第403話 妬ける
「疾ッ!!!!」
「っ、くっ!! はッ!!!!!!」
せっかくフラベルト学園に来たということで、今日の訓練にディムナとダスティンも加わって行うことにした。
イシュドとしても、久しぶりに二人の実力を見ておきたかったが……心配は、無用だった。
(ちゃんと、二人ともサボらず鍛え続けてたみてぇだな…………悪くねぇ。んで、相変わらずディムナの奴は光るもんを持ってんな)
ダスティンは現在ミシェラと模擬戦を行っており、ディムナはガルフと行っている。
全員、模擬戦であるとは解っているが、それでも熱が入っている。
常日頃からイシュドと共に訓練を行っており、ここ最近ではカラティール神聖国のアンジェーロ学園へと向かい、イシュドを除けば同世代の中で一番の怪物と言っても過言ではない存在と出会い、更に刺激を受けて成長を重ねていた……そんなガルフを相手に、ディムナは一歩も劣らず冷静に攻めて回避を繰り返していた。
確かに、ディムナだけではなく多くの学生にとって、ガルフの闘気は非常に恐ろしい武器である。
だが……ディムナの光を纏った光剣も決して油断ならない強力な武器。
(戦闘技術に関しちゃぁ……フィリップの方がセンスは上だが、剣や攻めの技術に関しちゃぁ、ディムナの方が上だな)
どのタイミングで攻めるのが最善か、どのタイミングで回避を選ぶのが最善なのか……ディムナはガルムとの戦いの中で、ほぼ最善を選択し続けた。
だが、だからといって一方的にやられるガルフではなく、攻めの技術に関しては上回られているが、反撃のセンスに関してはガルフは僅かに上回っていた。
壊せなければ、防御という手段を取らざるを得ないが……闘気を纏ったガルフのパワーは、決してヒョロくはないディムナの防御力を上から叩き潰す。
両者、共に白熱したバトルを続けるが……五分が経過し、タイムアップ。
決着が着くことはなく、ドローという結果になった。
「…………以前よりも、強くなっているな」
「それは……毎日、訓練してる、ので」
ガルムからすれば、戦いとなれば遠慮することはないものの、まだ……ややディムナに対して苦手意識を持っているため、エリヴェラやアドレアスに対してよりも態度が固い。
「……交流会という名目で、カラティール神聖国のアンジェーロ学園へ向かったと聞いた」
「っ!!!」
何故それを知ってるのかと、驚いた表情を浮かべてフィリップやミシェラの方に顔を向けるも、「そりゃ知ってて当然だよ」といった顔で返されてしまう。
「エリヴェラ・ロランド、という男はどうだった」
「…………強かったです。職業が聖騎士だからとか、そういう事は関係無く……ただただ強く、本当に驚かされました」
エリヴェラとの戦闘中、イシュドはバーサーカーソウルを発動した状態でランク六の聖剣から剣技、裂空を発動した。
同じ剣士が放つ裂空とは訳が違う攻撃力、切断力を持つ裂空に対し……エリヴェラは逃げるという選択肢を取らなかった。
例え怪我をしたとしても治せるから無茶をしても構わない……そんな雑な理由で真っ向から対応出来たわけではない。
ただ……下手したら死ぬんじゃないかと思わせる強烈な攻撃に対し、エリヴェラは正真正銘……勇気とプライドを燃え上がらせ、真っ向から対応した。
それは、職業やレベル云々以前の強さだと、ガルフは思い知らされた。
「俺や、お前よりもか」
「……………………はい。僕や、あなたよりもです」
不敬だと思われるかもしれない。
それでも、ガルフはディムナから眼を逸らさず、自分の感想を伝えた。
「そうか………………世界は、広いということだな」
無知ではないディムナ、二次職で聖騎士という職に就く時点でその人物がどれだけ普通ではないかを理解していた。
だが、ガルムの話を聞き、エリヴェラという男が際だけで成り上がったのではないのだと、直ぐに察した。
(とはいえ……あまり、良い気はしないがな)
最初こそ、平民であるガルフを見下していたディムナ。
だが、その平民にダブルノックアウトにまで持ち込まれてしまい、考え方に少しずつ変化が訪れていた。
その切っ掛けとなった平民、ガルフをディムナは気に入っていた。
ガルフがそれほどまでの実力者に至る切っ掛けになったイシュドを意識し、日頃の訓練に取り組んでいる……これに関しては、構わない。
だが、それ以外の人物に興味を指名し、意識しているのは……ディムナにとっては、やや気に食わない状態。
(……フラベルト学園と交流会を行ったのであれば、フラベルト学園とも交流会を行えないだろうか……おそらくフラベルト学園との交流はアンジェーロ学園側が望んだのであろうが、それならばそれでこちら側としても申し込みやすい筈だ)
ガルフから話を聞き、是非……是非とも、エリヴェラ・ロランドという男と戦りたくなったディムナ。
私的にカラティール神聖国に、アンジェーロ学園まで行ってエリヴェラと戦うのは難しいため、フラベルト学園と同じく交流会という名目で向かえば……決して無理ではない。
アンジェーロ学園側が受けるメリットがないと判断したとしても、過去にフラベルト学園に申し込んだ事実があるため……そこを突かれると、アンジェーロ学園としては痛い。
「………………」
ディムナがエリヴェラに対する対抗心を燃やしている中、先輩であるダスティンはある事を悩んでいた。
「なに小難しい顔して悩んでるんすか、ダスティンパイセン」
「フィリップ……いや、先程貰った白金貨だが、実は最近気になる得物を見つけてな」
「へぇ~~~。それって、属性が付与された槍っすか」
「あぁ、そうだ。とはいえ、ポーションなどではなくそういった買い物に使うのは如何なものかと思ってな」
属性を持つモンスターであれば、それに反する属性が弱点になることが多い。
その為、挑む人間としては自身が操れる属性魔力以外の属性が付与された武器があっても一切の損はない。
「相変わらず頭固いっすね~~。それなら、イシュドに聞いてみれば良いじゃないっすか。学園長から金を貰ったのはイシュドなわけだし」
「……そうだな。とりあえず、彼に聞くべきだな」
フィリップの言う通りイシュドに相談すると、なんで一々そんな事を俺に聞くんだ? という顔をされながら、あっさりとオーケーが出された。
武器に頼るのは三流だが、武器に拘らないのもまた三流。
そのため、イシュドは白金貨を属性が付与された武器を買う資金にするのに、大いに賛成であった。




