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貴方がいる舞台

 走る、走る、疲れる。取り敢えず私達は今走っている。他のグループの劇を一目見ようと、四人で全力疾走している真っ最中だ。視界に劇の観客の姿を捉えた、あと少し!私は更にスピードを上げ、他の生徒の待機場所に滑り込んだ。

「はぁはぁ…やっと着いたな。」

「そ…そうね。間に合ってよかったわ。それで、レイニーとシトラはどうしたの?」

「…置いてったの、俺【たち】だよな?俺一人の責任じゃないぞ。」

互いに何とも言えない顔をし、先程来た道の風景をひたすらに見つめた。数分後、レイニーとシトラが息切れしながら走ってきた。

「ぜぇ…ぜぇ、フォルズくーん?良くもぼく達を置き去りにしたねぇ…?」

「あぁ…おっしゃる通りです。」

「ラヴィちゃんもー、友達を置いていった割には…涼しい顔してるね?」

「…ごめんなさい。」

この私とフォルズが、正座をしてレイニーとシトラに静かに平謝りしている。いつもと立ち位置が完全に逆転しているではないか。しかし、完全に私達が悪いので今は謝るしかない。

 お説教の最中、何処からか大勢の人の拍手の音が聞こえた。どうやら劇が終わったようだ。それと同時に、あるグループが立ち上がり舞台裏に向かった。よく見るとそのうちの一人はロゼットだった。

「ロゼ?貴方まだ劇やってなかったの?」

「ん?あぁ、僕達の番は一番最後だからね。今から始まる劇の…次くらいかな?」

「そう、楽しみにしてるわね。」

ロゼット達のお陰で二人の説教は終わり、心の底から深く感謝した。足が痺れてきたので丁度良い頃合いだ。さっさと楽な体勢に戻し、残りの劇を楽しむとしよう。


 また劇が一つ終わり、残るはロゼット達だけとなった。ゆっくりと赤色の幕が上がり、舞台に現れたのは貧相な身なりをしたロゼットだった。体の様々な箇所に包帯が巻かれており、つぎはぎだらけの服にボサボサの髪。片目は汚い布切れで覆われ、それに加えて露出している肌には水ぶくれがペイントされ、赤くなっている。

「…食べ物、ないかな。」

 彼はゴミ捨て場のゴミ袋の中を手で漁ったが、結局何も見つからなかったようだ。その後ふらつきながら街なかを歩き始めた。人とすれ違う度に奇異の目で見られ、皆意図的に彼を避けていく。そんな中、ふと賑やかな音楽が聞こえた。

「騒がしいな…何だろう?」

ロゼットが近くの建物の窓から覗き込むと、紫髪の踊り子が酒場で美しい舞を舞っていた。観客は皆感嘆して見入っている。そのあまりの完成度に、そして見慣れない人の笑顔に、彼もすっかり見入っていた。

「(あの紫髪の人…リシュアさんだったかしら。ロゼがよく話してたわね。)」

暫くすると音楽は聞こえなくなり、踊り子が皆にお辞儀をすると一斉に拍手が巻き起こった。皆席を立ち、酒場の出入り口を通って家に帰り始めた。

「おいお前、何見てんだよ。」

「えっ…あぁえっと、その…!」

一人の酔っぱらいがロゼットに絡み、邪魔そうに突き飛ばした。彼は派手に転び、すると腕から、固くなった皮のようなものがボロボロ地面に落ちた。

「うっわ、何だこいつ!気持ちわりぃなぁ。皆逃げろ〜、菌が移るぞー!」

「あ、あの!これは生まれつきの病気で…人にはうつらないんです!」

ロゼットは必死に訴えたが聞く耳を持たず、酔っぱらいは千鳥足で何処かに行った。丁度踊り子が酒場から出てきたその時、彼女は立ち止まって彼に話しかけた。

「大丈夫でしたか?お怪我は…」

「貴方は…平気なんですか?だってほら、皮も固くて変な色してるし…」

「伝染しないんでしょう?なら大丈夫です。それより、片目は見えてないんですか?」

魚鱗癬(ぎょりんせん)と角膜炎の合併症で…元々見えてないんですよ。」

 数分の会話の後、踊り子は軽く挨拶をして去っていってしまった。しかしどうしても踊り子を忘れられなかった彼は、彼女を探すために旅をする、というのが物語の主軸だ。彼は様々な人に踊り子の行方を聞き、見た目をからかわれたり山賊に襲われたりしながら旅を続けていく。

 そして半年後、彼はようやく踊り子が今滞在している街に辿り着く。勇気を出して酒場の中に入り、踊り子が来るのを待った。

「アイツ包帯巻いてるぞ…何か服もボロいし。」

「どうせ親に捨てられたんだろ。見るからに子供だ。」

また周りの人は彼を変な目で見るが、今だけは気にしていない。それ以上にドキドキする気持ちのほうが大きいのだろう。彼は深呼吸し、何度も手を握ったり開いたりしている。

 ついにドアが開き、でてきたのは確かにあの踊り子だった。彼女は彼を見た途端、あっと声を上げ、手招きした。一緒に踊ろうと言うのである。ロゼットはキラキラとした目で踊り子に近づき、共に踊った。

「またお会いしましたね。ここに住んでいらっしゃるのですか?」

「いえ…貴方に、会いたかったんです。僕はエイダと言います。」

「私はフォルトゥナです。ふふ…貴方と踊ると楽しいです。」

 ダンスが終わり一段落つくと、二人は席に座り話し始めた。

「エイダさんは、家はないのですか?」

「えっと…はい。少し前に事故で両親が他界して、誰にも引き取ってもらえなくて…」

「それなら提案があるんですけど。私と旅をしませんか?」

その言葉に驚き、エイダは一瞬固まってしまった。何かを言おうにも、言葉が出てこない。そのような心境を感じ取ったのか、フォルトゥナは笑顔で続ける。

「貴方のように、病気で苦しんでる人を元気づけられるかな…と。嫌なら断ってくれて構いませんが…」

「…!はい、ぜひそうしたいです。寧ろこちらからお願いします!」

最後にロゼットは席を立ち、観客席の方を向いて呼びかけた。

「世界中を旅して…そして伝えたい。病気で苦しんでいる人達は、ハンデを背負いながら生きている普通の人なんだって。」

すると舞台の中心にグループの四人が勢揃いし、観客たちにお辞儀をした。これが最後だったので、観客は今まで以上に盛大な拍手を送った。

 すべての劇の発表が終わり、行事は閉会式に移行する。学長の長い講評に保護者の感想発表、閉会の言葉。保護者は次々と席を立って学校からでていき、広場には生徒と先生だけが残った。先生の指示で並べられた椅子や劇の舞台などを片付けていき、十数分後には広場は元の広々とした場所に戻ってしまった。私達の劇は終わりを迎えたのだと、改めて感じた。


 その日はフォルズとレイニー、シトラの三人と一緒に下校した。

「劇、終わっちゃったねぇ…」

シトラはしみじみとした様子でそう呟いた。一ヶ月半程四人で練習を重ねてきたので、やはり寂しいのかもしれない。

「まぁ一時はどうなることかと思ったけど、上手くいったね☆」

「全くよ。フォルズが急に倒れだすから…」

フォルズは苦笑いをして頭をポリポリ掻いた。するとレイニーがニヤニヤしながら、私にしか聞こえない声でこう言った。

「その分シトラさんの意外な一面が見れたね♪」

「……レイニー、貴方ね。」

あの非常事態で雰囲気を楽しむ余裕があったことが何よりの驚きだ。それでも、劇の練習を通してシトラの色々な一面を見れたのは確かなので、否定しきれない。

「それにしても…シトラ、よく喋るようになったよなー。」

「え…そう、かな?」

「私もそう思うわ。人付き合いが苦手そうには見えないし、最初に距離を取っていたのが不思議なくらいよ。」

私が何気なくそう言うと、シトラは少し口籠ってしまった。何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。

「まぁ、友達つくる気が無かったからね…」

「え?シトラさん、何か言った?」

「いいや、何も。じゃあ、あたしこっちだから!また明日ね。」

シトラは私達に手を振り、別の道へ走っていった。彼女の変な様子に、三人とも疑問が隠せなかった。

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