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転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。  作者: Gai


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第405話 今の現在地

「っ! ッ!!! フッ!!! 疾ッ!!!!!」


現在……時刻は六時。


まだ起床せずとも、朝食の時間……授業の時間には十分間に合う。

しかし、そんな時間にもかかわらず、一人の少女が特別訓練室でひたすらに剣を振るい、時折脚に風を纏い、加速しながら動いていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「少し、やり過ぎではないでしょうか」


「っ、イブキ、さん……いつから、そこに?」


「たった今来たところです」


既に多くの汗を流しているミシェラに、タオルを渡すイブキ。


「ここ最近、どうしたのですか?」


普段からイシュドたちは授業が終わった後から夕食まで。

そして夕食後の夜訓練を行っていた。


だが、ここ最近になって、ミシェラは一人で早朝の訓練を始めていた。


「…………」


「私で良ければ、相談に乗りますが」


「……ありがとう、ございますわ。ただ、何かを悩んでいるという訳ではありませんわ」


「そうなんですか?」


「えぇ…………ただ、足手纏いにならないように、少しでもと思いまして」


あまり、自分からそのような事は言いたくない。


ミシェラは……間違いなく、貴族の令息や令嬢の中でエリートである。

将来戦闘職を目指す者たちの中で、上位に入る存在。


それは本当に間違いない事実である。

ただ……普段からイシュドと共に行動している面子の中では、一人だけレベルが頭一つ下、という訳ではない。

役立たずではなく、美味しいところだけ汁を吸おうとする下衆でもない。


しっかりと戦闘に参加し、確かな活躍をしている。

それでも……ミシェラ自身から視て、今の自分はイシュドを除く面々の中で、確かな戦力になれているとは言えなかった。


「誰も、ミシェラさんを足手纏いだとは思っておらず、優しさでそう思っている訳でもありません」


「……そう言ってもらえるのは、嬉しいですわ。それでも……足りませんの」


ガルフには、闘気がある。

イシュドとの訓練、実戦を初めて約一年がたち、全体的な戦闘技術も身に付いてきた。


フィリップは……以前、イシュドが注文したように、圧倒的な中衛を担える総合力と対応力を身に付けてた。


イブキは侍……刀の扱いに優れた職業に就いているが、武芸百般らしく槍や弓の扱いも行え、何より必殺の一撃……刀技、居合・三日月という強力な技を有している。


アドレアスは元から高い戦闘力を有していたものの、ここ最近……突きの鋭さに更に磨きが掛かっていた。

王道の活躍だけではなく、絶対に勝つ為に裏からの戦いをも行えるようになり、尚且つ突風を纏った渾身の螺旋突きは現時点で一般的なBランクモンスターに通じるほどの威力を有している。


四人とも、それぞれ自分だけの強味を有している。


では……今の自分の強味はなんなのか。

そう自問自答した際、明確な答えが出せない。


「私には……私だけの、強さがない」


そんな事はないと、周りは言う。

そこに関してはあのフィリップですら茶化し、バカにすることはなく、自分たちから視たミシェラの強さを語る。


双剣の技量、手数の多さにトップスピードに乗った時の速さ。

ここ最近ではイシュドからのアドバイスが徐々に実を結び始めたのか、体力に関しては徐々にミシェラがガルフたちを引き離し始めていた。


この様に、明確にミシェラの強味というのは存在する。


だが、それはあくまでガルフやフィリップたちからの評価。

ミシェラは……その強味が、彼らたちとの強味とな選べられるとは、思っていない。


「私は、先日イシュドが依頼に関して話した際、賛成する意を示しましたが、フィリップが言っていた危険がある事も理解していました……ただ、それを再度考えた時、思ったのです。どういった理由であれ、紅鱗の地でイレギュラーが起きた際、私は彼の足を引っ張らずに済むのかと」


仮定の話ではあるが、イシュドやガルフを狙う輩がいなかったとしても、単純に未開の地が引き起こすイレギュラーに遭遇してしまう可能性がある。


カラティール神聖国に向かった際、邪剣という武器を持ったギガンテスの希少種がイシュドたちが探索していた範囲に近い場所にいたのは、確かに人為的なイレギュラー。


しかし、ゴブリンキングとブランネスウルフの群れに、ゴブリンクイーンというBランクモンスターまでいたのは、人の手が介入していない自然のイレギュラーである。


「今回の機会を逃せば、成長の機会を逃すことになる。だから、あの時依頼を受けることに賛成したことに、後悔はしてませんけれど……その事を優先し過ぎるあまり、もしもの際に足手纏いになる可能性を考えられていなかった」


現時点で、ミシェラもイシュドが実家から護衛として二人の実力者を呼ぶことは知っている。


ただ、本当に強くなりたいのであれば、彼らがいるから大丈夫だろうと……イレギュラーが起きても問題無いだろうと思って楽観視していれば……憧れには一生手が届かず、目的を達成することも……未来永劫、叶うことはない。


「場所が場所ですわ。イシュドの判断で、撤退することもあるでしょう。その際……守られなければ逃げられないでは、話しになりませんわ」


己自身は撤退という選択肢を選ばなければならなかったとしても、自分自身の力で……せめて、イシュドや護衛者の手を借りず撤退を成功させなければならない。


それが、己の現在地を確認した、ミシェラの絶対に目標であった。


「…………分かりました。それでも、訓練を行うのであれば、一人より二人の方が出来ることも多いです。次からは、共に訓練を行いましょう」


「よろしいのですか?」


「良いに決まってるじゃないですか。ただ、友人と共に訓練を行うだけなのですから」


ミシェラの想いや覚悟は伝わった。

下手に、そうではないと、そこまで自分を卑下する必要はないとは言えない。


だが……そういった理由で訓練時間を増やすなら、是非とも誘って欲しかった。

理由は言葉にした通り、友人だから……ただそれだけである。


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