第401話 そこで無理ならば
「…………私としては、遅かれ早かれ、といったところだと思う」
「つまり、賛成ってことか」
「うん、そうだね」
ミシェラと同じく、紅鱗の地の調査に向かうことに、酸性の一票を入れたアドレアス。
「はぁ~~~~。アドレアス、お前ってそんな死にたがりな奴だったか?」
当然、フィリップからは苦言が入る。
アドレアスとしても、自身の答えに対してそう思う部分は……確かにある。
少しらしくないかなと思いつつも、それがアドレアスの出した答えであった。
「そう思われるのも、仕方ないと思う。ただ、紅鱗の地に関しては今回のように行く機会がなければ、次いつ行けるか解らないと思ってね」
ピクニック感覚、軽い探索感覚で行くような場所ではないという事は重々承知している。
とはいえ、今回の機会を逃せば行く機会がこの先ないかもしれないというのは正しかった。
アドレアスは……まだ、この先の明確な進路を決めていない。
だが、一つだけ決まっていることがある。
冒険者という職業は、選ぶことが出来ない。
王の一族として生まれ、それに相応しい才を有していた。
となれば、国を頂点に立つ一族の者として、民たちの力を使うのが道理。
そして、正式に騎士という道を進めば……騎士であれど王族という立場上、紅鱗の地に向かって調査を行うことなどが出来ない。
決して道がない訳ではないが……その道を選んだとしても、アドレアスが本来進みたい道に進めなくなってしまう。
だからこそ、今回のこの調査依頼に関しては、正直なところ渡りに船といった感覚であった。
「……そんなに冒険心豊富だったっけ?」
「人並にある方だとは思うよ。だから、次の夏に大和へ行くのも本当に楽しみにしてるよ」
イシュドから次の夏の話を聞き、アドレアスは当然の様に自分も向かうと即決。
その日の内に父親である現国王へ手紙を送った。
さすがに第五とはいえ、アドレアスも王子であるため、他国に渡ることに関して周囲の許可を得ず向かえば……誰頭に監督責任が発生してしまう。
そして、現国王はあのイシュドが共にいるならばと、同行の許可を出した。
「これで賛成二票に、反対二票……ガルフ、お前はどうだ」
「………………フィリップには悪いけど、僕はこの依頼を受けるべきだと思う」
「ガルフ…………仮に、今回お前を狙ってる連中がいたとして、今回の調査を乗り越えたら、そいつらにいくら狙っても無駄だって思わせられる。って考えてんのか」
ただ、強くなりたいという理由で、紅鱗の地を調査することに賛成した訳ではない。
そんなガルフの考えを、フィリップは友人の顔を見ただけで把握した。
「……フィリップって、もしかして心の中が見えるの?」
「そんなんじゃないっての。ただ、なんとなく……そんな事を考えてんだろうなって思えてな……はぁ~~~~~~~~~~~~」
大きな大きな、それはもう特大のため息を吐いたフィリップ。
相変わらず、今回の依頼を受けることは反対である。
ただ……友人の考えも、解らなくない。
それを理解しているからこその、盛大な溜息であった。
(そうだな……まぁ、割と的を得てはいるだろうな。ダンジョンと同じぐらい、誰かを狙うってことに関しちゃぁ、紅鱗の地はもってこいの場所だろう。そんな場所で狙われたとしても生き残れば……とりあえず大半の馬鹿共は諦めるか)
それは希望的観測なのではないか。
というツッコミも入るかもしれないが、実際のところ……なるべく証拠が残らないようにガルフかイシュドを消すのであれば、紅鱗の地は非常に適した場所であった。
「…………解ったよ、行くよ」
「フィリップ、本当に良いのか?」
「一応多数決じゃ負けたわけだしな」
多数決で負けた。
それはそうだが、最終的にフィリップがガルフたちと共に紅鱗の地の調査依頼を受けると決めた理由は、それではなかった。
(俺だけ行かなくて、その間に離されてもなぁ…………はぁ~~~~~。一番らしくねぇのは俺か)
ここで共にいかなければ、これからもガルフたちと対等な友人として接せなくなるかもしれない。
決して、そんなことはない。
仮にフィリップが一人だけ次の依頼に来なかったとしても、ガルフたちはこれまで通りフィリップに対して学友として、友人として接する。
それらはフィリップの勝手な思い込みではあるが……それでも、フィリップ自身が……その過酷な依頼から逃げても、彼らと対等な友人でいられるとは思えない。
「そうかよ……んじゃあ、後でバイロン先生に伝えとく。つっても……こっちはこっちで、多少の対策は用意させてもらうけどな」
「対策って、どんな対策だ?」
「場所が場所だからな~~~~……歳は、二十以下が妥当か」
「「「「「?」」」」」
全員、イシュドが何を考えてるのか解らなかった……が、数秒後にアドレアスとフィリップが気付いた。
「あぁ~~、はいはい、なるほどね……つっても、二十以下だと……いや、あれか。別に冒険者じゃなくても良いってことを考えれば」
「うん、そうだね。その理屈で行けば……イシュドの例を考えると、十分な戦力を用意出来そうだね」
「……二人共、イシュドが何を考えてるのか解りましたの?」
「ちょっと考えれば解るだろ。てか、ミシェラは解れよ」
イラっと、カチンときたものの……ミシェラは解れよと、イブキとガルフの名前を出さなかったことを深く考え……約十秒後、ようやくミシェラもその同じ考えに至った。
「っ、そういうことですのね。いや、でも……それは、ありですの?」
「別にあれだろ。場所が場所なんだし、学生が自分の金を使えば、文句はねぇだろ」
「………………そうですわね」
憧れのクリスティールに追い付くならばと息巻いていたミシェラだが、それはそれとして向かうと決めた地がどれほど過酷な地なのか、知らない訳ではない。
「ですが、それをすれば面倒な方々から苦言が飛んでこないでしょうか」
「だったらてめぇがその地でばかデケぇ戦果を上げやがれって唾を吐くだけに決まってんだろ」
イシュドの眼がギラリと光るのを見て、ミシェラは彼のもう一つの真意を読み取った。
文句があるなら、てめぇの力で物理的に俺を納得させてみろよ!!!!!
まだ一年も付き合いが経っていないが、嬉々とした表情を浮かべながらそんな言葉を口にするイシュドの姿が容易に想像出来てしまった。




