第96話 今のところの一番は?
「よし、これから一時間休憩だ」
昼食後の訓練が始まってから約二時間後、ようやく長めの休憩が入った。
「にしても、やっぱりデカパイとダスティンパイセンが結構負けたっすね」
「っ!!! ……反論は、ありませんわ!!」
「そうだな。俺も反論することはない。イシュドの言う通り、負けた回数の方が断然多いだろう」
普段使わない武器を使う試合。
武器のサイズ、重量による差の違いが顕著に表れていた。
元々の戦闘センスやこれまで積んできた戦闘勘などのお陰でズタボロのボロ雑巾になることはなかったものの、対戦相手が全員センスや勘だけでどうこう出来る相手ではない。
「結果を受け入れてくれてるようでなによりだ。それじゃあ、休憩の間に先輩たちにアドバイスを貰ってくれ」
時間ピッタリに別の訓練場で待機していた現役騎士たちが集合。
イシュドによって誰がどの武器を主に扱えるかを紹介した後、ガルフたちがアドバイスを貰いたい者のところへ向かう。
(……確かにあの二人は負けが多いけど、丸っきり扱えてなかった訳じゃなかった。けど、職業的なものも加味すると、やっぱりガルフとフィリップ…………それと国柄的にイブキ。この三人が普段使わない武器であっても上手くやれたな)
ガルフは闘剣士、フィリップは傭兵。
二人とも一次職は剣士、短剣士と特徴があるものだが、現在の二次職は、場合によっては進む道を変更できる職業。
(ガルフは結構不安がってたけど、直ぐに飲みこんである程度上手く扱えてた……イブキはやっぱり、大太刀や長槍を使う機会があったんだろうな……なんなら、弓もそれなりに使えそうだな)
武芸百般。
大和についてそこまで詳しくないイシュドだが、前世にはそういった言葉があった。
自身の前世、生まれた国の過去と非常に文化が似ていることを考えれば、大和にはそういった言葉、考えがあってもおかしくない……というイシュドの考えは、わりと当たっていた。
「楽しそうな顔してますね、イシュド様」
余ってしまった一人の騎士がイシュドに声を掛けてきた。
「楽しそう、ねぇ……ふふ、そうだな」
「もしかしたら、将来的にあの中から、イシュド様のライバルが生まれる感じですか?」
声を掛けてきた騎士は、当然イシュドが僅か十五歳にしてどれほどの強さを身に付けたのか知っている。
この騎士も三次職に就いているが、同じく三次職に就いているイシュドとタイマン勝負を行ったとして……絶対に勝てるとは断言出来ない。
「ライバルか。ふ、ふふふ…………あの中で、一人は俺のことを必ずぶった斬りたいらしいから、どれだけ時間が掛かっても上がってくるだろうな」
「い、イシュド様をぶった斬るのが目標ですか……それはなんとも無茶と言いますか。というか、そんな恨みを買う様なことをしたんですか?」
「別にそんな変な事はしてないぞ。試合で真正面から叩き潰しただけだ」
「なるほど。確かにそれは恨まれることはありませんね。ただ、非常に向上心が高い人という事ですね」
正確には真正面から叩き潰し、プライドをバキバキの粉々に砕いた。
しかし、騎士はそこまで詳細を聞いたとしても、イシュドが酷い事をしたとは全く思わない。
この家では特に珍しいことではないのだ。
(非常に向上心が高いか……確かにその通りだな。いくら俺をぶっ倒したいからって、そもそもプライドをバキバキのグチャグチャに潰された相手に、訓練に参加させてくれって頼める時点で、そこら辺の奴らよりは断然根性あるよな)
今も慣れない得物を使い、行った試合の大変に負けてしまったが、それでも折れることなく騎士たちにアドバイスを求めている。
「因みに、そのイシュド様を絶対にぶった斬りたい方は誰なんですか?」
「あのデカパイ」
「…………どのデカパイでしょうか」
成長途中のリュネは除外されても、イシュドの学友たちの中には三人のデカパイがいる。
騎士からすれば全員がデカパイであり、三人とも強い芯を持っている様に思えるので、誰がそこまでイシュドに対して強い闘志を向けているのか解らない。
「髪が縦ロールのデカパイだ」
「あぁ、あの気の強そうな令嬢でしたか……しかしイシュド様、その様な呼び方をしていて大丈夫なのですか?」
「俺にとってあだ名みたいなもんだから大丈夫だろ。あいつから俺に勝負を挑んで負けた訳だしな」
(……どのあたりが大丈夫なんだろう?)
この騎士も世間一般的な騎士たちと比べればぶっ飛んだ部類に入るものの、友人を……正確には侯爵家の令嬢をデカパイと呼ぶことの何が大丈夫なのか解らず、さすがレグラ家の人間は違うなと……謎の感心を抱いた。
「なるほど! ところで、一番イシュド様に勝ちたい人物は分かりましたが、実際のところ誰が一番近いのですか?」
まだまだ遠い……彼らがイシュドに追い付く道のりが遠すぎることは騎士も解っている。
それでも、そもそもイシュドが学園で出会った友人たちということもあり、そのあたりも気になってしまった。
「…………一番楽しみなのは平民出身のガルフなんだが、一番近いのは……あっちの上品な金髪、会長パイセンだな」
「なるほど、あちらのご令嬢ですか」
「会長パイセンは俺が激闘祭の特別試合で戦った中の一人で、結果として最後までリングに残って戦い続けた人だ」
「そういえばその特別試合は三人と戦ったのでしたね。イシュド様が手加減していたとはいえ、最後まで残るとは……既に完成されていそうですが、今後の経験次第では更に研鑽され……もしかしたら、一度自分を壊すかもしれませんね」
「はっはっは…………そうなれば、最高だな」
(ん~~~~、相変わらず良い笑顔を浮かべますね~~)
今の自分を壊してでも、更なる強さを求める。
クリスティールほどの宝石がそれを行えば、その果てに生まれる者はいったい何なのか……想像してしまうと、どうしても凶悪な笑みを零してしまうイシュド。
因みにこの時、イシュドと騎士の会話が聞こえないぐらいの距離で別の騎士にアドバイスを聞いていたクリスティールは……首筋に悪寒を感じ、体を震わせた。




