砂漠の真ん中
気がついたら砂漠の中に立っていた。
作務衣の格好のまま。
手には青銅製の鏡を持って。
そう、私は実家である寺の本堂の掃除をしていたはずなのに、気がついたら砂漠の中に立っていたのだ。
え?
これ夢?
辺りを見回しても砂しかない。
人も見当たらない。
でも、暑い。
しかも足の裏も熱い。
夢の中だとしても感覚はどこかリアルだ。
これ、死ぬやつ…。
とりあえず立ってるのも暑い。
ダラダラと汗が噴き出してくる。
だけど一歩足を踏み出して、その熱さに慌ててひっこめた。
熱すぎて歩きたくない…地獄か!
見回してもやっぱり何もない。
今あるのは磨く為に握っていた画文帯仏獣鏡と雑巾(まだ未使用なので使い古したタオルと言えなくも無い)だけだ。
手の中の鏡を見て、とりあえず願ってみる。
仏教的な物だからね。もしかしたら、仏様が願いを多少は聞いて下さるかもしれない。
とりあえず足袋は履いてるから草履と水とか頂けませんでしょうか?あと千里眼的な目?
人が居そうな方向が分かれば、そちらに向かって歩けば良いと思ったのだ。
だから視力が超良くなればな、くらいの思いで千里眼を願った。
・・・しかし変化なし。
でもここにこのまま立っていても死ぬのは間違いがない。
とりあえず歩いてみるか・・・。
手にしていた鏡は一応まだ綺麗な雑巾に包んで懐にグッと詰め込んだ。
そうして私はなんとなくこっち…と思った方に歩き始める。
暑い。
熱い。
しぬ…。
これどんな苦行?
本当に夢?
でもなんとなく現実だと感じている。
もしもこれを現実だと仮定するなら、何だと言うのだろうか。
東京の、寺の、本堂からの砂漠。
寺の娘として結構真面目に生きてきたつもりなのにどういう仕打ちなのか?
あ、これ今流行りの異世界転生?
いや、死んでないわ。
そもそも外見とかも変わってないっぽいし。
てことはアレか。聖女召喚?
召喚した奴誰よ?
責任者出てこい!!
なんで砂漠の真ん中に召喚しやがったノーコンめ!!
召喚された聖女が死にそうですよ!!!
ひたすら心の中で悪態をついていたけど、結局何処にも辿り着かず、何も見つけられないまま私は行き倒れた。
まじ歩き損。