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損得と忖度

2人きりになった部屋で迦暢は後ろに立つサルマを振り向いて前の席に促した。

話をしなければならないのはヴァルダマーナだけではないと思っていたからだ。

日本人はハイコンテクスト文化だ。つまり空気を読む文化。この国の人達も案外言葉で伝え合うハイコンテクスト文化とまでは言わないが、日本よりは言葉で伝えないとそもそもの育ってきた環境による基準が違うのだから意識的に話をしないといけないと思い知った。サルマとは2人で話す時に案外質問されるのでこちらの気持ちは話していたと思うが、サルマの気持ちを聞いた事がなかった様に思う。


「手紙を書くんじゃなかったのか?」

「その前にサルマとも話をしたい」

「実家のことか」

「それもあるけどサルマがこれから何をしたいと考えてるかかなぁ」

「私が考えてる事?」

「サルマはずっと私の事を守ってくれてるけど、本当はやりたい事とかあったんじゃないのかなって。騎士団だってせっかく支団長までなってたのに私のせいで外されてしまったでしょう?」

「支団長の方が上かと言われるとそうでもないぞ。何せ今は王族の信頼を得て王族の大切な者を守っているのだからな」

「降格という訳じゃないって事だね?」

「あぁ。むしろ超出世と言ってもいいくらいだ。周りから見ればヴァルダマーナ殿下の側近に加えられた様に見えるだろうしな。そもそも私がやりたい様にやったから私は此処にいるのだ。迦暢のお陰という部分は多いが決して迦暢のせいという事はひとつもない」


ひとつも、と言うのは大袈裟だろうが本心から言ってそうなので迦暢は一旦それで納得する。ここで迦暢がいや私がと言っても押し問答になるだけだろう。

いきなりの大出世でやっかみなどは心配なところだが、いつも迦暢と一緒に屋敷に篭っているので特段目立つ事もないらしい。

ヴァルダマーナは普段隠密活動ばかりしているので、本当に上層部の王様の周辺でなければその優秀さは知られていないのだそうだ。

サルマもこうして近くに居て初めて知ることばかりで、ここに来なければほとんど表に姿を現さない平凡な王族の1人だとしか思っていなかったと言う。

そこにきて迦暢の存在が知られていない今、女であるサルマを側近として屋敷に引き込んだのであれば、悪い噂が出るのはヴァルダマーナの方だ。だが平凡、出来れば愚鈍を装いたいヴァルダマーナと今のところ余計な縁談を避けたいサルマにとって好都合なので放置しているらしい。

迦暢に誤解されるのは困るが、あれだけ溺愛されれていれば鈍感な迦暢でも疑いようが無いだろうとサルマは笑う。


「サルマは前にヴァルダマーナ様と結婚しないのかって聞いたじゃない?婚約はどう思う?」

「正直、あまりオススメしないな」

「なんで?!」

「婚約者では拘束力が強い割にそこまで保護の対象とならない。表向きは扱いは丁寧になるかもしれないがな。だが迦暢の存在を大々的に国民に知らしめるとなると、迦暢が何者か皆知りたがるだろうし、最悪命を狙われる事になる。迦暢が神の加護を得ていると知られれば尚更だ。まだ迦暢の存在をあまり知られていない今の方が護りやすいだろう。そもそもなんで婚約する必要がある?」

「うーん、結婚の約束の証というか。ヴァルダマーナ様は印をくれてたけど、私は何も返せてないからなんか対等じゃない気がして」


指で手首の印を弄りながら喋る。

その姿にサルマは状況を理解して納得したようだ。


「殿下は印の事をお話しされたのだな」

「サルマは知ってたの?あんなヴァルダマーナ様が一方的に損するみたいな呪いだって」

「気づいてはいたが、迦暢に話すのを禁止されていたから話せなかった。殿下から印を頂いていると公表すれば婚約よりも保護されると思うが、やはり迦暢の正体を知りたがる者が多いのは代わりないだろう」

「じゃあやっぱり婚約じゃ意味がないんだね、本当は」


サルマがあまり賛成でないのは分かる。

ただ婚約の話を持ち出したのはヴァルダマーナの方だ。

本当はやっぱり結婚してしまうのが一番なのだろうが、妥協しての婚約なのだろう。こんなに歩み寄ってくれているヴァルダマーナが望むのであれば、迦暢はやはりそれに応えたいと思う。


「公にしないのであれば良いのではないか?もう少し後ろ盾を得てからでも良いとは思うが、迦暢がヴァルダマーナ様に後ろめたい気持ちがあって落ち着かないのであればしたければすれば良い」

「公にしないってアリなの?」

「迦暢が婚約の恩恵を得られず、もしもの場合損をするだけだ。ただ迦暢の場合はあまり関係ないかもしれないな」

「関係ないって?」

「破棄する場合、普通であれば家格が落ちるとか、金銭を要求されるとかだが、そもそも迦暢には家格などないから落ちようがない。金銭も水の恩恵を考えれば迦暢自身に何かを負わせるとは考えにくい。婚約式で神と契約する事になるから破棄となれば神との約束を違える事になる。理由如何によっては神がお怒りになり、その後祈りが通じなくなると言われているが、そもそも迦暢の神はベンディス様ではないのだろう?」


先日、お話をしたばかりなのでベンディス様を身近に感じてしまっている。

だから自分の神ではないと言い切れない。

そもそもベンディス様曰く、同じではないが同じという言葉をそのまま受け取れば、お釈迦様だろうが、ベンディス様だろうが不義理をしてはならないのだ。

そもそも損得で考えてはならないと思う。

ヴァルダマーナが自分に与えた様にこれは無償の愛に対する証明なのだから。

ただ、サルマの言葉に違和感を覚えた。


「私自身に、と言うのは私以外に負わせる可能性があるということ?」


迦暢の言葉にサルマは少し躊躇ったが頷いた。


「後ろ盾となる我が父がその責を負うこととなるだろう。だが気にする事はない。それに値するだけの恩恵を父は既に得ているのだから」

「恩恵って水だけでしょう?それにこれからどんどん他の領地にも同じ事をするのにサドハン様だけおかしいじゃない」

「水が無ければ領地は守れない。もしもヴァルダマーナ様が選んで下さらなかったら中立派の我が家はもっと順位が下だった筈だ。そうすればきっと間に合わなかっただろう。それに、私たち親子の縁を繋ぎ直してくれた恩もある」

「そこはたまたまだよ。良かったね、で終わりにしようよ」

「たまたまではない。それを条件に迦暢の後ろ盾になる事を父は受け入れたのだ。だが迦暢が気にすることではない」


気にするよ・・・。

と言ってもきっとサルマを苦しめるだけなのだろう。

ただ婚約を破棄するつもりなんてないのだからそこを考えるのもおかしな話だ。

あとはヴァルダマーナと相談しようと決めてとりあえずこの話を終わりにする。


「サルマ、他に気になってる事とかなんかある?」

「気になっていること?そうだな、とりあえず迦暢がこの国に留まると決めてくれている様なのは嬉しい。ただ先日の婚約者殿は良いのか?」

「それ、覚如君のこと言ってる?サルマも勘違いしてたんだ。もしかしてファルムンドさんもそう思ってるのかな?」

「恐らく。違うのか?」

「違います。ただの幼馴染です」

「ならば良いが、彼と上手くいっていないから残る事に決めたのではないかとも邪推してしまった。申し訳ない」

「ほんと違うから。そういう話も貰ったけどちゃんと断ってるから!覚如君も冗談で言ってるだけだから勘違いしないで!」


迦暢の勢いに圧倒されながらもサルマは安心したようだ。

ヴァルダマーナが言っていた様に覚如との会話は曖昧な部分が多く聞き取れない部分も多かったらしい。

これはお釈迦様と大日如来様の差だろうか?

覚如の方はこちら側の会話をちゃんと聞き取れていた様に思う。


「あとは辺境へ行く際のルートはやはり気になる。駆け抜けるとは言え、馬に水は与えなければならない。街には入らなくてもどこかしらの村には立ち寄らなければならないだろう」

「ヴァルダマーナ様ってそんなに顔知られてるの?」

「否、殿下はほとんど知られていない。問題なのは私だ」

「サルマが?」

「先程の問題ある貴族派というのが私の縁談相手だった男でな。既に他の女を娶ってはいるが、今は私の事を違う意味で狙っているだろう。まだ父は私を許したと公にしていないが、水量が増えた話が出れば自ずと繋がりが見えてしまうだろう。そうすると危険が増す事になる。あの領地を通る際に私が側にいるのは得策ではないと思う」


サルマはそう言って厳しい顔をして口を閉ざした。

これ以上喋るつもりはないのだろう。

迦暢はそれ以上聞くのはやめ、またヴァルダマーナ様に相談して決めようと話を終わりにしたのだった。


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