第413話 自主退学?
「本気の差を感じたってのは理解出来たっす。けど、それがあいつらにどう不味い感じで影響するんすか?」
「これまでの自分が本気だと思っていた行動は本当の意味で本気ではなかったと知り、更に強くなろうと……その道にのめり込んでしまう」
それの何が悪いのか。
そう口にしようとした時、イシュドは前世の言葉を思い出した。
(ハードワーク、か)
この世界ではポーションという液体、回復魔法などのスキルによって、打撲から切傷、切断に骨折……果てには、失った欠損部位を再生することも可能。
そのため、ハードワークで筋を痛めたなどの状態になっても、直ぐに回復出来てしまう。
であれば、そこまで気にする必要はないのではないか?
そんな疑問が浮かぶほど、イシュドの脳はツルピカではない。
「あぁ~~~~、そういう事っすね………………そうなると、お二人が心配するのも解るっす」
この世界で……戦闘職として強くなりたいのであれば、モンスターという凶悪な怪物を討伐しなければならない。
そして、早く上に駆け上るのであれば、自身よりも格上のモンスターを討伐するのが近道だが……どの世界でも、近道にはリスクが付き物。
戦闘に関しての最大のリスクは、死。
死んでしまえばそこまでであり、コンテニューはない。
「理解してくれてなによりだ。現状、彼らが早く上に登る為には、格上のモンスターを……Cランクの中でも最上位のモンスターか、Bランクモンスターを討伐する必要がある」
過去、ガルフとフィリップ、ミシェラとイブキの四人でブランネスウルフを討伐。
別メンバーではガルフとフィリップ、イブキとアドレアスの四人とも討伐を行った。
それらの面子にディムナ、ダスティンの二名が加われば……レグラ家周辺に出没するBランクモンスターでなければ討伐出来る可能性が高い。
ただ、そうなってしまうと一人当たりにレベルアップに必要な経験値が分散されてしまう。
「現状、ソロでBランクモンスターを討伐出来る可能性があるのは、攻守共に優れているガルフ君かな」
「次点でなら、一撃の火力に優れたアドレアス様……ディムナ、イブキか」
可能性があるというだけで、現在名前を上げられた四人が絶対に討伐出来るとは限らない。
寧ろ、現状では死亡するリスクの方が高い。
「つっても、ガルフたちにそういう無茶は……うん、とりあえず今はさせないっすよ」
今は、という言葉を発する時点で、少々怪しさが香ってしまうが、今はとりあえずツッコまない二人。
「ディムナは、どうする」
「……ダスティンパイセンは、心配じゃないんすか?」
「ダスティン・ワビルは、二年生らしく冷静な判断力を持っている。私としては、良い意味で自身の向上心を制御出来ると思っている」
「けど、ディムナはそうじゃないと」
「そうだ。それは……イシュドが、一番解っているのではないか」
一見クールで冷静という言葉がそれなりに似合いそうなディムナ・カイスではあるが……割と冷静な判断力を持っていないという事を、確かにイシュドは知っていた。
(……そういえばあの野郎、アドレアスと一緒にうちに来て、土下座してまで一緒に訓練させてくれって頼み込んできたんだったな…………あぁ~~~~、今思い出しても腹立つ!!!!!!)
当時の光景、感情を思い出し、うっかりグラスを割りそうになるも、なんとかギリギリで堪える。
「そうっすねぇ~~~、割と見た目ほどクールじゃないところがあるっすね」
「……ここからは少し別の問題になるが、そうなると……彼らが進路を変える可能性がある」
「進路を変える? 騎士の道に進むのを止めるってことっすか………………そっか、そりゃ確かに困んのか」
ディムナはカイス家の長男ではないが、それでも将来を有望視されている騎士候補。
高等部での激闘祭ではベスト八でガルフとダブルノックアウトになって敗退してしまったが、それでも発言したばかりとはいえ闘気を扱う相手と引き分けになったということもあり、最終的に高い評価を受けた。
「バイロン先生が言いたいのは、ディムナの奴が将来的に騎士の道を選ばず、他の道を選ぶんじゃないかってのが心配なんだな」
「そういう事だ。もっと言えば……学園を自主退学するのではないかという心配もある」
「自主退学かぁ…………それもそうか。騎士の道に進まないなら、これ以上学園に居ても仕方ないっすもんね。んじゃあ……冒険者の道に進むとか?」
強くなる、その上で人らしい生活を送るとなれば……それが一番適した生き方と言えなくもない。
「私はその可能性は一番危惧している。なにより、イシュドも冷静な判断を下せない者を、もう一人知っているだろう」
「もう一人っつーと……あぁ、あいつっすね。確かに、立場を考えればあいつの方がやってる事ヤバいっすもんね」
イシュドはこれでも、一応辺境伯家の令息ではある。
実家が侯爵家のであるディムナが土下座をしてまで頼み込むというのもそれなりにおかしいが、王家の血筋である王子のアドレアスがイシュドに対して土下座をしてまで頼み込むのは……ある種のスクープである。
「……もしかして、二人揃って退学して冒険者として活動するとか?」
「多分だけど、なんとも恐ろしいパーティー……ですよね、バイロン先生」
「えぇ。そうですね、シドウ先生……本当に、多くの意味で恐ろしいパーティーですよ」
まだ確定したわけではない、もしかしたら未来。
そこまで悲観、深く悩む必要はないと思われるが……彼らが騎士として為そうしている目標を考えれば、それはなにも絶対に騎士である必要がない。
冒険者というイメージからは離れた行動にはなるが、それでも冒険者という職についても実行することが出来る。
「なるほど~~~。んじゃあ、割とリベヌはあいつらにとって良い薬であると同時に、毒にもなってしまうかもって事なんすね~~~」
なるほどなるほど~~と頷くイシュドではあるが、最初からそこを考慮して人を選んでくれとは言われていない。
その為、二人の愚痴に近い話に納得はしているので聞き続けるものの、一緒になって
気分が沈むことはなかった。




