第402話 争奪戦?
「……ってぐらいは許してほしいんすけど、良いっすかね」
「あぁ、勿論だとも」
現在、イシュドの眼の前にいる人物は……担任のバイロンではなく、フラベルト学園の学園長だった。
現在の学園長にはあまり学園長としての威厳はなく、胃痛に悩まされる苦労人といった言葉が相応しかった。
「随分あっさりと許してくれるんすね。こっちとしては、その方が嬉しいっすけど」
「バイロン先生と同じく、私も君たちに無茶な事を頼もうとしている自覚はある。であれば、それぐらいの許可は出さなければ、認めさせなければならない」
「……そうっすか。んじゃ、まだ返事が返ってきてないんで、紅鱗の地へ向かう日にちはこっちで調整させてもらうっすよ」
「うむ…………イシュド君、これを渡そう」
学園長は普段から身に付けているアイテムリングの中から……十枚以上の白金貨を取り出した。
「それを行うのであれば、やはり必要だろう」
「……必要っちゃ必要っすけど、こんなに貰っちゃっても良いんすか?」
「あぁ。これでも、私はあまり大金を使わない方だから問題無い。余ったお金はポーションは使い捨ての道具の購入費として使ってくれて構わない」
「んじゃ、有難く使わせてもらうっすね」
十枚以上の白金貨を受け取り、イシュドは意気揚々と学園長室から出て行った。
「てなわけで、頼む金に関しちゃあ、俺らの懐から出す必要はなくなった」
放課後……事前にディムナとダスティンも呼んでおり、現在特別訓練場にはイシュドも入れて計八人いた。
「……い、イシュド。あなた……学園長から、か、カツアゲしたんじゃないでしょうね」
「バ~カ。金寄越せなんて一言も行ってねぇよ。学園長が勝手に好きに使ってくれって渡してくれたんだよ」
イシュドたちに対し、学生が受けるには……イシュドやガルフが受けるには、あまりにも危険が多いと推測される依頼を受けることを考えれば、資金援助するのはそこまで珍しい行動ではないかもしれない。
ただ、白金貨十数枚というのは、一個人がサラッと出せる金額ではない。
「…………」
「そんなに疑うんだったら、デカパイの分は自分が出せよ」
「っ、それはズルいですわ!!!」
「だったら一々変な妄想を爆発させんなっての」
被害妄想だ!!! と言いたくなるイシュドの気持ちも……解らなくはないものの、全体的に不良感が強いイシュドだからこそ、フィリップたちはミシェラが学園長からカツアゲしたのではないかと疑いたくなる気持ちも解らなくはなかった。
「イシュド、呼ぶ者たちへの金額はどれぐらいにするのだ」
「言っちまえば、護衛だからな。俺が前に冒険者と呑んでた時に聞いたんだが、パーティー単位で白金貨一枚でも貰えたら、割と破格の額っぽくてよ。だから、二枚から四枚もありゃ十分だな」
「そうか……であれば、残りの約十枚はどうする」
今でも、ディムナはイシュドの事を自分よりも強い人間だと、戦士だと認めているため、リーダーの方針には一同従おうと考えている。
だが、折角有意義に使える金に関しては、一応使い道を聞いておきたかった。
「ポーションとかに関しちゃあ、俺は上等なもんを持ってる。だから、残りはお前らで使え。とりあえず多量に普通のポーションとマジックポーションを買っても良いし、切断された腕や脚を生やせるぐらい上等なポーションを数本買うのもありだ。なんなら、切り札に強化系のポーションも一つの選択肢だな」
「…………そうか」
まともである……非常に、まともな提案である。
ディムナはイシュドの事を超超超非常識人間だとは思っていないものの、思考回路が自分たちとはやや違うと思っており、あまりにもまともな事言うのである意味少々驚いた。
「とりまえ、一枚ずつ渡しとくぜ」
そう言うと、イシュドはディムナたちに一枚ずつ指で弾きながら白金貨を渡した。
「は、白金貨…………」
一応、一応ではあるがガルフも白金貨を見たことはあった。
だが、自由に使える白金貨というのは初めてであり、ワクワク感よりも大金を持ってしまった緊張感の方が大きかった。
「足りねぇってなったら、俺に言え。残ってるのを渡すからよ」
「……分かりましたわ。それで、出発はいつ頃になりそうですの」
「さぁな。、まだ手紙を送ったばっかだから、後四日か五日は掛かるんじゃねぇの?」
イシュドが学園長に提案した内容は、自分たちで金を出して護衛と呼べる存在を雇うこと。
しっかりと、過剰戦力にならないように年齢はニ十歳以下の者を選ぶという条件も提示した。
ニ十歳以下の年齢で、紅鱗の地に生息する猛獣たちと渡り合える者たちがいるのか……ミシェラたちの中でパッと思い浮かぶのはクリスティールとステラ、レオナの三人であった。
だが……よくよく思い出せば、その三人以外にも当てはまる人物がいた。
それも数名ではなく……大勢。
「するっと決まらないものなのか?」
「さぁ……どうだろなぁ。するっと決まれば、そりゃ良いんだろうけど……個人的に、あんまりするっと思えねぇんだよな」
ダスティンの疑問に、イシュドは少し苦笑いを浮かべながら答えた。
イシュドが頼ったのは……実家であるレグラ家。
レグラ家に在籍する二十歳以下の面々から二人、護衛として依頼を出すことにした。
では、何故するっと決まらないのか。
イシュドは自身で語るのは恥ずかしいものの、自分が同世代の者たちからそれなりに慕われている自覚があった。
加えて、紅鱗の地に関してはイシュドだけではなく、他の狂戦士たちもそれなりに気になっていた。
そのため、参加したいと申し出る者が多い……という予想は、見事的中していた。
イシュドが求めるメンバーは、前衛一人と後衛一人。
その為、現在レグラ家では例の特別訓練場を使い、自分こそがイシュドたちの護衛として紅鱗の地へ向かう、暴れる!!!!!!!!! と息巻く者たちが本気で戦っていたのだった。




