めぐり逢いつつ影を並べん
「落とすなよ」
温もりが離れる感覚に迦暢は目を覚ます。視線の先に腕を伸ばしたヴァルダマーナが迦暢を見下ろしている。
森林の背後にはピンクともオレンジとも取れない美しい黄昏の空が広がっていた。
さっきまでと違う温もりに包まれて、迦暢はハッと意識を取り戻した。
視線を彷徨わせると、ファラムンドと目が合う。
「ファラムンド、さま?」
「おや、お目覚めですか、姫さま」
「え?ここどこ??」
「屋敷だ」
馬から下りたヴァルダマーナがファラムンドの腕の中から迦暢を引き取り屋敷に向けて歩き出す。
ウンベルトにお帰りなさいませと頭を下げられる横を通り過ぎて馬小屋に近いドアから屋敷に入る。
見慣れた屋敷の雰囲気にどこか安心して、やっと自分の失態に思考が追いついた。
「ヴァルダマーナ様、すみませんっ!降ります!」
「ウンベルト、湯浴みだ」
「準備出来ております」
「ヴァルダマーナさまっ!」
「すぐに水場だ、暴れるなら一緒に入るぞ?」
「それどんな脅しですか?!」
結局、迦暢を水場の前で下ろしてヴァルダマーナは馬のところへ戻って行った。
汗でベタベタするので迦暢は有難く先にお湯を使わせてもらう。
着替え!と思ったが、ちゃんと迦暢の着替えが籠の中に用意されていた。
ただ、この世界のパンツって紐パンなんだよね。最近は送って貰った下着を着けているから、久しぶりに履くとなんだか心許ない。
同じように湯浴みをしたらしいヴァルダマーナとご飯を食べて、今日は早々に寝なさいと言われて迦暢は素直に従った。
だが馬の上で寝たせいか、なんだかベッドの中に入ったものの目が冴えてくる。
横になったままベッド脇の窓から月を眺めていると、そっとドアが開く音がして足音が近づいてきた。
怖さはない。
背中側のベッドが軋んで、迦暢の顔を覗き込む。
「なんだ、眠っていなかったのか」
「ヴァルダマーナ様」
迦暢はコロンと背中側から転がってヴァルダマーナの方に向き直る。大きな手が伸びてきて迦暢の頭を撫で、迦暢が見ていた窓の外に目を向けた。
「月が綺麗だな」
「私の世界でそれは、愛してるの意味なのですよ」
「それならば私の使い方は合っているではないか。返事は?」
「・・・死んでもいいわ」
「・・・何故そうなる?」
「昔、私は貴方のものよ、というのをそう訳した人がいたのです。OKの決まり文句ですよ」
「そうか。では迦暢は私のものだな」
そう微笑んで、ヴァルダマーナが布団の中に入ってくる。迦暢の腰を引き寄せて体を密着させた。
昼間とは違いお互い布一枚しか着ておらず、ヴァルダマーナの引き締まった胸や腕をより感じて迦暢は顔が熱くなるのを感じる。
穏やかだった気持ちが一気に高揚して頭が沸騰しそうだ。
このまま、抱き合うのだろうか。
だがそれも自分が望んでいたことだ。
迦暢はヴァルダマーナの腕の中でコクリとヴァルダマーナの言葉に同意した。
「緊張しているのか?」
「そ、それは勿論しますよ。初めてだもの」
「昨日もこうして一緒に寝たではないか」
「昨日とは同じ寝るでも意味が違うではないですか」
そっと見上げるようにヴァルダマーナの顔を向けると、ヴァルダマーナが小さく息を吐いた。迦暢の頬を優しく撫でる。
顔がゆっくりと近付いて啄むようなキスを繰り返す。
「今日は疲れているだろうから寝ていると思ったのだがな」
「寝込みを襲うつもりだったのですか?!」
「ただ添い寝をしに来ただけだと言っている」
本当にただ一緒に寝るつもりだったのに勝手に勘違いした積極的な迦暢にヴァルダマーナの方が困惑しているようだ。
それに気づいて迦暢は恥ずかしくて顔を更に赤く染めた。
思いがけない迦暢の勘違いにそれでもヴァルダマーナはキスを止めない。
「ヴァルダマーナ様っ!」
「死んでも良いのであろう?」
「ヴァルダマーナ様はそんな気なかったんですよね!?すみませんっ私、勘違いして」
「私はいつだって構わない」
そう言って舌が入り込み、口の中を蹂躙する。すっかり慣れた行為に恥ずかしさはどこかへ行ってしまった。必死にヴァルダマーナを追って、応えようと自分の舌を絡ませる。
気づけばいつの間にかナイトウェアの前が開けられて、迦暢の胸が露になっていた。
頭がぼーっとして不思議と恥ずかしさはあまりない。
ヴァルダマーナの素肌と重なるとその温かさにどこか落ち着いて、もっとくっ付いていたいと思わせる。
ぎゅうぎゅうと自分の体を押し付ける様に抱きつく迦暢にヴァルダマーナは笑ってベッドサイドの机の引き出しを漁った。
家の者が気を利かせて用意しておいてくれているレモンと蜂蜜を混ぜたアカシアの香油を取り出そうとして、見知らぬ箱が入っているのに気づく。
「迦暢、これは?」
「・・・避妊具です」
「どうやって使うのだ?」
「えーと」
迦暢を抱きしめたまま箱を開け、戸惑う迦暢を尻目に説明書に描かれた絵でヴァルダマーナは理解したようだ。
なるほど、と一旦サイドテーブルの上に置いて、香油を指に垂らす。
その指が優しく迦暢が誰にも触れさせたことがない部分に触れる。なんとも言えない感覚がどんどんと迫り上がってくるのに堪らず迦暢は体を震わせた。
早くこの人のものになりたいと思うのに、ヴァルダマーナが丁寧に時間をかけてほぐしていくのが焦ったいとさえ思える。
「ヴァルダマーナさま、まだ?まだ?」
「辛いならもう止めるか?」
「違うっ、早く、早く繋がりたいの、もどかしい」
「凄い煽り文句だな」
指が離れて寂しさを感じるとパチンと音がして、ヴァルダマーナがほぉと感心した様な声を上げる。
再び触れた指に迦暢は期待を膨らませた。
「本当に良いのか?」
「はやく、焦らさないで下さい」
「手に入れれば二度と私はお前を手放すことは出来ないぞ?」
「それはこっちのセリフですよ!」
みちっと指とは比べ物にならない圧迫感が迦暢を襲う。初めての感覚に迦暢は頭の中が真っ白になった。
なんだこれは。
こんな感覚知らない。
ただ、息がつまる。
ヴァルダマーナにぎゅっといつも以上に強く抱きしめられ、迦暢はその圧倒的な力に抗うことが出来ない。
「迦暢、息をして」
「わか、わかんない」
「ふーって」
「ふー?」
「上手だ」
頭を撫でられ、迦暢は言われるがまま何が何だか分からないまま息を吐く。
圧迫感をやり過ごそうと唇を噛もうとすると、ヴァルダマーナの親指が触れ、キスが降りてくる。
慣らされた快楽の中、グラインドするヴァルダマーナの腰の動きが腹を重く打ち付け迦暢はただ圧倒されるだけだ。
自分が何を感じているのかさえも分からない。
ただギラギラといつもより鋭く光り、男を感じさせるヴァルダマーナの瞳が自分を見つめているのを追っていた。
これでこの男は自分のものだ。
そして私もこの男のものだ。
えも言われぬ安心感と開放感の中、迦暢は眠りに落ちた。




