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平穏な日常

「迦暢、星見祭の時の神託を覚えているか?あの時、我が国を狙う者が他にも2つあったはずだ」

「そうだった気もしますね」

「あとの2つとは争いにはならぬのか?」


迦暢は少しうーん、と唸って目を細めると、何処か遠くを見つめる。その視線の先には壁しかない。

しかし迦暢は少しするとパッと顔を明るくした。


「とりあえず直近で来る予定はなさそう」

「そうか。何か他に気になる兆候はあるか?」

「うーん、最近レオナルドと次男しか占ってなかったから今晩占ってみるね。何か知りたい事があるならメモしておいて」

「分かった。いつも助かる」


ヴァルダマーナはそう言って笑みを見せると迦暢の頭を撫でた。

迦暢は最近あまり頻繁に仏様にお伺いするのも申し訳なくて、占いは政治的な事にしか使用していない。天気やちょっと先の事を知りたい場合は天眼通を使用して視る事にしている。

それが却って訓練になるのか天眼通の使い方にも大分慣れてきた。前よりも大分クリアに視えるし、疲れや頭痛も減っている。


「カルリトスさんは最近どう?」

「やはり私に助言を求めてきてな。迦暢の言う通り彫刻や絵などを勧めておいた」

「そう、真面目に働いてくれる様になると良いね」

「あぁ。私としてはあの耳の速さを諜報活動に活かして欲しかったがな」


昼ご飯はなかなか一緒にはとれないが、ヴァルダマーナはなるべく朝と夜、迦暢とご飯を食べながら話をする様になった。

迦暢が来た直ぐの時はどちらかと言うと迦暢を心配して不都合がないかを聞いてくる形だったが、最近ではヴァルダマーナが相談をしてきてくれる事も増えている。

決して迦暢の能力に頼った相談ではなく、迦暢個人の意見を聞いてくれるのだ。

もちろん政治的な判断は最終的に占いを依頼されるが、迦暢自身を信頼してくれている証の様で迦暢は嬉しい。


ヴァルダマーナは忙しく、あまり時間が取れない中多少無理をしても迦暢との時間を作ってくれている。

過保護ではあるが、とても大切にしてくれている事を聞くまでもなく迦暢は感じていた。

迦暢が恋愛初心者なのも理解して、迦暢の反応を見て引くところは引いてくれているのも迦暢には有難い。今のところ回数は多いが軽いキスで済ませてくれているのもかなり手加減されている証拠なのだろう。

だけど、カルリトスとの一件が迦暢は引っかかっている。

ヴァルダマーナは迦暢との婚姻を望んだ。

それは時期尚早と恋人からと言い出したのは迦暢の方ではある。

しかしサルマは結婚してしまった方が迦暢を守りやすいと言った。

その時は初めての恋人に舞い上がって深くは考えなかったが、ヴァルダマーナやサルマの心配はカルリトスによって早々に現実となったのだ。

もしも迦暢が既にヴァルダマーナと結婚していれば、兄と言えどカルリトスが手を出そうとする事はなかっただろう。仮に手を出そうとしたとしても、サルマは正々堂々剣を振るう事が出来たし、処罰されるかもしれないと余計な心配をする必要もなかった筈だ。

恋人になるだけでも相当迦暢なりには冒険したつもりではあるが、結果として皆を不幸にしたのは自分なのではないかと考えている。

ヴァルダマーナや周囲の人達を過保護だとは思うが、それは迦暢の人権を守る為にきっと仕方のない事なのだろう。

ヴァルダマーナは自分を無理矢理妻にする権力を持ち合わせているのに迦暢の気持ちを尊重してくれるのは優しさ以外に理由があるとは思えない。

そんな想いに自分は応えられているだろうか。

ヴァルダマーナの事が好きかと問われれば好きだと答えられる。それは恋愛としての好きだ。もちろん人間としても好きではある。

ヴァルダマーナと初めて会い、ヴァローナの町を一緒に歩いた時から自分はヴァルダマーナに惹かれていた。命を助けられた事もあるが、彼をどこか直感的に運命だと思って自分の秘密を明かし、まじないを授けたのだ。

今の想いの線上に結婚は確実にある。

日本で考えれば確かに結婚は早い。でもここは異世界だ。聞けば迦暢の歳でも決して早いわけではないらしい。

甘えるだけでなく、自分も義務を果たすべきなのではないだろうか。迦暢は最近そう考えている。


「迦暢、かーのーん」


会話の途中で考え込んでしまっていた迦暢の頬をヴァルダマーナが人差し指でつつく。

迦暢は我に返って苦笑した。


「あ、ごめんごめん」

「迦暢、お前がカルリトス兄上の事を気に病む必要はない。兄上は今までの責を負わされただけなのだ。今回はきっかけに過ぎぬ」

「あ、違う違う。違う事考えてた」

「何か心配事があるなら抱え込まず言って欲しい」


心配そうにテーブルの上にあった迦暢の手を握り、ヴァルダマーナが迦暢の顔を覗き込む。その美しい瞳に吸い込まれてしまいそうだ。


「いや、ほんと、心配事とかじゃなくて・・・えーと」

「顔が赤いが具合が悪いか?」

「違う、ほんと違くて」

「ふむ?迦暢こちらへ」


斜向かいに座っているヴァルダマーナに手を引かれ、迦暢は立ち上がってヴァルダマーナの前に立つ。

するとヴァルダマーナは手を引いて迦暢を自分の膝の上に横抱きに抱え込んだ。


「わっ!」

「言う気になったか?」

「なりませんっ」


真っ赤になって否定する迦暢の顎を捉えてヴァルダマーナは顔を近づける。

いつもの様に軽くキスをしてニコリと笑う。


「本当に?」

「言わないってば」

「何故?」

「一人でもう少し考えたい事だから!」

「それは私と2人でいる時に私を放置して考えねばならぬ事か?」

「うっ、それは・・・ごめんなさい」

「では其方には罰と私には褒美を与えよう」


そう笑うとヴァルダマーナは再び迦暢唇にくちづける。しかも舌をねじ込まれる濃厚なキスに迦暢は溺れるような感覚を覚えてしがみつく様にヴァルダマーナの服を握りしめた。

長かったのか、短かったのか迦暢にはよく分からない。

嵐の様だった口づけがいつもの押し付けるだけの優しいキスに代わり、頬を撫でられて迦暢の唇から自然と言葉が溢れる。


「ヴァルダマーナさまは、その、私なんかでつまらなくないですか?」

「つまらない?なにが?」

「私、上手くキスも返せないし」


ヴァルダマーナは一瞬虚をつかれた様に目をみはり、小さくため息をついて迦暢の髪を撫でる。


「馬鹿を言うな。こんなに私を夢中にさせておいて」

「夢ちゅ、んっ!」


迦暢の返事は再びヴァルダマーナの唇にかぶりつかれて飲み込まれた。

再び与えられた刺激に迦暢は今まで感じたことのない甘い痺れを感じる。

迦暢だって高校2年生だ。この先に興味がない訳ではない。

でもどこか諦めて遠くに感じていた体験が急に次から次へと押し寄せてふわふわと夢の中にいる様だ。


「そんな可愛いことを心配していたのか?」

「可愛くないもん」

「こうして徐々に染めていくのも悪くないものだぞ?」


オトコを感じさせる余裕の笑みに少し腹立たしさを感じながら迦暢はむぅと唇を尖らせる。

こうして自分は結局甘やかされているのだ。

自分は一体、何を返せるのだろう?

迦暢はまた自分の存在意義に関する宿題が増えた気がした。

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