第409話 似てる
「…………当然、なのでしょうけど、あの方も……イシュドと同じく、三次職に到達してる、のですわよね」
「あぁ、勿論。そうじゃねぇと、護衛にならねぇだろ」
「そう、ですわね」
三次職に到達している。自分たちよりも強い……それは予想出来ていた。
だが、ガルフの闘気を纏った斬撃、ダスティンの渾身の突きが指でつまむだけで止められた光景を見て、驚愕せざるを得なかった。
「……………………やっぱり、あなたの実家は、色々とおかしいですわね」
「はっはっは!!!!! まっ、だろうな」
多数の参加者をぶっ倒し、参加権を勝ち取ったのがジャレス。
当然ながら、参加していた者たちの中には多数の三次転職者がいた。
暫定的とはいえ、そのトップに立ったジャレスは間違いなくおかしい部類の人間と言えた。
「……イシュド。あの方の、ジャレスさんの三次職を、伺ってもよろしいでしょうか」
「どう思う、リベヌ」
「…………広まることはないでしょうし、仮に広まったところでといったところかと」
まだ、リベヌはイブキたちと交流がないに等しい。
ただ……イブキたちが纏う雰囲気、表情などからそれなりに信用出来る人物だと感じた。
「んじゃ別に良いか。ジャレスの三次職は、重凶戦士だ」
「重凶戦士っ……あなた程ではないにしろ、やはり普通ではありませんわね」
重凶戦士という職業は戦士と狂戦士……もしくは重戦士と狂戦士、二つの職業を経験していれば就ける可能性があると言われている職業。
ただ……実際のところ、その二つの職業に就いてたからといって、絶対に就ける保証はない。
決して可能性は高くない。
高くないが、ジャレスは見事その低い可能性を捥ぎ取った強者。
「就いた職業の流れも、ある程度あなたと似てますわね」
「ん? あぁ……まっ、そうとも言えるな」
ジャレスは一次職が重戦士、二次職が狂戦士で、三次職が重凶戦士。
本来、一次職で重戦士に就ける可能性は低い。
戦士であればそれなりに可能性はあるが、それでも本人の素質と幼いながらに積み重ねてきた鍛錬の結果次第。
二次職に到達した際、重戦士か狂戦士に就き……いざ三次職となった時、三次職で狂戦士か重戦士か……どちらかを選ぶメリットは、殆どない。
重戦士も狂戦士も、世間一般的には中級職と呼ばれる職業。
レベル五十に至り、三次職に転職出来る際は基本的に上級職と呼ばれる職業に就けることが殆ど。
だからこそ、その三次職で中級職に就いてまで重凶戦士を追い求めるのは……四次転職が出来るレベル七十五に到達するまでの難しさを考えれば、基本的にデメリットしかない。
「はっはっは!!!!! 良いじゃないか!! 本当に予想以上だ!!!!」
「……あなたと似ていますわね」
「狂戦士だからな~~~~」
「…………そうですわね」
ガルフ、ダスティン、アドレアスとの戦いの中、ジャレスは本当に驚きながら一対三という戦いを喜び、楽しんでいた。
そんな中、ミシェラは狂戦士だから……という言葉がずっと残っていた。
(あの三人を相手に、あそこまで余裕を持って…………しかも、狂戦士ということは、バーサーカーソウルを残している……っ、恐ろしいですわね)
名前の通りのスキル、身体強化。
腕力強化に脚力強化、耐久強化……それらの他にも、多数の身体能力を強化するスキルが存在する。
だが、現在ジャレスは全身に魔力を纏うだけで、三人の攻撃に対応し続けている。
「それにしても、狂戦士は戦いを楽しまないと気が済まない性分なのかしら」
「そういう奴は多いんじゃねぇの? まっ、そうじゃねぇ奴もいるけどな」
余裕がある様に見えるジャレスだが……現状のままだと、どこかでタイミングさえ嚙み合えば三人の攻撃が届く。
三次職に就いているからといって、二次職の者の攻撃が絶対に届かない訳ではない。
それをある程度は理解しているジャレスだが……それでも尚、強化系のスキルを発動しようとはせず、全身や武器に魔力を纏うだけで三人と戦い続ける。
理由は本当に単純であり、思った以上に楽しめる三人との戦いをそのまま楽しむ為である。
「いやぁ~~~、さっすがイシュド様のダチ!!! 全然温くないですね!!!!」
「だろ」
イシュドの友人、同級生ということもあり、多少は期待していた。
だが、一対三という模擬戦が始まってから、最初から遠慮せずに全力で挑み、迫って来る三人と刃を交え……期待以上の者たちだと身に染みて感じ取った。
そんな三人は、ガルフとダスティンはロングソード、槍でジャレスの戦斧をガードすることに成功したものの……そのまま壁まで吹き飛ばされて背中を強打。
そしてあっという間にアドレアスの懐に潜り込み、適度なボディーブローが炸裂。
ジャレスが終わらせようとしてから、本当にあっという間に終わりを迎えた。
「んじゃ、後退で今度はフィリップと、ミシェラ、イブキとディムナの四人とリベヌで戦ってくれ」
「お、おぅ」
「分かりましたわ」
「はい」
「…………分かった」
ジャレスと同じく一対三ではなく、更に数を増やして一対四。
フィリップとミシェラ、イブキは素直にその戦況を受け入れた。
ディムナは……返答まで間があったものの、リベヌが自身より上であるという事は認めている為、一対四という変則的模擬戦を行うことを了承。
「んじゃ、始め」
相変わらずぬるっとした掛け声と共に変則模擬戦がスタート。
ミシェラ、ディムナが前衛となり、イブキが中衛。
そしてフィリップが後衛を努め、即席ではあるが悪くない配置でリベヌを攻め始めた。
「イシュド……俺たちの護衛となる者だ。当然、俺たちよりも強いという事に疑いはない。ただ……彼女は、後衛職だろう」
ローブをを身に纏い、武器は長杖。
ダスティンの言う通り、リベヌは後衛職に就いている。
一般的に、後衛職は一人で戦うのではなく、前衛の戦闘者と組んで戦うのが一般的。
その常識は間違っておらず、四倍という数を考えれば……たかが模擬戦とはいえ、三次職の後衛職が絶対に有利とは断言出来ない。
「確かに後衛職っすけど、リベヌはこう……うん。普通じゃないからな~~~」
あのイシュドが、普通じゃないと口にした。
その意味を、ダスティンたちは直ぐに知る事となる。




