Never Ending
画文帯仏獣鏡はもはや迦暢の一部であり、ゲートなので日本に持ち帰る事はできない。
その為迦暢は芸術に造詣が深いというカルリトスに写真を渡して模造品を作ってもらった。
ちゃんと大きさを指定しなかったのもあって本物より少し大きめではあるが、置くとベンディス様が鏡を抱えた様に見える台座まで付いていてかなり素敵な出来栄えだ。
ヴァルダマーナからの依頼というのが大きいのか、それ以外にも如来様を透かし彫りした装飾品を何個か作ってくれた。
あまりに出来が良いので、金で作られたものは何度か訪れている外務大臣にお土産として総理の分と合わせてお渡しした。
どれも一応、迦暢が神殿でお祈りをして厄難消滅の願いを込めたものだ。
ヴァルダマーナを花園で守ったのは迦暢がネームタグに込めたお祈りの成果とベンディス様の護りの相乗効果だったららしいので単品で効果があるかは分からないし、こちらからすると異世界である日本でも効力があればいいなぁ程度の気休めのつもりである。
迦暢がそれらを日本側に渡した事も忘れた頃、思いも依らず絶大な効果があった事が報告された。
異世界が繋がった話は報道規制が敷かれたままになっているものの、自衛隊の派遣などでかなり知る人も増えてきたらしい。
その為、外務大臣が彼の地を訪れた事も知られ、行く先々で異世界について話をせがまれているそうだ。
大変美しいので気に入ったのもあるが、外務大臣は異世界の話をせがまれればそれを見せながら話しをするために日々胸元にお土産に貰った装飾品を付けていたらしい。
その日、公務で海外に居た外務大臣は銃撃戦に巻き込まれた。
あわやと思われた瞬間、大臣は光に包まれ、テロリスト達は何故か動かなくなった銃を手に硬直してすぐに取り押さえられたらしい。
ミラクルだ、とは言われたが、その時はまだその光の元が何だったのか誰にも分からなかったそうだ。
それから数日後、千葉を震源とする大地震が起こったらしい。
しかし緊急地震速報が鳴り響き、ぐらっと来たと思った瞬間に迦暢の実家である寺から光の柱が立ち、揺れは気のせいかと思う程度で終わったそうだ。
都内の至る所で信心深い人達が空に巨大な四天王(東に持国天、南に増長天、西に広目天、北に多聞天)の姿を光の中に見たらしい。
震度計はマグニチュード7.2を示して居たのに、被害は何も発生しなかったとの事だ。
そこで異世界のことを知る重鎮の間で土産に貰った異世界の物のご利益ではないかと話題になり、総理も執務室の金庫にしまっていたお土産を持ち歩く様になったらしい。
「これが本当なら需要が高まりそうですね」
「あまり増やし過ぎるのもどうかと思うが、カルリトス兄上が役に立つならこの上ない事だ」
辛辣な物言いだが、穀潰し扱いされ大分肩身の狭い思いをしているらしいカルリトスの使い所を見つけられてヴァルダマーナとしても安心もあるのだろう。
迦暢が作品を喜んだことが単純にカルリトスは嬉しかったのもあるらしい。
あれから頼んでもいないのに次から次へと作品を作っているそうだ。
たまに迦暢はこっそり作品を見せてもらって、気に入ったものは対価を払って買い取っている。
と言ってもお金の出処はヴァルダマーナだが。
「日本はもともと地震が多いんですけど、日本の半分くらいが被害に合う想定の大きな地震がそろそろ来るって話があるんです。それでなくても温暖化やらの影響で雨の降り方とかも変わってきてて、そういったのが少しでも減らせるなら嬉しいなって」
「・・・どうやら迦暢の使命はまだ終わっていなかったようだな」
「え?なんて言いました?」
呟かれた言葉が聞き取れず、聞き返したがヴァルダマーナは穏やかな笑みを浮かべ隣に座る迦暢を抱き寄せ髪にキスをする。
「いや、何を作らせたらいいかな?、と」
「小さめの装飾品と画文帯仏獣鏡を何個か作っておいてもらえるようにお願いしておいて貰えますか」
「あぁ、分かった。この話の神託は受けたのか?」
「いえ、迦南から手紙がきただけですけど、そうですよね、ちゃんとお釈迦様に本当に効果があるのか確認してみますね」
「あぁ、一度話した方が良いだろう。ただ、」
ヴァルダマーナが迦暢の頭を完全に抱え込むように深く抱きしめる。
いつも隙あらば抱きしめられてはいるが、夫婦のじゃれあいにしては様子がおかしいと思い迦暢は相手の顔を見ようとするが完全に抱き込まれてそれも叶わない。
「ヴァル?」
「私はもうお前と離れる事は出来ない」
「なんで急に離れる話になってるんですか??」
「私も其方の神と話せればよいのだが」
「何か聞きたい事があるんですか?」
「諸法無我であればよい」
「え、なに??どういうこと??」
原油のお陰で国は潤い始めている。
勿論、日本から受け取れるお金は日本円だ。
黒い沼と呼ばれていた原油が採れるあたりはそもそも人も住んでいない場所なので、日本によって急ピッチで開発された。
取引価格は今、日本が他国と取引に使っている原油価格を使用する為変わりがない。
しかし異世界から日本へは迦暢がカルリトスに作ってもらったお釈迦様の像を荷を運びたい日本の場所に設置しておいて貰えば迦暢が祈るだけで転送出来る様にお釈迦様がしてくれたので、送料がほぼ掛からない為大幅にコストが下げられるのだ。
ちなみに送料は釈天兄と外務省が知らぬ間に取り決めたあちらからこちらに送る際と同じ祈祷料らしい。
原油を売ったお金はヴァルダマーナが管理し、祈祷料については迦暢の口座に入れられているはずだ。
定期的に黒い沼へ迦暢が祈祷のために赴かなくてはならないが、今は日本側がヘリで運んでくれる。
近い未来、王都近くから電車を走らせる計画だ。
急激に王都と隣接するサルマの父親が領主を務める街は発展を遂げている。
ソーラーパネルの設置、電気の開通、交通の整備、下水道の完備、宿泊所の建築・・・。
既に日本でもこちらの国でも異世界との流通は公になった。
日本では若者を中心として大騒ぎになっているそうだが、如何せん映像も資料も国から出されたものしかない状態でワイドショーでもやりようがない。
しかし地震の際に光の柱が立った中心であり、最近姿を見せなくなった娘がいたり、人の出入りが怪しい我が家が関係してそうなのは間違いがなく、取材の申し込みやらは殺到しているので警察が常駐するハメになっているそうだ。
家族と覚如君の家族にはお守りを渡してあるが申し訳ない限りである。
檀家さんと完全予約制の祈祷の申し込みをした人以外は立ち入り禁止。
カルリトスに作ってもらった画文帯仏獣鏡を覚如の家の寺と、我が家と同じ流派で大きめなお寺に総本山を通して撒き餌として配り、祈祷の際にそれを見せる事にした。
お陰でどの寺も祈祷殺到。
お釈迦様曰く、寺や神社に参拝する人が増え、神仏を信じる日本人が増えたそうだ。
世界的に気候変動は進んでいる。
それでも日本だけが異世界からの画文帯仏獣鏡に護られている状況で一部の国から疎まれるのは仕方のない事だ。
日本国に向かってミサイルを射とうとした近隣の国は画文帯仏獣鏡の加護に跳ね返され自国がミサイルを受ける事になった。
ミサイルの制御がたまたま悪かっただけだとその後も撃ってきたが結局同じ結果になり、自国の武器で自国の防衛システムを破壊するという危篤な自業自得の結果ではあるが各国から非難を受けたようだ。
それ以外に日本でのテロ行為も同様に塞がれ、マトモな国は日本への援助を求めてきている。
世界の情勢を思うと一瞬躊躇うが、気候変動を思えば迦暢が個人的感情を優先した結果だとしても正しかったと思えた。
「桜が綺麗だな」
「いいお天気だし、良かったねデブクマール」
外国人モデルか?と思えるほどにスーツ姿がカッコいいヴァルダマーナと迦暢の間で手を繋がれた子供が2人を交互に見上げる。
父親譲りの浅黒い肌と紫色の瞳。
母親譲りの大きくてぱっちりとした二重。
都内の名門小学校の真新しい制服を着た少年は澱みない日本語で答える。
「お友達出来るでしょうか」
「それは其方次第であろう」
「出来るわよ。マルは良い子だもの」
「母上は楽観的過ぎます」
6歳とは思えぬしっかり者の長男は先に日本の大学に通わせてもらったアーロンと釈天の教育によりはっきり言って日本の子供達より精神年齢がかなり高い。
それでもやはり義務教育や日本文化、日本人の考え方を学び、迦暢の後継となる為に日本の小学校に通う事になったのだ。
国交樹立からはや10年。それはヴァルダマーナの希望だけでなく、今後もゲートを維持し、国交を末長く続けたい日本国の希望でもある。
子供に生まれながらに責任を負わせる事を申し訳なく思う部分もあるが、子供達には王族としての矜持があり、あまり苦に思っていないようだ。
そういう強さはヴァルダマーナに似ている。
「パーサ叔父上から日本で友達を作るのが王族としてのとても大事な仕事だと教わりましたから、頑張らねば」
「気負い過ぎだよ」
真面目過ぎる長男が少し心配になる今日この頃だ。
そもそもパーサが王位が継げば大公に臣籍降下する事が既に決まっているので正式には王族ではない。
ただし、日本とのゲートを担う迦暢の子供達は巫女の血族と同じで国として保護されゲートを維持する事が求められる。
「何事も多くの要因が絡み合っているのだ。其方が一方的に頑張っても良い結果にはならぬ。ただその時の最善を尽くしてゆくしかない」
「はい、父上」
ヴァルダマーナは初めて迦暢の実家と交流してからというもの、日本語だけでなく仏教についても学び始めた。
今では迦暢よりもヴァルダマーナの方が日本の歴史や仏教にさえ詳しい。
お陰でお釈迦様とも会話が出来るようになった。
だからこうして父や兄の様な事を言う。
「本当、幸せだなぁ」
そう呟いた迦暢の横顔を眩そうに目を細めて眺めながらヴァルダマーナは呟いた。
「救うべき世界というのが一国だけを指すはずがない・・・」




