神殿の外
2日程して元老達の許可が出たからとサルマは迦暢を外に連れ出してくれた。
しかし頭から布を被り、あまり顔を出さず、サルマと決して離れないというのが条件だ。
神殿を出ると大きな広場があり、真っ直ぐな道が続いている。両脇にはちょっと高そうなお店が並んでいた。
欲しいものは買って貰えるそうだが、装飾品にはあまり興味がない。服や生活用品は神殿で支給されるし、今のところ気になっているのは一点だけだ。
異世界転生やら聖女召喚で高確率に話題となる食事問題。
この国は砂漠で囲まれていると言うのに有難い事に海が近いらしく米も魚もある。
ラクダのコブやサボテンステーキは好きじゃないが、それ以外は結構美味しく食べられるものの方が多い。ただ甘辛スパイス風味でどれも味が似ているので若干飽きてきた。
迦暢の家は寺という事もあるかもしれないが、和食が基本だった。
米の方が好みだと伝えたせいか迦暢には米が出てくる。魚の炭火塩焼きをお願いしてみたら叶えてくれたので実はそこまで困っていない。だが、流石に味噌汁はないのが現状だ。
味噌汁がないなら、味噌を作ればいいじゃない?
ありがちな異世界パターンとしてここはやってみるべきだろう。
天眼通である程度下見はしてあるものの、他にもどんな料理があるのかとか町の様子とか確認したいという想いが迦暢にはある。
外壁の中を一回りして、最後に門に程近い市場に2人は辿り着いた。
「ここが市場だ。はぐれない様に手を離すんじゃないよ。広くて混み合っているから、はぐれたら最後だ」
白い布を張っただけのテントがぎゅうぎゅうに連なっている。カゴにランプ、銀製品、ビーズの付いた靴、ストール、そしてスパイス・・・万華鏡の中に迷い込んだ様に色が溢れていた。
特にランプ屋が並ぶあたりは、アラジンの世界みたいな吊り下げられた色とりどりのガラス細工に火が灯り綺麗だ。
「どれか買っていくかい?」
ランプの美しさに目を奪われていたら、サルマがそう言って笑う。でも迦暢は首を横に振った。
「どれか一個なんて決められない。それにきっと沢山あるから綺麗なんだよ」
旅行だったら買っていたに違いない。
だが今、生活に必要かと考えれば不要なものだ。それに自分には自由になる金はない。
なんでも好きな物を買ってくれるとサルマは言ったが、それに甘える程迦暢は金の価値を知らない子供ではないのだ。
「サルマ、またここに連れてきてね」
「あぁ。見るのはタダだからな」
山盛りのフルーツや香辛料がいつか雪崩を起こすのじゃないだろうかと心配しているうちに、サルマがいつの間にか買ってくれていたオレンジジュースを飲みながら食料品エリアに突入した。
見たことのない食材が沢山並んでいるが、やはり味噌はない。
大豆と塩は見つけたが、麹があるわけなかった。
作れば良いと思っていたのにまずもって材料がない。菌の培養は流石に怖過ぎる。と言う事は醤油も無理だ。
「欲しいものはありそうかい?」
「多分ない・・・」
「何が欲しかったんだい?」
「味噌と醤油」
「聞いたことないねぇ」
神殿でも聞いてみたが皆知らないと言っていた。と言う事はこの国になのか、世界になのかは分からないが近くにはないと言う事だろう。無念。
ではセオリーのマヨネーズか?ふわふわのパンか?ケーキか?
だが待って欲しい。卵って日本以外はサルモネラ菌付いているから生卵食べてはいけないと聞いたことがある。ということは生のまま卵を使うマヨネーズは危険なのではなかろうか?
パンやケーキも作った事はあるけれど、分量を覚えているわけではないので無理だ。
出来るとしたら全部同じ分量入れればいいだけのカトルカールくらいだろう。しかしオーブンがない・・・はい終了。
異世界で作れそうなご飯って何よ?
カレーライス、たこ焼き、オムライス、ホワイトシチュー、ハンバーグ・・・あたりだろうか?ケチャップもないからフレッシュトマトでトライアンドエラーを繰り返すしかない。
よし、今日から私の趣味は料理にしよう。そうしよう。
結局、最初はホワイトシチューを作ることに成功し、他のものもそれなりに作る事は出来た。しかし地元民には食べ慣れた味と違うこともあり、美味しいと言ってくれる人とちょっと…と言う人に分かれる事となったのである。まぁ現実なんてそんなもんだよね。
そこから少しずつサルマと買い物に出る様になり、身分を明かしてはいないけど町の人達とも交流を持つ様になって、ラクダや馬にも一人で乗れる様になった。
ババのオマケではなく、元老達の依頼のみだが個人で依頼を受ける様になったから多少自由になるお金も貰っている。お陰でおつかいがてら隣町にも一人で行ける様になった。
この世界に来てから2か月、かなりの成長である。