第416話 一流の証拠
速い。
三人の冒険者が最初に抱いた感想はそれだった。
一瞬にして自分たちとの距離を詰めた。
身体能力があれば、不可能な事ではない。
ただ、問題があるとすれば……彼らが完全に反応出来なかったこと。
「喧嘩なら、俺らが買うぜ?」
「無駄な争いでしかありませんが、あなた方がそれを望むのであれば、致し方ないというものです」
一人は好戦的な態度を示し、もう一人は至って冷静な態度で対応しようとしていた。
だが……二人には、ある共通点があった。
(こ、こいつら狂戦士か!!!!)
片側の瞳だけ変色し、体から赤黒いオーラがほんのりと零れていた。
バカ三人は、性格的には今回の様にバカなところがある。
しかし、実力的には決して調子に乗っているクソイキり野郎ではない。
だからこそ、イシュドやミシェラたちといったガキがケルベロスと戦うといった会話を話しているからこそ、バカなガキ共がいるぜと笑っていた。
「どうしました? 気に入らないと……謝らなければ力で解らせるために近づいたのではないのですか?」
ある程度職業、スキルにも知識があるからこそ、一瞬で自分たちに詰め寄ってきた二人が狂戦士の中でも上位に位置する力を持っていると解る。
バーサーカーソウルを発動した際に怒る体、外見の変化を最小限に抑えることが出来る。
つまり、それは己の狂気をある程度コントロール出来ている証拠。
本当の意味で強い狂戦士たちの中では、それが出来てこそ一人前の狂戦士として認められる。
「っ…………チッ! そういう雰囲気を隠すんじゃねぇよ」
「隠さずとも、結果は変わらないのではありませんか」
「………………チッ!!!!!」
リーダーの男は再度大きな舌打ちをすると、そのまま酒場から出て行った。
「ちぇ~~~~。なんだよ、戦らないのか」
「……意外にも、冷静な判断は出来る方々だったようですね」
三人の冒険者たちは、決して弱くない。
曲がりなりにも、現在はアルバンカで……紅鱗の地で活動している冒険者。
ただ、ジャレスとリベヌを前にして、自分たちが絶対に勝てるというイメージが湧かなかった。
「リベヌの言う通り、あんな会話をしてた割にゃあ、冷静な判断を下せる連中だったみてぇだな」
「……二人から逃げたという評判よりも、二人に負けた結果の方が自身の評判を下げると判断したという訳か」
「そういうこった。意外と冒険者の事を解ってんじゃねぇか、ディムナ」
「偶然だ」
面子を気にするのは、何も冒険者だけではない。
面子や評価を気にするのは貴族も同じであり……そういった部分はあまり貴族らしくないディムナではあるが、それでも貴族とはそういうものだという知識は持っていた。
「冷静な判断が出来るなら、あぁいった会話をすることもなかったんじゃないかな?」
「さぁ、そりゃどうだろうな。多少なりとも酒が回ってて、そんで俺らの見た目が見た目だ。ぱっと見だけ冷静な判断が下せねぇこともあんだろ」
イシュドの説明に、一応納得はしたガルフ。
ミシェラたちも……多少なりとも酒が持つ力を知っているからこそ、それならば仕方ないのか? と納得した。
「……今回の様なことが、何度もあるのでしょうか」
「ジャレスとリベヌは見た目的にガキじゃねぇし……体格とかだけなら、ダスティンパイセンだって相当だからなぁ~~~~…………つっても、絡んでくる奴は絡んでくるだろうな」
当然の事ながら、紅鱗の地は冒険者になりたてのルーキーたちが活動する様な場所ではない。
仮に足を踏み入れようものなら、それは文字通り自殺行為である。
そのため、アルバンカには殆どある程度実力のあるベテランの冒険者、若くとも既に実力が一級品の者たち……もしくは将来その域に手が届くであろう有望株たち。
そのため、彼等からみたら冒険者ではない若僧たちが何の為にここに来たのか。
調査? 何を簡単に言ってるのかと……ヒビ紅鱗の地で活動している自分たちを馬鹿にしていると捉えられる可能性もある。
「まっ、気にするだけ無駄だ。本当に絡んでくりゃあ、そん時は俺らが美味しくいただくだけだからよ」
(…………この三人に食べられると思うと、相手側が少々気の毒になりますわね)
二人もイシュドと同じであり、三人の狂戦士が不敵な笑みを浮かべていた。
そして翌日……イシュドたちは予定い通り、朝早くから冒険者ギルドに訪れていた。
「「「「「「「…………」」」」」」」
現在、ジャレスとリベヌを除いてイシュドたちの服装は基本的に制服である。
だからこそ、冒険者たちからの注目も集めやすい。
そんな中、イシュドはチラチラと向けられる視線を全く気にせず、クエストボードと主に紅鱗の地に関する情報が記された記事が張られているボード、両方が見える場所へ向かった。
(へ、へっへっへ…………良いね。当然の様にBランクやAランクモンスターの目撃情報、討伐依頼や素材の調達依頼が張ってやがる)
噂通り、自身の実家周辺に劣らない環境上を目にし、無意識に口角が上がる。
約二名はイシュドと同じ様な表情を浮かべており、ディムナとアドレアスは……ボードに張られている情報に驚きながらも、平静さを保っていた。
そんな中……ガルフたちは、予想していたものの目の前の現実に大きな衝撃を受け……それでもと気持ちを振り絞り、なんとかその感情が表に零れないように歯を食いしばっていた。
ただ……ある程度人生経験がある冒険者からすれば、貴族ではなくともそれらの表情から彼らの心の内側がある程度察しがついてしまう。
だからか、幾人かの冒険者が不満解消も兼ねてイシュドたちに絡みに行こうとしたが……それよりも先に、一人の受付嬢が近寄った。
「イシュド様、でよろしいでしょうか」
「? あぁ、イシュドですけど……どうかしましたか?」
「ギルドマスターより言葉を預かっております。うちのバカたちがやらかしたなら、いつでも進言してもらって構わないと」
冒険者たちは知らずとも、ギルドは既に彼らが誰なのかを把握している。
そのため、実力はあるが血気盛んなバカたちがやらかさないよう、先に釘を刺そうとした。




