聖女じゃなくて神の子らしい
目が覚めると、ゆらゆらと揺れていた。
頭に布を被されて、誰かの胸に抱かれている。
落ちないように脇の下に布を通して縛り付けられているらしく、あまり身動きが出来ない。
「目が覚めたか?」
「あ、はい・・・」
そう頭の上から声が降ってきて、私は熱にボーッとした頭のまま返事をする。
とりあえず助かったらしい事に感謝しながら、状況を把握しようとするが見えるのは自分の顔をつけた浅黒い肌と柔らかな胸。鍛え上げられた腕に抱かれて、何かの動物に乗って移動していると言う事だけだ。
「もうすぐ着くからこのままで我慢しておくれ」
「分かりました」
被せられた布で顔も見えない恩人さんに返事をしたものの、しんどくて私はもう一度目を閉じた。
再び目を覚ますと、今度は天幕の中だ。
テントと言えど、割とちゃんとしたお布団に寝かされている。
「目が覚めたか?」
「あ、はい・・・」
なんかさっきもこのやり取りした気がするけど、事実なのだから仕方がない。
目の端から手が伸びてきて、額を探る。
「熱もだいぶ下がったね」
そう言って今度は首の下に手を入れると、ぐっと抱き起こされて抱えられた。
そこで気づいたのだが、服を着ていない・・・。
「とりあえずこれを飲んで」
有無を言わさず、口元に器を押し付けられて私は言われるがまま流れてくる液体を飲み込む。どうやらトマトスープのようだ。
行き倒れていた私を助ける為に、何度か同じように水分と塩分を流し込んでくれたのだろう。口の中はなんとなく、塩辛い感じがする。そこにトマトスープはなんだかよく沁みた。
「全部飲めたね、よし、良い子だ。もう大丈夫そうだね」
「あ、助けて頂いた様ですみません」
「いや、少し私達が遅かったようで悪かったね」
その言葉に歩いている間毒づいていた事を思い出す。
「もしかして、召喚した人ですか?」
「召喚?召喚ってなんだい?」
「あー、私を呼んだ人?って事です」
「否、うちのババが黄色い肌の娘、神の子が西に舞い降りたとお告げを受けたから探しに来ただけだ」
「お告げ・・・神の子・・・?」
すみません、神の子じゃなくて、寺の子です!とは言えない。
お告げがどんなものなのかはその神託?を告げたババという人に会って聞くしかないだろう。とりあえずここで人違いですと言って、また砂漠の真ん中で捨てられる事になっては大変だ。
そもそも明らかに異邦人なのに言葉が通じるスキルがあるのだから、私がその神の子で間違いがないのだろう。他にチートスキルがあるとは思えないし、どうして私が選ばれたのかもよく分からないが、ここは流れに身を任せるしかない。
「あの、とりあえず私は何で裸なんでしょうか?」
「あぁ、熱を下げる為に泉に浸からせていてね。濡れてしまったから脱がせたんだ。もう乾いただろうから後で持ってくるよ。胸元に入れていた丸いのはそこにあるから安心おし」
そう指された方を見ると、雑巾の上に鏡が置かれている。
唯一の持ち物の無事が確認出来て一安心だ。
何せ神の子と言われるなら仏教的な鏡って何か重要アイテムっぽいのではないだろうか。
そもそも重要文化財なので我が寺的にもこんなところで失うのも申し訳がない。
「ありがとうございます。それでババさんはどちらに?」
「ここはまだ途中の町でね。体に問題がないなら明日の朝移動する。今日はゆっくりお休み」
「分かりました」
しんどいのも手伝ってゴロゴロしながら鏡を磨いていたらいつの間にか眠りに落ちていたのだった。