第66話 集まる視線
「ところで、そちらのお三方の中に?」
クリスティールに慰められて役得と思っていると、直ぐにフルーラの言葉に反応して眉間に皺が寄るミシェラ。
「フルーラ。試合の時も、その可能性は絶対にないと伝えたではないですの」
「それはそうですけど、あんなに楽しそうにしてるミシェラさんは初めて見たので」
「楽しそう? 私はクリスティールお姉様と一緒にいた方がよっぽど楽しいのですが?」
「……かもしれませんね。少し言葉選びが悪かったですね。こう……何かを抑えることなく、自由に話している様に見えました」
令嬢としての皮を被る必要がなく、一人の女子生徒ととして話し、感情をぶつけ合えている……フルーラの目には、そのように移っていた。
「それは……どうでしょうか。どちらかと言うと、私の方が自由にズバズバと言われていますわ」
「んだよ。そんじゃあ、似非紳士みたいにエスコートすりゃ良いのか? それとも三枚舌が付いてる雰囲気イケメンみたいにクサい言葉を口にすれば良いのか?」
「…………っ、想像しただけでも気持ち悪いですわ」
「おぅ、そうだろ」
そもそもイシュドは先程クリスティールのドレス姿を褒めたように、女性に対して褒め言葉を言えないわけではない。
「お三方……イシュドさんたちは、ミシェラさんの事をどう思ってるのですか?」
「面倒なクソデカパイ金髪縦ロール」
「平民で言う、口うるさいおかん?」
「誰があなたの母親ですか! というかイシュド、せめてこういった場ではその呼び方を止めなさい!!」
「えぇ~~~。じゃあ、クソ面倒令嬢」
「~~~~~~~っ!!!!」
それはそれでムカつきが止まらないミシェラ。
(……おそらく。というより、間違いなくミシェラさんが初めて出会ったタイプの男性ですね)
とりあえず言葉遣いは下品だと感じた。
特に飾らない、隠さない……そこに好感が持てないという訳ではないが、それでも下品なものは下品である。
「えっと……物怖じない強さを持つ人、かな」
お三方に含まれているガルフは特に言葉を飾ることはなく、自分の言葉でミシェラを言い表した。
(この方が噂の平民さん………………貴族の令息であるお二方よりも、こちらの方の方が丁寧な答えが出るというのは……どうなのでしょうか?)
元々フルーラは相手が平民だからといって、侮る様なタイプではない。
しかし、あまりにもミシェラを形容する言葉が逆では? という思いを強く感じてしまった。
「はっはっは! 確かにそれはあるわな。俺と戦ってコテンパンに負けたっつーのに、後日俺がガルフたちと行ってた訓練に参加させてくれって申し出てきたからな。あの戦いでもそうだが、根性はそこら辺の男よりもあるだろうな」
「っ……次は絶対にぶった斬ってみせますわ」
「んじゃ、双剣で相手してやるから頑張れよ」
言葉通りコテンパンに負けてるとため、軽く煽られても全く言い返せなかった。
(認める部分は認めてるということでしょうね。特別試合は私も見てましたが、決して蛮族……狂戦士、そういった言葉に収まらない技術を持っていた。彼の指導でミシェラさん、フィリップさん、ガルフさんの三人が成長したと考えると……本当に蛮族なんて言えませんね)
結局、フルーラはミシェラと誰が一番近いのか分からなかった。
因みにこの時、離れた場所からミシェラに気がある同級生、オーネス・スリーシが嫉妬の目を三人に向けていたが……周囲にいる面子が濃すぎるあまり、絡みに行こうにも絡みに行けなかった。
「「「「「「「っ!!」」」」」
「ん?」
会場にいる生徒たちの視線が、どこかに集中した。
いったい誰が入って来たのかと顔を向けると……そこにはディムナ・カイスがいた。
ディムナは会場をぐるりと見渡すと、一緒に入って来た同級生などを無視し……イシュドたちの元へと向かう。
(俺じゃなくて、ガルフに意識が向いてるっぽいな)
本来であれば前に出て「なんだてめぇこの野郎、やんのか? やんならその綺麗な顔ぐちゃぐちゃに潰すぞ」といった顔になってガルフの前に立つ。
しかし、今のディムナからはガルフに対して見下す雰囲気を感じられない。
なので守るように前に出ることはなく、ワインを呑みながらどうなるのかを見守ろうと決めた。
「おぅ、ディムナ。もう平気か?」
「えぇ、問題ありません、ダスティンさん………………平民」
「あ、はい」
平民はこの場に一人しかいないため、必然的に自分が声を掛けられたのだと解り、肩が震えるガルフ。
「名は、ガルフだったか………………うちの養子にならないか」
「……………………???????」
静寂。
ダブルノックアウトになった試合の当事者二人の会話。
誰であっても会話内容が気になる。
だが……ディムナの口から零れた言葉は、あまりにも予想外過ぎたため、全員その言葉を理解するのに時間がかかった。
(こいつ、何言ってんだ……………………あぁ~~~、はいはいなるほどなるほど。そういう考え、か??)
ある程度ディムナの考えを読めたイシュド。
さすがに予想外の内容であったため、予定変更してガルフの前に立った。
「お前の思考的に、ガルフは形だけでも貴族になるべきだ……そういうので合ってるか?」
「あぁ、その通りだ」
辺境の獣が会話に入ってくるな、といったセリフを吐きそうなディムナではあるが、フルーラと同じくクリスティールたち三人対イシュドの特別試合は観客席から観ていた。
各学年のトップが束になっても敵わなかった存在。
しかも完全に手加減した状態での勝利。
気品、言葉遣い、態度云々など関係無く……全てを力でねじ伏せる戦闘力。
人間としてはともかく、その強さには敬意を持たなければならなかった。
「…………俺は、ガルフのダチだ。ただ、ダチってだけでこいつの人生を強制できる訳じゃない。つか、人の人生を強制するとかクソだけどな」
「………………」
「ガルフの人生は、ガルフ自身が決めるもんだ。ただな……ディムナ・カイス。お前、仮にガルフがお前の提案した道を選んだとして、お前はガルフを守れるのかよ」
「? それは、どういう………」
意味だ、と口に仕掛けたことで、ゆっくりと飲み込んだ。
同じサンバル学園の一年生であるフェルノ・サンタ―キとは違い、この男は本当のバカではなかった。




