予想されていた危険
いつもの商隊が怪しい男を連れていると門番から町長に連絡が入ったのはサルマが飛び出して行った4日後の事だ。
一月程前、王都からの視察団をなんとか誤魔化したと思った矢先の事だった。
紫の瞳を持つ美しい男が町長を訪ねてきたのだ。
紫の瞳を持つのは王族の血をひく者のみだ。
しかも彼の瞳は陽の光に澄んで見えた。
その美しさは王族の中でも王に近い事を示している。
普通に歩いていても他人の瞳をまじまじと見る事は少ない。
しかもこんな田舎では王都の常識などほとんど知られていないのだ。
町長はただその急な訪れに地面に平伏すしかなかった。
「ヴァローナの奇跡の秘密を探りに来るものがこれから増えるであろう」
「秘密、でございますか?」
「神殿に囲う娘の事だ」
「何故、それを・・・」
「あの者はなんだ?」
「・・・神の子でございます。ババが数か月前に神託を受け、ここより西の砂漠で行き倒れているのを連れ帰りました」
神託を国に報告する義務などない。
そもそも神の子が何を示すのかババですら分からない状態で報告しても迷惑なだけだ。
だが、迦暢の価値はすぐに知れた。
迦暢がもたらす神託はどれも確実で細かい。ババをも凌駕する力を持つことは明らかだった。
そこにきてあのヴァローナの奇跡だ。
迦暢をこんな小さな町で囲っていてはいけないと町長も思っていた。
それでも王都からの視察団に迦暢の存在を話す気にはどうしてもなれなかったのだ。
だから視察団が来ると知って慌てて迦暢を無理矢理隣村に使いに出した。
それなのにまさかその帰り道で迦暢が王族と知り合うとはもはやそういう運命なのだろうと町長は理解する。
「迦暢をお連れになりますか?」
「否、私も今は別件で動いている故身動きが取れぬ。このままここで囲っておけ。ただアレは無防備だ。もう少し守りを固めよ」
「護衛を付ける様に致します」
「それだけではない。アレが根源だと知られれば連れ去ろうとする者も出るであろう。印を与えた故、この国の中であればいずれ私の元に戻ろうが、他国には通用せぬ。他国の商人は既にこの町の許可を持つ者のみ出入りを良しとせよ。ただあまり固め過ぎれば事情を知らぬ者に要らぬ疑念を抱かせる。アレは私の出自を知らぬし、知らせる必要もない」
迦暢には自分が守られる事も、守るように指示したのが王族だという事も知らせずに町ごと守れと言う。
なかなか難しい事を言う、と思っても町長には頷く事しか許されない。
月神殿最高巫女であったババがこの見るべきところのない小さな町に来ることになった時からきっと決まっていた事なのだろう。
「出来れば一月後の星見祭にアレを出す様にせよ」
そう言われて町長は期限がある事を知る。
そして一か月後、迦暢を王都に送り出した。
町長の予想通り迦暢はこの町に戻る事はなかったが、一緒に行かせた者達が王族からの手紙を持ち帰ってきた。
どうやらまだ終わりではないという。
そしてその懸念が今、現実になろうとしている。
「怪しい男とは?」
「従者だと言って連れて入っていたが、ありゃあ商人じゃねぇな。身のこなしを見れば分かるさ。2週間程ほど滞在すると言っていたが」
「どこの商隊だ?」
「ティティジェの商隊だが、きっとトレアックスだな。赤い髪の奴が混じっていたらしい」
「悪いが、王都に早馬を出してくれ。あとはさりげなく監視するだけでいい」
ヴァローナから早馬が出た次の日、入れ違いに数名の騎士団団員が派遣されてきた。
サルマが任を解かれ、代わりに派遣された騎士が支団長となったのだ。
新たに派遣されてきたメンツにサルマの留守を任されていた副支団長だけでなく、団員にも緊張が走る。サルマが解任されたことも驚きではあるが、その代わりに来た支団長が騎士団なら誰もが知るレジェンド級だったからだ。それ以外のメンツも精鋭と言われている人達だった事にヴァローナに何かが起こっていることを知る。
「ヴァローナに何が起こっているのですか?」
「ヴァローナではない。我がココロヴァ国を外敵から守る為に必要なのだ」
そう新しい支団長は副支団長の問いに答えたのだった。




