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再会

ぐにゃりと目の前が歪んだ様に見えたと思ったら、次の瞬間には両親と弟が目の前に立っていた。

お互い呆気に取られすぎて感動の再会というより、口を注ぐんだまま目を合わせて頷き合った。


「おぉ、すげぇ!まじ異世界じゃん!」


空気を読まない弟がきょろきょろと周りを見回して感嘆の声を上げると、両親も迦暢も呪縛が解けたように動き出せた。


「迦暢」


お互い歩み寄り、母親と自然と差し出した手を握り合う。

日本に居た時は手を繋ぐことなんてもうなかったのに。


「お母さん」

「ヴァルダマーナ、さま?」

「うん、ヴァルダマーナ様」

「写真よりイケメンねぇ」


迦暢の背後に立つヴァルダマーナに両親がちらりと視線を向ける。

ヴァルダマーナはニコリと笑ってその視線に応えた。

父親の方に一歩踏み出し差し出した手に父親が真面目な顔で応じる。


「よくいらして下さった」

「迦暢がお世話になっております。迦暢の父です」

「ヴァルダマーナだ。ここは祈りの場なので、とりあえずゆっくり話が出来る場所にでも移動しよう」


後ろに控えていたウンベルトが先頭に立って両親を案内する。

迦南が何故か既にファラムンドと打ち解けあった様で和気藹々と話ながらその後に続いた。


「ヴァルダマーナ様、言葉通じてました?」

「あぁ、迦暢と同じレベルで通じるな」

「どういう仕組みなんでしょうね⁈」


不思議がる迦暢の腰をガッチリ抱き込む様にしてエスコートされるが、迦暢は言葉の不思議を考えるのに夢中で気づいていない。

そもそも王都に戻ってきてからというもの、ヴァルダマーナが迦暢をあまり離そうとしないのですっかりこれが当たり前になってしまったというのもある。


「父君の服装は迦暢の国の正装か?」

「あれは職業柄の正装ですね。弟が着ているような格好が普通ですよ」

「迦暢の普通の格好も見てみたいものだ」

「あまり変わらないですけどね?もっと簡易ですけど」


父親も母親もなかなか普段着ない一張羅だ。

特に父親は檀徒の大きな集まりでもない限り着ない九条袈裟を纏っている。

ただし紫は王族の色なので避けた方がいいと伝えた結果、最近着ている紫ではなく一つ昔の緑色の着物だ。

弟は学校の夏服である。

迦暢も今日は辺境でアドラシオン様に見立てて頂いたいつもより良い生地の服を着ていた。

ここは砂漠に囲まれた暑い国だ。

それでも建物の廊下に細く溝が掘られ、そこを水が常に流れているので建物の中は涼しい。

領土のほとんどを砂漠が占めているが、この屋敷には裏から引いた水の溜池としての役割もあり、中庭にはアーチ状に流れる噴水の脇に緑や花も多く植えられている。

東京の夏はジメジメと湿気が酷いが、湿気もなくそんな中庭の水面を撫で大きな窓から風が通るので建物内にいる内は着物を着てきた両親もそう暑くはないだろう。


「ここはいい場所ですよね」


ついそう溢した言葉はヴァルダマーナに聞こえなかったのか返事をしなかった。

王とも会った応接間で両親と改めて向かい合う。

すぐにウンベルトが飲み物とガレットをサーブする。


「お茶が良ければお茶も出せるよ」

「これはカフェオレ?」

「うん、割と普通のカフェオレ。迦南のはアボカド?のヨーグルトドリンク」

「アボカド!!」


敢えてのアボカドである。

まぁこちらではアボカドとは呼ばないみたいなのだが、迦暢が飲んだり食べたりした感じではアボカドとほぼ同じなのでアボカドとした。

割とよく街では飲まれてるジュースなので、厨二病の弟に合わせたチョイスにしておいたのだ。

迦暢は加護のお陰で腹を壊す事もないが、3人が迦暢と同じ条件か分からないので一応気を使っている。

お釈迦様には大丈夫だと聞いているが、万が一を考えてカフェオレに使っている水も送ってもらったペットボトルの水を温めたものだ。ミルクはこちらのものだから意味がないかもしれないが。

それぞれに飲み物を一口飲み落ち着いたところでヴァルダマーナが居住まいを正す。


「この度はわざわざご足労頂いて感謝する」

「いえ、こちらこそ。今まで娘を手厚く保護して頂き感謝しております」

「助けられたのは我々の方だ。迦暢が居なければこの国は隣国に攻め落とされていたかもしれぬ」

「諸法無我。世の中のあらゆるものは全て影響を与え合う相互関係にあるのですから、どちらかがどうという事ではないのでしょう」

「あぁ、私にとって迦暢はもはや半身のようなもの」


カフェオレを口に運びながらしれっと恥ずかしい事を返したヴァルダマーナにびっくりして、迦暢はそういう意味じゃないよ!と身を寄せ小さな声で囁いた。

だがヴァルダマーナは特に取り繕うこともしない。

身を寄せた迦暢を振り向いて、にこりと笑って見せた。

ヴァルダマーナ様?と迦暢が少しいつもと違うヴァルダマーナの雰囲気に袖を引こうとしたところでヴァルダマーナが手に持っていたカップを置く。


「迦暢から聞いていると思うが、私は迦暢を妻としたいと思っている」

「聞いております」

「そちらの国では結婚する年齢としては早いと聞いたが、こちらではそう早いと言う訳でもない。あなた方はどう考えておられるだろうか」


ズバリ切り出したヴァルダマーナに父親は特に表情を変えない。

むしろ驚いているのは迦暢の方だ。

こんな早く話し始めるとは思っていなかった。

迦南も驚いた顔をしている。


「迦暢はどうしたいんだ」

「わたし?」

「ヴァルダマーナ様は結婚したいと仰って頂いている。迦暢は今すぐ結婚したいのか?」


したいような、

したくないような。

迦暢の中にもまだ迷いはある。

ここで父親にもう少し待ちなさいと反対されたら、まぁそうだよね、と納得しちゃってたと思う。

でも


「結婚、したい」

「何故」

「何故?・・・うーん、縁を確実なものにしたい、のかな。お父さんはその状態は常に変わるものだって言うかもしれないけど」

「結婚する、というのもまた無常だ」

「うん。私なりに良い結果に結び付ける為の因果なんだと思う。そもそも私、帰る方法なさそうだし」


迦暢はこの世界と日本を繋ぐゲートだ。

迦暢を通して一定の条件をクリアすれば他人は行き来出来る。

だがゲートである迦暢自身は帰れない、のだ。

ならばこっちの世界に馴染む努力を早くした方が良いだろう。


「迦暢が帰る方法はない事はない」

「え?」

「その代わりこちらとの繋がりは切れることになる」

「えっ?!」

「帰れると分かっても彼と結婚するか?」

「する」


迦暢は間髪入れずに答える。

そこに迷いはない。

もうここで彼と一緒にいると決めたのだ。

迦暢の手を隣に座っていたヴァルダマーナの手がぎゅっと握った。

いつもと違って指先が冷たい。

迦暢は手をひっくり返してヴァルダマーナの指に自分の指を絡ませ握り返した。


「そこに迷いはないのだな」

「うん。ない」

「ヴァルダマーナ様」


きっぱりと言い切った迦暢の意思を確認し終えると、父親はヴァルダマーナに視線を向ける。

ヴァルダマーナは迦暢の手を握ったまま、居住まいを正す。


「迦暢はこう申しております。こちらに居続けるのであればあちらの法など関係のない事でしょう」

「それは許す、と言う事か」

「迦暢が決めたのであれば否とは言わない、という事です」

「感謝する」


ヴァルダマーナが頭を下げた。

父親はただニコリと笑う。


「人生は思い通りにならないものです。一期一会の縁を大事にして丁寧に生きて参りましょう」

「迦暢は勿論、あなた方にも誠意をもって大切にすると誓おう」

「お互いに。結婚の話はここまでにして、少し他の話をさせて頂いても?」

「勿論だ。私がここに居ても問題ないか」

「これからは家族になるのです。もちろん居てください」

「家族になるのだ、敬語は必要ない」


父親はヴァルダマーナを認めてくれたらしい。

母親も特に何か言う気もないらしくいつも通りだ。

父の話とは仏様に確認した内容である。

扉を閉ざせば迦暢は帰れるが2度とここへの扉は開かない、ということ。

迦暢が残れば縁は切れず、日本とこの異世界は相互依存している。

子が生まれどちらの家も存続していればその縁は続く。

迦暢が日本に一時帰国したいのであれば、その間迦暢と縁が深く信心深い人間であれば代わりを勤める事ができる。父、釈迦、覚如。母や迦南には無理。覚如の父も可能性がある。

これから縁が増えれば代われる人間も増えるかもしれない。

どれほど影響し合い結び付いているかという縁起によるもの。

迦暢と繋がりが深く信心深いゲートになれるような人間が単独で来るか、又はゲートになれる人間による祈祷であれば荷物を送る様に日本から人を送ることも出来る。

ただし連れてこられた人間に害意があればこちらには来れないし、加護が与えられる訳ではないので何事も気をつける必要があるそうだ。

母親と迦南はゲートの代わりにはなれないが、縁が深いので加護自体は付いてるから食べ慣れぬ物を食べてもお腹を壊すこともないし、言葉も通じるらしい。

迦暢の不登校からの虐待疑惑などあり、更に兄がお釈迦様と会話した事について総本山へ報告が上げた結果、国レベルでゲートをどうすべきかという問題になっているそうだ。

父も兄もお釈迦様がお決めになる事に従うのみ、と回答しているらしいが、お釈迦様自身は迦暢が決めれば良い、と言っていたらしい。

これはこの国を救った迦暢の権利なのだそうだ。


「私としてはこっちに荷物を送るのを目溢ししてくれれば良いだけなんだけど」

「自由に違う国と行き来出来てしまうというのは防衛の穴だからな。放置も出来ぬのではないか?」

「行き来出来ると言ってもうちの寺だけですよ?」

「先日、幼馴染み殿も来たではないか」


確かにうちの寺だけなら誤魔化せそうだが、他のお寺ともなると決め事は必要だと思う。

日本国の穴と言うことは、この国の穴でもあるのだ。

いくら日本からとは言え侵略を許すわけにはいかない。


「害意というのが厄介ですよね。確かに覚如君に害意はないですけど、好奇心はあるからなぁ」


勝手に来られた挙句に事件を起こされると困る。

他人を勝手に送ってくる事はないだろうが、勝手に来て、勝手に遊んで帰る可能性は前科が2回もあるだけに否定出来ない。


「そう考えると日本にも少しはルールを決めて貰わないとですね」

「国と国との関係ともなればあちらにも利が無ければならぬだろう」

(きん)とか?」

「石油などではないか?」

「あぁ、なるほど。石油などを日本に輸出する代わり技術なんかを教えて貰う訳ですね」

「日本円稼ぎたいなら観光地にしたらいいじゃん!遠くの海外より近くの異世界だよ!移動時間ほぼゼロだしさ、うちの寺か覚如君ちの寺でしか出来ない特殊な祈祷だからアラブへの飛行機代分くらい取れば大儲けじゃね?」


迦南の提案に呆れながらも感心してしまう。

迦南の横でファラムンドもなかなか面白い提案ですね、と興味を示している。

加護がないのも心配な気がするけど、海外だってリスクは同じと言えば同じだものね。

迦暢と顔見知りになれば加護ももらえる様になるかもしれない。

安全と分かれば電気工事とかアンテナ工事とかの技師を連れて来れる様になる可能性が出てくる。


「とりあえず国交を結べないか交渉したいところだな」

「国王様に確認しなくて良いのですか?」

「この後確認はするが望むところであろう。迦暢の家族の協力なくしてはこちらへ来れないとなれば侵略の可能性も低いからな」

「戻ったら役所の方に確認してみましょう」

「手間を掛ける」

「お釈迦様が繋いだ縁ですから」


話がひと段落したところに丁度、アブラーン王が離宮を訪れた。

結婚は準備が出来次第可能な限り早く。

ただし異世界人だということは一旦隠す。

日本国との交渉が上手くいけば、それも含めて公表するかは検討。

迦暢の帰国は一旦保留。

日本側の許可が下りればヴァルダマーナも含めて一時帰国。

そんな事を話し合った。

その間、迦南はファラムンドと共に街へ出て観光して来たらしく、更にファラムンドと仲良くなったようだ。

まじ、(異)世界遺産!と喜んでいた。

呑気なものである。

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