第407話 逆に恐れる?
フラベルト学園に、一つの連絡が届いた。
その後、その連絡はバイロンに伝えられ、そのままイシュドに伝えられた。
「……次の授業で今日の授業は終わりっすけど、受けなくて良いんすか?」
「あぁ。こっちの方で免除にしておく」
「なら良いっすけど」
許可が出たため、イシュドは一人で学園から出て報告を受けた門へと向かう。
因みに……ガルフは同行していない。
見捨てられた、なんてことはなく、ただ単純に短時間程度であれば、自分と離れていても問題無いとイシュドが判断しただけ。
ここ最近のガルフはフィリップ……といった公爵家の令息ではあるが、あまり貴族らしくなくだらしないところもあり、そこまで影響力を持っていない令息だけではなく、その他の面子も仲が良い。
代表的なのはミシェラ。
普段から共に訓練する中であり、ときおり交流のある令嬢たちとお茶会をする際、そういった話になると……ミシェラはガルフに高い評価を付けている事を、一切隠さない。
令嬢もお茶会での会話を全て他の者に話すことはないが、あのミシェラも褒めていたと……少々興奮気味に話すこともある。
侯爵家の令嬢が評価している……これだけでも、もうガルフが普通の令息ではないことが解る。
それに加えて、ある令息が……アドレアスにある事を尋ねた。
あなたにとって、あの平民の学生はどんな存在なのかと。
帰って来た答えは「友達だよ」と、簡潔で……それでいで、多くの貴族の子供たちからすれば、驚愕を禁じ得ない返答だった。
貴族の子供と平民の子供というだけでも、立場に大きな差がある。
にもかかわらず、王族の子……王子であるアドレアスが、平民の子であるガルフを友人だと認めている。
そうなってくると、もう色々と話が変わってくる。
それだけではなく、もう後一か月も経てば学園を卒業し、騎士団に入団するクリスティールは、ガルフのことを可愛くて大切な後輩だと、同級生に話していた。
そして……フラベルト学園の生徒ではないが、他学園に在籍しているディムナ・カイスとダスティン・ワビルといった有名人とも仲が良いという噂が広まっている。
今のガルフにちょっかいをかければどうなるか……少なくとも、問答無用でイシュドの鉄拳が飛んでくるだけでは済まない。
貴族の中でも、まともな思考を持っているものであれば、入学……進級時とは逆に、ガルフに対して恐れを感じるようになっていた。
(この感じ……本当にもう着いたんだな)
報告された門の場所に到着すると、そこには若い青年と女性がいた。
「よぅ、ジャレス。リベヌ」
「イシュド様!!!!」
「お久しぶりです、イシュド様」
イシュドから声を掛けられ、ジャレスという歳若い男とリベヌという歳若い女が小走りで駆け寄る。
「二人とも、随分早かったな」
「そりゃもう、イシュド様から直々に依頼となっちゃあ、移動する脚も早くなるってもんですよ! なぁ、リベヌ」
「えぇ、そうですね」
二人は馬車で王都まで移動して来たのではなく、己の脚で……走って走って王都にやって来た。
走って移動した方が早いからという理由で、本当に馬車を使わず王都まで移動した。
これは、二人の頭のネジが外れている、ぶっ飛んだおバカ……というわけではなく、レグラ家に所属している戦闘職の者としては、割と当たり前の行動理由であった。
因みに、イシュドは直接二人を指名したのではなく、イシュドが求める前衛……後衛として共に行動するために、多くの若者たちが戦った。
その戦いっぷりはもう、本気も本気。
普段行っている訓練やモンスター戦よりも気合が入っており、訓練場で同行する者を決める為の試合を行うのだが……当主であるアルバや、妻であるヴァレリアが直ぐにただの試合で済む筈がないと察知。
結果、多数の激しい激闘が特別訓練場で行われる事となった。
「……一応聞いておくけど、誰も死んでないよな?」
「勿論ですよ!!!!」
「私たちも、そこまでバカではありません」
イシュドが大金をはたいて超一流の錬金術師たちに造ってもらった訓練場では、結界の外に出れば大抵の傷が癒える。
その為、腕や脚が斬り飛ばされた程度では死の切っ掛けにならない。
(……まっ、嘘付く奴らでもねぇし、疑っても仕方ねぇか)
実際のところ、ジャレスとリベヌは嘘を付いていない。
ただ…………激しい激しい……激し過ぎる試合を行う中で、死ぬ散歩手前までいってしまう者は、割といた。
その話をイシュドが聞けば「アホかお前らは」と、本当に呆れた顔でツッコむ。
だが、彼ら彼女たちからすれば、イシュドと普段行動している場所とは違う場所で
共に行動し、戦うことが出来る。
そこが、あの紅鱗の地ともなれば、是が非でも共に行きたい!!!!!!!
そうした結果、レグラ家でニ十歳以下のレグラ家一天下激闘会が開かれた。
「ところでイシュド様。現在の時刻だと、まだ学園の授業があったのではないでしょうか」
「あぁ、あったよ。けど、お前らが来たって学園の方に連絡が来て、そっから担任の先生に授業を免除するから迎えに行ってこいって言われたんだよ」
「なるほど、そういう事でしたか。しかし、どうしてそういった選択を取ったのでしょうか」
「お前らが街中で暴れたら、色々とぶっ壊れるからじゃねぇの?」
二人とも、レグラ家の血筋は入っていない。
ただ、レグラ家に所属している戦士と魔術師であるのは間違いない。
ジャレスとリベヌも王都に来るのは初めてであり、それなりに王都の活気や街並みに目を奪われる。
となれば、お上りさんであろうと断定した愚か者たちがバカ絡みをする可能性は、決して否定出来ない。
「いやいや、そんなイシュド様に迷惑を掛けるようなことしませんって~~」
「ジャレスの言う通り、そんな真似はしませんわ」
「んじゃあ、面倒な連中がバカみたいな事で絡んできたらどうするんだ」
イシュドの問いに対し、二人は迷わず答えた。
「とりあえず腕をぶった切りますかね」
「腕よりも脚よ。足をねじ切った方が、馬鹿なことをしたと絶望感を与えられるわ」
「おっ! なるほど~~~、良いね良いね。んじゃ、俺もそうしよう!!」
「……」
異常な狂戦士は、真っ当な狂戦士? たちに対して呆れの視線を向けながらも、ひとまずそのまま学園に向かい始めた。




