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神殿の日常

行きは急いでいたから馬を乗り継いで駆けてきてくれたそうだが、帰りは後から追ってきた部下のラクダで帰る。

わぁラクダとか初めてだぁと喜んで乗ったけど、上下が激しくて結構疲れた。

泊まった町もそれなりに大きいと思ったが、たどり着いた町はもっと大きくて立派だ。

町を囲む立派な外壁の中は石畳が広がっていて、茶色一辺倒だった前の町と違い緑も多いし、水場も多く、そして思いの外色がある。


恩人であるサルマに手を引かれ迦暢は後をただ黙ってついて歩く。町中のすれ違う人々からサルマは次々に声を掛けられたが、急いでいると追い払う様に手を振って蹴散らした。

前の町で買い与えられた服に頭から布を被り肌や顔を出さない様にされたのは単に陽から守る為だけではなかった様だ。肌の色があからさまに違う迦暢への余計な詮索を交わす為だったに違いない。


町の中をまっすぐと進んで行くとカラフルなタイルが美しい幾何学模様を作り出している白くて大きな建物に行き当たった。

サルマは迷いもせずその奥へ奥へと入っていく。


「サルマ、ここは?」

「月神殿だ。この奥にババが居る」

「月神殿・・」


お釈迦様が関わっている時点で仏教だと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。

さすが異世界、ファンタジーの世界。世界感がなんとなくぐちゃぐちゃだ。強いて言うなら、やった事ないが某RPGってところだろうか。違和感はあるが、まぁこんなものかと諦める。


「ババ!ババ!イサ(神の子)を連れてきた!」

「おぉ、近くへ。イサ(神の子)をババの近くへお連れしておくれ」


神殿の最奥、天井から白い布が吊るされた天蓋の前でサルマが呼びかけると中から声がした。

サルマは迦暢の手を引いたまま天蓋の中にずかずかと入っていく。

中に入ると赤地に動物の絵やら植物やらが刺繍された絨毯が敷かれ、丸く生成りの大きめクッションの上にちょこんと小さな老婆が座っていた。

サルマはババの前に迦暢を座らせる。


「ババはこの通り目が悪い。すまないが手を触らせて下さいますかの」


そう言って探る様に手を出され、迦暢は慌ててその手を取った。

皺くちゃな小さな手だ。


「おぉ、イサ(神の子)。よくぞ来てくださった」

「こんにちは。迦暢と言います」

「カノン。どうか我々を導いて下され」


いきなりの難題だ。

すがる様に手をさすられ、迦暢は返事に困る。


「残念ながら私にもまだ自分の使命を理解出来ていません。私が出来る事ならばお手伝いしますが、どの様な事をお望みでしょうか?」

「これは素直な神の子よ。いずれ刻がくれば星が教えてくれよう」


そう言ってババがにこりと笑う。

どうやら切羽詰まった問題がある訳では無さそうで、迦暢は少なからず胸を撫で下ろした。

ババの神託により、自分を受け入れる準備は既になされているらしい。迦暢はそのまま神殿に部屋を与えられた。

それ以来基本的にずっと迦暢は神殿の中だ。


朝は割とゆっくりで、ババと一緒に朝食をとる。

その後ババは最奥にある月の女神の石像前で祈りを捧げ神託を得るという。

隣に座って見ていたが、水を張った大きな甕に月桂樹の様な枝葉で水面を叩き、その音と水の波紋で占うらしい。

やってみろと言われたので、今日の天気はなんですか?と考えながらお釈迦様の真言を唱え同じ様に枝葉で水を叩く。


「なーまく さーまんだ ぼだなんばく」

『今日は割と過ごし易いであろう。ただ夕方に少し砂嵐が起こるから外にいる者は注意せよ』

「あ、ありがとうございます」


思い掛けずお釈迦様の声で回答が返ってきて、迦暢は驚いてつい感謝を口にした。

天眼通ならば別に水甕と葉っぱは要らないはずだ。しかし昨日の様に映像が視えたわけでもなく、お釈迦様の声が聞こえたと言う事は加護の方の力だろうか?しかし昨日より集中もしていなかったし、直接名前を呼んだ訳でもない。


願いが通じ易くなっているのは体の中に取り込んだ鏡のせいか?それとも水甕のせいか?

毎日条件を変えて試した結果、鏡アリだと声、鏡ナシだと文字、水甕ありの方がない時より精神力を使わない。御名前より真言を唱えた方が疲れないと言う事が分かった。

占いの結果を皆に告げると、ババはにこりと笑って頷いただけだったが、最初は訝しんでいたらしい周りの人達も数日経つ頃には真剣に聴くようになった気がする。


遅めの昼食の後はお金を貰っての一般人やら役人の依頼による占いをする事が多い。ババは占いの為に依頼によって水甕を使う時もあれば、賽を投げることもある。

何も依頼がない時、迦暢はこの国に関する勉強と自由時間だ。ババは昼寝をしている事が多い。


夜ご飯を食べた後は中庭に出て星を見る。月の満ち欠けや、雲の掛かり方、流れ星などで占うらしい。

夜遅くて町は寝静まっているせいか、夜の方が託宣がよく聴こえる。だから迦暢はなるべく星見の時間に力を使う。


「どうだい、ここの暮らしに少しは慣れたか?」

「慣れたけど、少し町も観てみたいかな」


サルマは迦暢の様子を気にして3日に1回は顔を見に来てくれる。

ババ以外で言うと、迦暢を特別扱いしない唯一の顔見知りだ。

だが、迦暢が行き倒れていたのがトラウマになってしまったのか、少し過保護気味なところがある。

せっかく異世界に来たのに、初日に町を突っ切ったきり神殿から出ていない。

此処に来てもう10日程経つのだから、外に少しくらい出てもバチは当たらないと思うのだ。


「そうだな・・・元老達に許可を取るから少し時間をくれ」

「あ、今すぐとか無理を言うつもりはないから」

「不自由させているのは悪いと思っているが、この国の人間はなかなか異国人と交わる機会がなくてな。神の子と言うのも実績がない内は元老達も半信半疑だったのもある」


それはむしろ迦暢が自分でも一番疑いたいところだ。神の子じゃなくて、仏の子?というか兄に指名されただけの単なる寺の子でも役に立つのかという事に。


「実績と言われても此処に隠れているだけじゃ何も出来なさそうだけど」

「何を言っている?もう実績は十分出したじゃないか」

「え?私何かお役に立つような事しましたっけ?」


ご飯を食べて、ババの真似をして、寝るだけ。とてもお役に立てたとは思えない。むしろ掃除も洗濯も何もかもやってもらって世話がかかっているという認識しかなかった。

家事は結構得意だから、そろそろ手伝わせてもらおうと思っていたところだ。


「神託を何度も得ているじゃないか」

「練習がてらババのクライアントの依頼を占ってみてるだけだよ。ババが神託を伝えた後、焼き直してるに過ぎない」


ババは依頼を天蓋の中で聞く。迦暢も一緒に天蓋の中に居て、ババの仕事を見学する。だから迦暢は依頼人の顔を見た事は一度もないし、素性も知らない。

最初の頃はババが占い、その後に迦暢も同じ様に占っていた。同じ様にと言っても真言を唱えたり、加護の力を使っている訳だから中身は違う。色々パターンを試し終わって夜の方が効率的だと分かってからは急ぎと言われない限り2つ、3つの依頼と週末には1週間分の天気予報を夜に纏めてこなしている。結果は紙に書きつけて世話係の人に渡しているが、その結果を知ってババが何か異議を唱えることもなくただいつもの優しい笑みで頷くだけだ。


「迦暢の神託はババの結果より細かいし、ハズレがない。初日に夕方小さな砂嵐が起きると言っただろう。ババの結果は晴れとだけで、町の人間には迦暢の砂嵐は伝えられなかったのさ。その結果、夕方砂嵐で怪我をした者が出てね」

「えっ!?」

「大事には至ってないから心配する事はないよ。それで最近、天気予報は迦暢の仕事になったわけだ。神殿は朝が遅いから夜の内に数日先まで分かる迦暢の結果が有難いのさ」


それも迦暢には初耳だ。

どうやらババは天気予報占いを辞めてしまったらしい。

その経緯を知った元老達の中で保守的なババ派と結果重視の迦暢派、両方聞きたい中立派に分かれているのだそうだ。基本的に依頼は指名制らしいが、今はお試し期間という事でババを指名した場合は望まれれば次の日もう一回来るのを条件に迦暢の結果も渡しているらしい。急ぎでない場合は大体皆ババ派でも次の日も来るそうだ。急ぎで迦暢に依頼する場合は別途費用を貰っているそうで、迦暢派と中立派はババの神託は諦めて迦暢だけの結果を持って帰る事が多いらしい。


ババの顧客を奪っている様でモヤモヤする部分はあるが、高齢なババは有難いと喜んでいるそうだ。まだ一般人には迦暢の存在は知られていないからそちらの依頼は沢山あるが、ババ程の精度を持った後任がおらずババの負担が大きかったらしい。

ババの役に立てて、お金を多少でも稼げているなら良かったではないかと迦暢は自分を納得させた。


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