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愚か者の末路

次の日、パーサは契約の条件を提示した。

ヴァルダマーナが出してきたこちらに優位すぎる契約条件のままだ。

もちろん隣国の者達が頷く筈もない。


「持ち帰って検討下さい」

「残念ながら持ち帰るまでもなくこの条件では流石に難しいでしょう」

「燐鉱石は無限ではないのですよ。条件を変える事は出来ません。是非トレアックス国に持ち帰り、王と検討して頂きたい」


パーサは弟に指示されたシナリオに沿って契約書を押しつけ、持ち帰り検討という事で会議を終わらせた。

あとパーサに与えられた役目はは今晩の晩餐会と盗難の際に捕縛する事だけだ。


昨日パーサはどうしても結果が知りたくて、王の側近が戻るまではと王の部屋に居座った。

パーサは王にヴァルダマーナの恋人の話より、2人が結局何を企んでいるのか探ろうといくつか質問をしたが、明確な答えはひとつも返ってきはしない。


「お前達はアレの優しさに甘え過ぎなのだ」


王はそう言って意味深に笑った。

ヴァルダマーナが優しいのは理解出来る。だがパーサにはヴァルダマーナが功を譲るのは優しいというより王位や周りの評価に何も興味がないからだと思っている。本人も言っていた様に煩わされなければ良いと思っているのだろう。

程なくしてそこに末の弟であるアーロンが顔を出す。


「どうした?」

「ヴァルダマーナ兄様に父上のところで愚か者の末路を見届ける様に、とすれ違い様に命じられまして・・・お邪魔しても宜しいですか?」


王はその言葉にため息を吐く。

年嵩の兄達は歳の離れた弟の面倒よりも自らの事に忙しく、末っ子の世話をヴァルダマーナに押し付けてきた。

ヴァルダマーナは特に文句を言うでもなく、持ち前の面倒見の良さで下の弟妹の面倒を見てくれている。

だからアーロンはヴァルダマーナの言う事をよく聞く。

王はヴァルダマーナがプレッシャーをかける為にアーロンを差し向けたと理解した。


「ヴァルダマーナの様子はどうだった?」

「見た目はいつも通りのお顔でしたけど、むしろそこがヤバいと思いますね。あんなにお怒りの兄様を僕は見た事がありません。愚か者ってカルリトス兄上ですよね?」

「カルリトスと何故分かる?」

「兄様が見習ってはならぬと言うのはカルリトス兄上だけですから」


可愛い顔をしてスッパリとカルリトスを切り捨てるアーロンはやはりヴァルダマーナの教え子という事だろう。

無邪気な弟としか思っていなかったアーロンの冷めた物言いにパーサは認識を改めた方が良いのかもしれないと思った。


「アーロン、ヴァルダマーナの命を疑問には思わぬのか?」

「父上にヴァルダマーナ兄様だけには逆らうなと言われてますし、大体、僕を育ててくれたのはヴァルダマーナ兄様の様なものですよ?僕がヴァルダマーナ兄様の恐ろしさを1番理解してると思うな。とても逆らって怒りを買おうとは思いませんね」


自分は弟達の何を見ていたのだろうとパーサは自分を情けなく思う。

ヴァルダマーナが王都に水をもたらしたが、パーサは神託だからと特に気に留めなかった。ヴァルダマーナがその功績を自分の手柄だと主張しなかったせいもある。

裏方に近い神殿の仕事を優しいヴァルダマーナに押しつけていたから、離宮を賜った事もちょっとしたご褒美だとしか考えていなかった。離宮は城内にあるとは言え、山側に近く少し王宮とは離れている。毎日王宮に出るには不便だし、新しい訳でもないので特に羨ましいとも思わなかった。山からの2つの水路が交わる部分でもあり、離宮の近くに貯水槽を作ったのもあって管理の為に移り住んだのだろう位にしか思っていなかったのだ。

他の兄弟達も同じように考えていたに違いない。

そんな事を考えていると王の側近であるウーゴがカルリトスを伴って部屋へ戻ってきた。

カルリトスはどこか落ち着かない様子でキョロキョロとしていたが、パーサとアーロンが居るのに気づくと嫌そうな顔をする。


「なんだ、無傷ではないか」

「父上!なんだじゃありません!もう少しで斬られるところでした!」

「ヴァルダマーナは有事の際、身内でも斬る覚悟はあるぞ。その首が繋がっている事を感謝するのだな」


告げ口をする様にヴァルダマーナの行動を大袈裟に証言するカルリトスにパーサもアーロンも見ないフリをする。

パーサは出されたお茶を優雅に飲みながら、王にちらりと視線を向けた。

王は表情も変えず、だがウンザリといった空気を醸し出している。


「離宮を与えたのは他者を許可なく入れない為にだ。本来、他人の屋敷に勝手に入れば襲撃と見做される。それを堂々とやって退ける馬鹿がいるとは・・・」

「私とヴァルダマーナは家族ですよ?!私は兄だ!」

「勝手に入られた場合は敵として排除して良いとヴァルダマーナには許可しておる。お前が無傷で帰って来られるとは予想外だ」


自分は被害者だと声高に主張するカルリトスを王は否定する。

だが今まで通り、自分は何をやったところで無罪放免になるとカルリトスは思っているのだろう。その態度に王だけでなく、周囲も内心ウンザリとしている。


「父上まで私を脅すのですか!私はただヴァルダマーナの印を見に行っただけです!」


その言葉に3人がハッと顔を上げた。

王は既に離宮に囲っている者が印を持つ者だと知っている。だがパーサもアーロンもまずもってヴァルダマーナが屋敷に誰かを囲っている事すら知らなかった。それが印を持つ者となれば問題はより複雑になる。


「何故お前がその事を知っているのだ」

「たまたま門番が伝令しているのを聞いたのですよ。ヴァルダマーナの印を持った者が王都に入ったと。ヴァルダマーナが印を与えるなど興味を持たない方がどうかしている!」

「何故それが離宮に居ると知った?」

「先日、お忍びで女を連れて市井に出たのを見かけた者がいたのです」


確かにヴァルダマーナの印には興味がある。

だが他の者に印を与えられた者に手を出すなどご法度中のご法度だ。普通どの印であれ、他者の印を持った者であれば王族と対等な立場と言っても過言では無い。よく平民に与えられる一番効力の薄い保護の印だとしても、国賓の様なものだ。それくらい印は重い意味を持つ。

それなのにカルリトスは面白半分で他人の印付きに手を出そうとしたと言うのだ。


「お前には罰を与えねばならん。そうせねばアレへの示しが付かぬ。ワシも試されているのだ、アレに」

「私はまだ手を出せておりません!」

「カルリトスを正式に廃嫡とする」

「父上!」

「これくらいでアレの気が済むとは思えぬ。廃嫡となったとは言え、これ以上の醜態を晒せば次は命の保証はないぞ、カルリトス」


カルリトスは信じられぬものを見る様に崩れ落ちて王を見上げる。

王位に興味などなかったカルリトスだが、廃嫡となれば話は別だ。

内外に知らしめられればカルリトスは今まで通りに暮らしてはいけない。


「何故ヴァルダマーナにそこまで肩入れするのです!」

「馬鹿を言うな。お前の失態を今まで全て庇ってきたのはヴァルダマーナだ。本来ならばお前はとうに放逐されているはずだった。これが最後の試金石であったのだ」


カルリトスには他の兄弟は誰しも何かしら被害を受けている。いつか痛い目に遭えば良いと思っていたが、何をしでかしても確かにいつも大事にならずに片付いている。言われてみればヴァルダマーナが動いた痕跡を感じなかったわけじゃない。自分に女を盗られる以外の直接的な被害がないから特に気にしなかっただけだ。


「皆、ヴァルダマーナの印についての口外を一切禁じる。特にカルリトス。今は来客中なので正式に処分するのは少し先になるが、廃嫡が覆ることはない。処分まで部屋から出るな」

「父上、もう一度ヴァルダマーナと話をさせて下さい!」

「何度も言うがこれは今回だけの問題ではない。たまたま最後の試金石にヴァルダマーナが関わっていただけの話だ。よって覆る事はない。ウーゴ、ナイフを」


王の側近が近寄って小さなナイフを差し出す。床に座り込むカルリトスの前に王はしゃがみ込み、その腕を掴む。

信じられぬものを見る様に大きく目を見開くカルリトスの手首に巻かれていた残りの印はそのナイフによって全て切り落とされた。

それは親子の縁を切った様にも見える。

王族としての権利をカルリトスは今1つ失ったのだ。


「父上・・・」

「お前の扱いについては全て後日だ。少しでも慈悲を得たいのであれば大人しくしている事だ」


王はカルリトスの前から立ち上がり、側近にナイフを手渡す。王が小さく手を払うとカルリトスはウーゴによって自室に連行されて行く。その姿を見る事もなく王は背を向けて再び椅子に座った。


「ヴァルダマーナが斬っておれば面倒もなかったものを」

「それは結局兄様が尻拭いするのと変わりないではないですか。今回だって憎まれ役をわざわざ引き受けて下さっているのに」

「結局、アレに甘えているのは私も同じだな」


そう言って王は深くため息を吐いて椅子に深く沈み込んだ。

それが息子を一人放逐せねばならない憂いからなのか、さっさと片付けておくべきだったと後悔しているのかをパーサには推し量ることができない。

ヴァルダマーナに報告に行くと言うアーロンと共にパーサは部屋を出たのだった。


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