第408話 そういう自己紹介
「先に言っとくけど、お前らは俺らに何かあった時の護衛だ。向こうで遭遇する全て
のモンスターと戦うわけじゃねぇ」
危険な地であることは情報の上ではあるが、解ってる。
だが、本当に二人だけに任せては、調査依頼を受けた意味がない。
「うっす。勿論解ってますよ」
「同じく、解っています……ただ、向かう場所は私たちが常日頃戦っている場所に負けない危険度があると聞いています。そこで、イシュド様の学友たちは本当に戦えるのですか」
リベヌもジャレスも、ガルフたちの存在自体は知っている。
それなりに戦える十五歳、十六歳の学生たち。
頭一つ抜けた技術、技などを有している……話は聞いており、それが嘘だとも思っていない。
ただ……場所が場所であるため、イシュドの足手纏いになり過ぎないかという思いがあった。
「さぁ、どうだろうな。速攻でズタボロにされることはねぇだろうけど、どの体力も警戒度マックスで戦うことになるだろうな」
「…………イシュド様が笑ってるってことは、マジでそれなりに戦えるって事ですね!!!」
付き合いだけならガルフたちも長いため、ジャレスはイシュドが実際のところどう思っているのかを察した。
「そういうこった。っし、着いたな」
あれこれ話している内に、フラベルト学園に到着。
イシュドは警備の騎士などに自身の客だと伝え、二人を中に入れる。
フラベルト学園に関わっている者であれば、ここで下手に確認を取ろうとしても意味がないことを理解しているため、あっさりと二人を中に通した。
「……な~~んか見られてるっすね~~~」
「そりゃそうだろ。見たことない顔の奴で、制服じゃなくてがっつり装備を身に付けてるんだからよ」
あまり派手過ぎな物ではないが、それでも二人は道中でモンスターや盗賊が襲ってきても大丈夫な様に武器や防具を身に付けていた。
そんな二人が学園に入れば目立たない訳がなく……ついでにイシュドの後ろを付いてるとなれば、更に目立ってしまう。
だが、すれ違う者たちの中にそいつらは誰なのだと、イシュドに尋ねられる者はおらず、そのままここ最近毎日のように使用している特別訓練室へ到着。
「うぃ~~っす。たで~ま~~~~」
「あっ、おかえりなさっ!!!!!」
「「「「「「っっっっ!!!!」」」」」」
既に訓練を始めていたガルフたちは、イシュドたちが入ってくるなり、驚愕の表情を浮かべながらその場から飛び退き、構えた。
「……ジャレス、お前な~~~~。一応俺のダチとか同級生なんだぞ」
「いやぁ~~~、すんません。やっぱ、どれぐらい強いのか多少は知っておきたくて」
特別訓練室に入った瞬間、ジャレスはガルフたちに向けて本気の殺気を放った。
(確かに、イシュド様の言う通り最低限、自分の身は自分で守れそうって感じか)
悪くない。
そう感じたジャレスは殺気こそ零さないものの、時折イシュドが零す笑みと似た種類の笑みを零す。
「イシュド。その二人が例の護衛のお二人なのですわね」
「そういうこった。二人とも、軽く自己紹介してくれ」
「うっす。ジャレスだ! 得意な事は相手をぶっ潰すこと。よろしく!!!!」
「リベヌよ。得意な事は敵の殲滅。よろしくお願いね」
「「「「「「「…………」」」」」」」
ドン引きである。
全員、初めてイシュドと出会った時は大なり小なり衝撃を受け……中には引いた者もいた。
その時と同じか……もしくは同等以上に、ガルフたちは二人の自己紹介を受けて引いてしまった。
「ってなわけだ。依頼が終わるまで仲良くしてやってくれ」
「ちょ、待ちなさい!!! もう少し……もう少しこう、他にあるでしょう!!!!!」
引いた……確かに引いた。ドン引きである。
ただ、元々レグラ家の人間から護衛が来ることは聞いていたため、らしい自己紹介なのだろうと、なんとか飲み込むことが出来たミシェラ。
しかし、自己紹介と呼ぶにはあまりにも二人の情報が少なすぎる。
「あぁ、そうだな。ってなわけだから、ちょっくら二人と戦え」
「っ……そういう、自己紹介という訳ですのね」
「その方が手っ取り早いだろ」
どう手っ取り早いのかは解らないが、ミシェラたちも二人の実力は気になる。
「んじゃあ、そうだな……ガルフ、ダスティンパイセン、アドレアス。三人でジャレスと戦ってくれ」
「分かった」
「うむ」
「分かったよ」
三人とも、ジャレスという青年と三対一という状態で戦えと言われたことに対し、怒りが湧き上がることはなかった。
何故なら、先程殺気を向けられた際、確かに咄嗟に距離を取って構えた。
そこまでは良かったが……そこからどう戦えば良いのか、解らなかった。
(へぇ~~~? 思ってたより、素直に受け入れるんだな)
ジャレスは……雰囲気からガルフが自分と同じ平民であることを察し、彼が文句を言わなかったことに関しては驚かなかったが、残り二人……明らかに平民とは違う雰囲気を纏う二人までもが素直に一対三という人によっては屈辱感を感じる提案を受け入れたことに少なからず驚きを感じた。
「ジャレス、適当に体を動かしとくか?」
「いや、大丈夫っすよ。ここまで走って来てたんで」
お前らを相手に、わざわざ準備運動をする必要もない。
そうとも捉えられる言葉を受けても、三人の表情に怒りが浮かぶことはなく……それを見て、ジャレスは再び口端が吊り上がる。
「とりあえず三分間、戦い続けろ」
「了解っス!!」
「んじゃ、始め」
あっさりとした掛け声と共に、ジャレス対ガルフ、ダスティン、アドレアスの変則マッチが始まった。
「ふッ!!!!!」
「ぬぅうううあああああッ!!!!!!」
出し惜しみは不要。
ガルフは既に闘気を纏ってロングソードを振るい、ダスティンも魔力を纏い、強化系のスキルを発動した状態で渾身の突きを放った。
「うんうん、良いね良いね。やっぱ、男ならそうこなくっちゃな!!!!」
そんな二人の斬撃と突きを……ジャレスは全身に魔力を纏った状態ではあるものの、指で刃を掴んで受け止めた。




