第410話 普通ではない
「くっ!!」
「ッッッ、ハァアアアアッ!!!!」
「…………ッ!!!!!」
「……マジ、いかれてんな~~~~」
前で戦う三人とリベヌの戦闘光景を見て、フィリップはポロっとそんな言葉を零した。
あまり女性に使う言葉ではないが、目の前で行っている光景を簡単に説明するのであれば、そうとしか言えない。
本当にいかれた光景が……フィリップの前で行われていた。
「ッッッッ…………イシュド。彼女は……リベヌ殿は、後衛職……なの、だよな?」
「そっすね~~~、間違いなく後衛職っすよ」
「…………レグラ家に、使える者たちの中では、あれが、当たり前なのか」
ダスティンの目の前では……二人の前衛と一人の中衛を相手に、全ての攻撃を躱すか魔力を纏った杖で対応しているリベヌがいた。
「ん~~~~~……なぁ、ジャレス。多分リベヌはうちの中でも珍しいよな」
「ですね! 多分こっちの人間たちからすれば俺やイシュド様の職業歴って珍しいんでしょうけど、珍しさで言えばリベヌの方が上だと思うんすよね」
「そ、そうなのか。ちなみに、今の彼女の職業は……聞いても良いだろうか」
「良いっすよ」
既にジャレスの職業を伝えており、リベヌ本人からも許可を貰っている。
「リベヌの今の職業はハイ・ウィザードっすよ」
「……確かに、後衛職だな」
ひとまず、その内容に関しては納得出来る。
ダスティンはあまり魔力感知が得意ではないが、それでも自身よりリベヌの方が圧倒的に魔力量が上であることには気付いていた。
だからこそ、とりあえずその内容に関しては驚かない。
ただ……今のところ三次転職に限れば、ジャレスやイシュドの方が珍しい。
「だが、あの動きは三次職に転職しているから、後衛職で前衛の訓練を行っているからという理由で為せるものではない」
「その認識は間違ってないと思うっすよ。でも、リベヌは二次職が狂戦士なんすよ」
「……………………そう、なのか」
ダスティンはなんとか言葉を振り絞った。
常識が通用しない、訳が解らない……だが、リベヌがレグラ家に仕える者という理由で、なんとか無理矢理納得することが出来た。
「なるほど。それなら、リベヌさんがディムナとミシェラ、イブキさんの猛撃を対処しながら、フィリップの後方からの遠距離攻撃にも対応出来るのが…………うん、解るかな」
アドレアスもダスティンと同じ気持ちであり、何故……どうして? という気持ちはあるが、それでもレグラ家の凄さの一端を知っているからこそ、なんとか納得することが出来た。
「狂戦士からハイ・ウィザード……狂戦士からハイ・ウィザード………………?????」
ガルフが一番最初に引っ掛かったのは、まずそこであった。
ダスティンやアドレアスほど職業に関して知識がないものの、ガルフでもその段階がおかしいという事は解っている。
「ねぇ、イシュド。ハイ・ウィザードって、そのひとつ前に魔術師とか……精霊魔導士? の職業とかに就いてないと、転職出来ないよね?」
「だな」
イシュドは……元が色々とおかしいという理由があり、現在変革の狂戦士という職業に至った。
ジャレスは本人の努力や体格、素質……それに加えて、順当と言えば順当な流れもあって、重凶戦士に至ったのは理解出来る。
だが、狂戦士からハイ・ウィザードに転職するというのは、職業の性質などに詳しくない者であっても、おかしいというのが解る。
「ん~~~~~~~……ジャレス。どう説明すりゃ良いと思う」
「そうっすね~~~~………………いやぁ~~~、難しいっすね。ただ、簡単に説明するなら、普通じゃないって感じじゃないですかね」
「……それが妥当か」
自分たちを完封した人間と、普通ではない狂戦士が……普通じゃないと評する。
それがどういう意味か解らない三人ではない。
ただ……必死に頭を回すも、どう普通じゃないのかが解らない。
「そ、そういえばまだリベヌさんの最初の職業を聞いてなかったよね。い、いったいどういう職業に就いてたの?」
「リベヌの最初の職業? あいつの一次職は……………僧侶、だったか」
「「「………………」」」
もう、本当に訳が解らなかった。
(……俺の聞き間違えでなければ、イシュドは今……僧侶と、僧侶と言った、よな?)
(え、えっと……一次職が僧侶、で……二次職が、狂戦士。そして三次職が、ハイ・ウィザード…………なるほど。確かに二人が普通ではないと評するのも、解る)
(………………???????)
ダスティンは自身の耳に入った言葉を疑い、ガルフは何とか必至考えた結果……頭がショートした。
そんな中アドレアスは、二人が普通ではない評した意味が解った……その他は何も解らなかった。
「ふぅーーーーーーー……イシュド。世界は広いというのは、解っているつもりだ。ただ……彼女は、それだけの言葉で収まる人間なのか?」
ダスティンが言いたい事は解る。
イシュドも、リベヌの職業歴を知った時は色々と驚かされた。
「言ったじゃないっすか、普通じゃないって。あいつは、最初に僧侶を選んだのは適性が高いからって理由で選んだらしいんすよ」
回復魔法が使える者は貴重な存在であり、才能があるのであればその道に進ませるのが一般常識。
そのため、リベヌは僧侶を選択したが……レグラ家に仕える騎士たちは全員ではないが、狂戦士の職業を選択している者がそれなりにいる。
勿論、僧侶という道を選んだのであれば、戦闘に参加するにしてもそういった部隊がレグラ家にも存在する。
ただ……リベヌは自分が守られるというのが性に合わないと感じ、騎士には狂戦士の道を進む者が多いと知り……僧侶としての仕事をこなしつつも、前衛としての訓練を
始めた。
それらの話を聞いて、ダスティンたちは二人がリベヌを普通じゃないと評した理由がようやく解った。
ただ、まだ疑問は残っている。
「……イシュド。狂戦士から、ハイ・ウィザードに転職できたのは……狂戦士に転職して以降、魔法への理解を深めたから、かな」
「ご明察通り。もっと言うと、一次職に就く時に僧侶の他に魔術師って選択肢があったんだよ。それを覚えてたリベヌはそっちの方面にも自分は才を持ってるんじゃねぇかと思って、レベルが五十に到達するまでなんとかやったらしいぞ」
「そういった経緯が、あったんだね」
最終的に……一応、解らなくはないと思えた三人。
ただ、それでも二人が言った通り、普通ではないという印象が消えることはなかった。




