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赦されたくない思い

 討伐隊に発見された後、俺は大人たちと両親の見るも無惨な遺体と共に里に帰ってきた。暗い顔をした俺達にいち早く駆け寄ってきたのは、他の誰でもない俺の祖母だった。

「息子は…息子は何処なの!?」

祖母の涙ながらの質問に隊長さんは答えず、代わりに俺が抱えていた父親の遺体を見た。昨日まで俺がおんぶされていた筈なのに、あのときの父親は俺が頑張っておんぶできるくらい軽かった。

「あぁ、そんな。そんなことって、うぅ…息子が…自慢の息子が何をしたというのよ…」

祖母は俺から父親の遺体をぶんどり、膝から崩れ落ちた。俺はそれを、ただ見ていた。


 両親の葬儀の日、俺は魂が抜けたようになってただ立っていた。祖母は俺のところに走ってきて、思い切り頬を平手打ちした。

「アンタのせいで息子は!お嫁さんは死んだのよ!アンタなんかが産まれてきたせいで…この疫病神!返してよ、二人の幸せな未来と日常を返しなさいよ、ねぇ!」

祖母は俺を罵ってなんかいない、だって全部本当のことなんだから。腹の虫が収まるまで殴ってくれ、蹴ってくれ。俺に親殺しの罪をもっと自覚させてくれ。

 このまま殺してくれた方が良かったけれど、祖母は葬儀の参列者に取り押さえられた。その間にも葬儀は淡々と進行し、遺体を火葬するために二人の棺が運ばれていった。

「待って、待ちなさい!燃やさないで、二人はきっとまだ生きてるわ!だから連れていかないで…私を独りにしないでよー!!」

祖母の痛々しい叫び声が響き渡り、俺の目からはようやく涙が出てきた。自分が殺した罪悪感とかじゃなくて、ただ父母と別れる悲しさに涙が止まらなくなったんだ。もう会えない事が耐えられなくて、誰にも思いをぶつけられなくて、堪らなく辛かった。


                ▷▷◁◁


「それで次の日の夜に、両親の後を追おうと思って里を出ていったんだ。でも魔物には中々遭遇しなかった。死ねないまま三日くらい彷徨って、俺はある村に行き着いたんだよ。」

「…それがぼくが住んでた村ってことかな?」

真顔でそう聞き返したレイニーに対し、フォルズは苦笑いしながら頷いた。

「そう、確か暫くレイニーの家に泊めてもらったんだよな。」

「何してるのか聞いたら、『死にに来た』っていうからビックリしたよ。フォルズは直ぐに村を後にしたけど…まさか学校で再会するとはね☆」

「ははは…それで、村を出発してから偶然この王国に着いたんだ。そこで剣の道場主に拾われて今に至るってわけだ。」

フォルズは一通り話し終えて疲れたのか、再びベッドに寝転がり布団の中に入った。フォルズの壮絶な過去に、私達はかける言葉を失ってしまった。劇の最中にあれだけ取り乱す理由もわかった気がする。

「フォルズ…あの、その。」

辛かったわね、でもない。なんて酷いことを、いやこれも違う。必死にフォルズにかける言葉を探していると、彼は寝返りを打ってそっぽを向いた。

「いいよ、何も言わなくて。俺は可哀想なんかじゃない、ただの…殺人鬼だから。」

その言葉に、私は何も言い返せなかった。場は再び静まり返り、軽々しく何かを言える雰囲気ではない。すると、シトラはベッドの近くの椅子に座り、布団から見え隠れするフォルズの顔をじっと見つめた。

「な、何だよ。」

「…頑張ったね。」

シトラは優しく微笑み、フォルズの手をそっと握った。フォルズは女子と手を繋いでおたおたとした様子だ。

「劇の台詞聞いてたよ。自分のせいで大切な人が死んだって…そう思って生きるのが辛いって言ってたよね。」

「…うん。」

「フォルズ君は…自分を責めながら今まで生きてきたんでしょ?偉いじゃん。」

フォルズは今度は頭から布団を被り、すっぽり埋まってしまった。シトラは布団越しに彼の頭を撫で、こう続けた。

「ご両親を殺したのは魔物、だけど私はフォルズ君にもその責任があると思ってる。」

「やっぱり…そうだよな。」

「うん。でもね…その責任を真摯に受け止めるところも、辛くても歯を食いしばって我慢できるところも、全部フォルズ君だけの魅力なんだよ。」

フォルズはそれを黙って聞いていた。否定も肯定もしないところが、彼の複雑な心境を表していると言えるだろう。

「あたしはフォルズ君のそういうところ、全部ひっくるめて好きだよ。だから…『泣かないで』。」

ーもう泣かないで、フォルズー

ー取り敢えず笑っとけば、良いことあるぞ?ー

フォルズは突然ガバッと起き上がり、弱々しくシトラの手を握り返した。シトラが目を丸くしてフォルズを見ると、彼は迷っているような、曇ったような顔つきをしていた。

「…俺、生きてて良いのかな?お母さんとお父さんの息子のままで、良いのかな?」

「勿論だよ。それに、お母さんがフォルズ君の命を繋いでくれたってことは…少なくともこれからの人生に意味があるってことじゃないかな?」

シトラのその言葉で、フォルズはこれまで我慢してきた分の感情が溢れたようだった。シトラの手を握ったまま、子どものように泣いていた。

「ずっと…ずっと辛かった、苦しかった!両親の顔もはっきり思い出せないのに…どす黒く固まった血の匂いと、人が冷たくなっていく感触だけ覚えてて…!剣を握るたびに実家の鍛冶屋のことを思い出して、婆ちゃんに責められる夢見るんだ。その度に消えたくなった。魔物を倒して…人を救って償えると思ったのに、全然楽になれなくて!」

「うん…うん。キミが赦せなくても、私がフォルズ君を赦すから。だから、何でも我慢しちゃ駄目なんだよ。」


 フォルズが泣き止んだ後、彼の目元は赤くなり、まぶた付近の涙袋がパンパンになっていた。その顔には端から見ると変顔と同等の面白さがあり、私とレイニーはお腹あたりを抑えて必死に我慢している。

「もー…泣かないでって言ったのに、余計に泣いてどうするの?」

「へへへ…ごめん、ごめん。でも何だかスッキリしたよ。シトラ、ありがとうな。」

シトラの励ましにより、フォルズは完全にいつもの調子を取り戻した。ベッドから起き上がり、医務室の先生に頭を下げた。

「先生、ベッドを貸していただき本当にありがとうございました。お陰ですっかり体調が良くなりました。」

「おう、ともかくもうあんな無茶なことするなよ?命がいくつ会っても足りねーよ。」

「はい…今回の一件でかなり反省しました。もうあんな事はもう二度ごめんですからね。」

先生にお礼を言い、私達は学校の医務室を後にした。先生が喜んで少し喜んだ表情で手を振ってくれたので、その場の四人とも先生に手を振ってドアを締めた。

「皆に心配かけちゃったかな?ごめんなぁ…さぁて、残りの同級生の劇見に行くか!」

「うん、そうだね☆流石にぼく達も一班くらいは見たいよ。」

「何ならそうしないと、後で感想書けないわ。早く広場に戻るわよ!」

「そうだね、どんな劇が見れるかなぁ〜。」

私達は校舎の扉を開け、広場に向かって一目散に駆け出した。後ろを見ると私とフォルズが先に行ってしまい、レイニーとシトラは完全に置いていかれている。

「こらー、ガーチェさんとフォルズ!少しは運動音痴に配慮してよ!」

「そうだそうだー。」

「へへっ…悔しいなら追いついてみろよー!」

フォルズが少し走る速度を緩めた後、ふと彼の独り言が聞こえた。

「…友達に恵まれたなぁ。今、すっごい幸せ。」

走っているときの向かい風が、この時はやけに爽やかに感じた。

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