡り、弁明の余地もなく、私は地下室にそのまま監禁された。


 暫くは生気が抜けたようにただボーっとしていた。それでも限界は来るもので、キョロキョロと周りを見渡してみた。

「時計がない…今何時なのかしら。」

すると、扉が開く音がして急に眩しい光が差し込んできた。目を擦りながら前を見ると、そこにいたのはカルシュトだった。

「カルシュト…?どうしたのよ。」

「…えっと。ご飯届けに来たんです。」

「あぁ、ありがとう。」

カルシュトは周りを警戒し、そしてなるべく音がしないように扉を閉めた。彼が持ってきたのは一個のパンだけだったが、それに野菜やら鶏肉やらがとにかくぎっしり詰まっていた。

「随分……詰め込んだわね。」

「おぼんを使うと、怪しまれますから。夕食の分から少し拝借したんです。」

いつもの食事と比べると食べづらいどころの話ではなかったが、それでも空腹を満たすのには十分な量だった。

「ありがとう、あぁそうだ。」

ずっと髪をまとめているのは流石に疲れる。いそいそと髪を解き、髪飾りをカルシュトに渡した。

「これ、私の部屋に戻しておいてくれる?」

「…!いいんですか?一応その、女性が身につけるものですし。男が触るのは…」

「いいのよ、別に。」

カルシュトはニコニコしながら髪飾りを受け取った。別に彼に贈ったわけではないのだが、それでも何か嬉しいことがあるのだろうか。

 昔から彼は私のお下がりを嬉しがっていた。父も母も殆ど構ってくれなかったので、人からものを貰える事が中々なかったのであろう。

「じゃあ、そろそろ行きますね。またご飯持ってきます。」

「次はもう少し少なめでいいわ。食べづらいし。」

軽く彼に手を振り、再び部屋は静かになった。ここは暗くて退屈な場所だ。家の名を汚した私への罰にはきっと丁度よい。冷静になった時、ふとカルシュトから貰った剣のことを思い出した。

「折角私にくれたのに…血で汚してしまったわね。」

いつでも私に対して優しい彼の姿を思い浮かべると、後悔せずにはいられなかった。


 次に扉が開いた時、そこに立っていたのは父だった。乱暴に一枚の紙を投げつけられ、確認するとそれは学校の入学証明書だった。

「戦士養成学校の入学手続きを済ませておいた。来月からはそこに通え…僧侶としてな。」

「はい、今度はガーチェ家の人間として恥じない振る舞いをいたします。」

父は鍵を開けたままその場を去った。恐らく、もう出てきても良いということだ。服の埃を手で払い、私は二日ぶりに自分の部屋で落ち着くこととなった。

 これで全て元通りだと思った。でも違った。自分のベッドで寝転がった時、父の冷たい目が頭から離れなくなってしまった。父に殴られた痕一つ一つがたまらなく痛くなった。

「(お父様は、私のことどう思ってるの?)」

考えれば考える程、幸せな家族というものがわからなくなる。望まれて生まれた子どもなのだから、親は無償の愛情を注いでくれるものだと…そう思いたい。大丈夫、私は愛されている。そう言い聞かせながら、その日は床についた。

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