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異世界SDGs

いつもは夜中にお祈りをするのだが、昼にヴァルダマーナに頼まれた急ぎの占いを夕食までにしてしまおうと迦暢は屋敷の祈祷室でいつもの様にお祈りをした。

いつもの様に気がつけばお釈迦様がいらっしゃる場所に自分は立っている。

しかしなにやら様子がおかしい。

お釈迦様の前に大量の段ボールが積み上げられていたのだ。


「あのお釈迦様、この段ボールの山は何でしょう?」

「お前の家族が送り付けてきたのだ。中身は知らぬ」

「なんかすみません・・・」


段ボールを開けてみると、以前の様に味噌や缶詰、それに下着や生理用品が入っている。

水天様の布教という名目ついでの一回きりだと思っていたからとても嬉しい。

しかし何故こんなに大量に?

答えは一緒に入っていた母からの手紙によって明かされた。


学校をずっと休んでいるのもあり、担任が心配して家を訪れたのだそうだ。

ちょっと家の都合で・・・と休みを届け出ていたものの、3か月以上も来ないとなるとイジメやら、虐待の疑いが出てくる。

一度会わせて欲しいと言われても、居ないの一点張りで誤魔化すのにも限界がきたようだ。

仕方なく父が『娘はお釈迦様に召されて異世界に行っている』と正直に話したそうだが、信じてもらえる筈もない。

何度か担任やら学年主任が訪れたそうだが、家族全員『異世界に行っている』と繰り返すばかりで平行線を辿っており、警察に相談をという話も出たそうだ。

そこに紬ちゃんが、だったらまた荷物を送るのを見て貰えば多少は信じられるのでは?と提案してくれたらしい。

釈天兄がお釈迦様にお伺いを立てたところ、構わないとの了承を得られたので、担任の前で荷物を送るべく祈祷する、との手紙だった。

なるほどしかしこの量は何故?

そう思って次の段ボールを開けるとまた差し入れと共に手紙が入っている。

今度は担任からの手紙だ。

担任は荷物が消えるという超常現象を見て、異世界の話を多少信じたけれども、まだ完全には理解出来ていない。学年主任と校長先生にも説明したけど信じてもらえないので、2人の前でもう一度荷物を送ってもらう事にしました、との事だ。

出来れば安否確認の為、何かしらのレスポンスが欲しいらしい。

更に次の段ボールを開けると、今度は父からの手紙だ。

学校側から教育委員会やら、役所、警察にまで話が入ってしまったらしく、迦暢の取り扱いについてややこしい事になっているらしい。下の方に弟からなんか異世界のもの送ってくれ、せめて写真!とコメントが書かれており、インスタントカメラが入っていた。

ちなみに祈祷用の荷物は各処祈祷を依頼してきた人達からの差し入れだそうな。

役所はなんか被災者用の備蓄セットだし、教育委員会はノートやら文房具なんかが中心に入っている。教科書も入っていたがここはとりあえずスルーしよう・・・。


「状況は理解しました。お騒がせした様ですみません」

「何度か許可を出しただけだがな」

「そこでご相談なのですが、こちらからも元の世界に荷物を送る事は出来ますか?」

「同じ様に祈れば良い」

「あ、出来るんですね⁉︎」

「以前私の像も手に入れていたであろう。アレの前で祈れば良い。わざわざ此処を介して我の手を煩わすでない」

「そんなお手軽な通信手段があるなんて!ありがとうございます!」



当初の目的を果たして現実に戻ると目の前に段ボールの山が出来ている。

祈祷室なので自分の部屋に運び込まなくてはならないだろうが、何せ缶詰などなのでかなり重たい。

迦暢は祈祷室の入り口に立つサルマを呼んで荷物を運びたいので手伝って欲しいとお願いした。

しかし2人でどうにか出来る量でもない。

とは言えサルマは迦暢の近くを離れるわけにはいかないので、一旦荷物はここに残して誰かを呼びに行こうと言う。

こんな得体の知れない段ボールを盗む人も居ないだろうと2人で部屋を出たところで家令のウンベルトが丁度通り掛かり直ぐに人を呼んで運んでもらえた。


「こんな荷物どこから出てきたんだ?」

「実家からだよ」

「元の世界の?」

「うん。あっちの世界で私が急に消えちゃったから問題になってるんだって」


サルマは迦暢の言葉になんとも言えない目を向ける。

この世界に飛ばされてしまったのは可哀想だと思っているが、もうサルマにとって迦暢は可愛い家族の様なものだ。

今更、迦暢から離れる事を考えられない。

荷物を送って来られる様な状態では、迦暢はいつか元の世界に帰ってしまうのではないかとサルマは心配になる。


「何が入っているんだ?」

「食べ物が多いかな。食べてみる?」


段ボールから煎餅の袋を取り出して開けると、個包装になっている袋を一つ迦暢はサルマに差し出した。


「これは?」

「お煎餅だよ。お米を潰して焼いたものかな。この透明な包み紙は食べられないからね。こうやってねじってあるのを解いて食べるんだよ」

「この周りについてる粉は?」

「それは幸せになれる粉?」


見本とばかりに迦暢はひとつ食べてみせる。

久しぶりの煎餅はやっぱり美味しい。

この粉はこの国じゃ再現出来ないだろう。やはり幸せになれる粉だ。


「不思議な味だが悪くないな」

「あ、写真撮っていい?」


迦暢は段ボールを再び漁ってインスタカメラを取り出すと、フィルムを巻く。

インスタントカメラだと充電が要らないのは有難いがこちらで現像が出来ないのが残念だ。焼き増しをお願いしよう。

迦暢はサルマを手招きして横並びに立つと、手を伸ばす。


「サルマ、この真ん中の黒い丸を見てて?」

「これはなんだ?」

「これはカメラと言って、この丸い所から見える景色を絵に出来るものだよ」

「絵はどこから出てくるのだ?」

「直接出てくるわけじゃないよ。うーん、あっちの世界でしか出せないから出来上がったら送ってもらえる様にお願いしてみるね」


自撮り、しかもインスタントカメラでなんて初めての試みだ。上手く撮れる事を祈って迦暢はサルマと自撮りをし、荷物がちゃんと運び込まれたかを確認しにきてくれたウンベルトにカメラの使い方を説明して写真を撮ってもらう。

中庭とか礼拝堂とか凄く素敵だから写真を撮りたいと迦暢は思いつく。

屋敷の中での行動は許されているから、迦暢は再びサルマと部屋を出た。


そういえば、異世界のものを送ってくれと迦南が書いていたが何が良いだろうかと迦暢は考えを巡らせる。

中2男子が喜びそうなものといえば、剣とか?

ただ武器を送られても日本では扱いに困るだろう。

市場に出た時の事を思い出し、一番最初にサルマと出掛けた時に綺麗だと思ったランプを思い出す。

ヴァルダマーナ様にお願いしてまた買い物に連れて行ってもらおう。


「何をしているのだ?」

「わっ!?」


後ろからひょいとインスタントカメラを取り上げられて迦暢は驚きに声を上げた。

考え事をしながらパシャパシャ景色を撮っていたのでヴァルダマーナが近づいている事に気づかなかったのだ。

カメラの説明をヴァルダマーナにもして、ヴァルダマーナの写真も撮らせてもらう。

サルマにカメラを託してヴァルダマーナとのツーショットも何枚か撮ってもらった。


「こんな玩具みたいなもので本当に絵が出来上がるのか?」

「不思議ですよねぇ。出来上がったら送って貰う様にしますね」

「是非そうしてくれ」

「そんなわけでまた市場に連れてってもらえませんか?」

「明後日まで待てるか?明日は集まりがあって少し難しい」

「全然、明後日で良いです」


そのあとヴァルダマーナが見たいと言うので一緒に荷解きをする事にした。

筆記用具はまだしも教科書を送り付けてきた教育機関には空気を読めと言いたいところだが、防災グッズを送ってくれたお役所にはかなり感謝を申し上げたい。

浄水機能のついたウォーターボトルや、ソーラー充電も手回し充電も出来るLEDランタンなんかは活躍間違いなしだろう。

荷物が自由に行き来出来るとなった今、これは大量に送ってもらうべき品ではないだろうか?

普通の電池式の懐中電灯も入っていたが、SDGs的にはソーラーが良いだろう。

しかし問題は資金だ。

王族なのだからヴァルダマーナも多少お金は出してくれるだろう。しかしこの国のお金を日本に送ったところで意味がない。

では日本で価値のあるもので異世界にもあるものは何だろうか?

この国の特産らしい燐鉱石?

価値がない事はないだろうが、家族に売ってお金にしてもらうのは難しいだろう。

あとは・・・(きん)?宝石?

興味がないので気にしていなかったが、この国でもあるだろうか?しかし星見祭で見た王都の神殿は金色に輝いている部分があったと思う。あれが本物の金ならば金はあるはずだ。


「ヴァルダマーナ様、金って高いですか?」

「金?そこまでは高くない。装飾くらいにしか使われないからな」

「この国で金は採れますか?」

「採れる場所はある。欲しいのか?」

「このライト、いっぱいあったら便利だと思うんですよ。でもその為には対価が必要です」

「確かに太陽の光で火も使わず夜も明るく出来るなどあれば嬉しいが、金がその対価になどなるのか?」

「私の故郷と同じものであれば結構な価値になると思います。あとは宝石とか」

「明後日、市場で手に入れる事にしよう」


太陽と土地は無駄にある。

そういえばニュースで中国が砂漠にソーラーパネル死ぬ程並べて運用開始するってのを見たのを思い出した。

アレが再現出来ればこの国でも電気の恩恵を受ける事が出来るだろう。

ただ問題は異世界にあんな大きなソーラーパネルを設置出来るかだ。そして設置出来た所で電線を張る技術がないから王宮に引き込むのが難しい。


電気工事、異世界にも来てくれないかな・・・。


とりあえず蝋燭か月明かりで生活する今の生活を少しでも改善出来る可能性を見出せてちょっと迦暢はウキウキする。

送られてきたノートに送られてきたペンで案を書き込んでいく。この国にも紙は存在するが高価だし、厚くてザラザラでつけペンで書くと滲む。

占いはお互い齟齬があるといけないので聞きたい事は紙に書いてもらうし、結果も紙に書くけれどこうして思う存分ノートに文字が書けるのすら今の迦暢には嬉しい事だ。更にこうしてどうやって改善していくか妄想するのはちょっと楽しい。


オーバーテクノロジーに頼りすぎるのは私がいなくなった後困るだろう。争いに加担するつもりもないし、自然を壊す事もしたくない。となるとSDGsを参考にするのが良いだろうか。

ただ、SDGs全部を叶えるのは無理だ。

だが王家にお世話になっている身として、少しは役に立ちたいと願っている。


とりあえず迦暢は教科書に書かれたSDGsのゴールから目標を立てる事にして、最近必修になった公共とやらの教科書を探し出した。


貧困は・・・とりあえず置いておこう。これはこの国を豊かにすれば追いついてくる気がする。飢餓をゼロに。これはなんか特産とか安価に出来る食事とか農業を考えられれば叶うだろうか?この国の特産はオリーブやトマトだ。海に近ければ魚もある。王都近くは緑も多いから豚なんかの畜産も盛んだ。正直、この国で飢餓を見た記憶もない。砂漠の中にあるヴァローナでさえ貧富の差はそこまでなかった様に思う。ベルベロ村の方が多少質素な感じはあったが貧困ではなかった。旅の中間地として宿屋、馬やラクダの貸し出しや預かり、食事処などしっかり機能していたからだろう。


健康や福祉、教育。医療は正直心許ない。基本民間療法だ。しかし迦暢に知識も技術もないから力になれそうな感じがしない。迦暢自身は加護の力で薬師如来様に薬を貰えるから困ってはいないのだが、皆に万能薬を配って歩くわけにもいかないから薬草なんかの知識を教えてあげるくらいしかないだろう。薬草の本なんかあるのか分からないが、一応これは送ってもらえる様に頼んでみる事にする。


ジェンダー平等はよく分からない。

異国人に対する警戒はあるが、サルマに守られ、ヴァルダマーナに守られていた自分は本当の差別をまだ理解出来ていないのだろう。

この世界の理を知らない自分が掻き乱す事は出来ない。そんな訳で除外。


安全な水とトイレは欲しいところだ。

神殿もこの離宮も水洗だから迦暢自身はそんなに困っていないが、ベルベロ村では穴掘っただけみたいなトイレだったし、最初の頃は加護があるとは言え煮沸されただけのそこら辺の水を飲むのには躊躇した。

今は割と慣れてきたが、疫学の観点から言っても改善できるならした方が良いだろう。

とりあえず水不足を改善するのが一番最初なのは間違いない。これは最優先。


クリーンエネルギーは太陽熱と地熱の活用を考えていきたいが、ソーラーパネルだと持続性が問題になる。

迦暢がいなくなれば入手できなくなるのは目に見えているから、大量投入も躊躇するところだ。

となると電気を作る所から考えるべきだろう。電気を作るには磁石とコイル?

ここら辺も何か参考になりそうな本を送ってもらう事にする。


ここまで考えたところでお風呂の時間になり、迦暢は目標設定をここまでとした。

この目標がこの世界を救う事になるかは分からないが、何もアテがないよりはマシだろう。

最初は魔法チートがない異世界転移にどうなる事かと思ったものだが、やっぱりある程度チートなんだなと思った迦暢だった。

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