第398話 口を出す?
「私もメイセルさんと同じことを思っていました。少し飛躍しますが、カラティール神聖国側からスカウトされてもおかしくないとも、考えていました」
カラティール神聖国の女性からモテモテなのではないかという内容以外にも、フルーラは貴重な戦力としてガルフがスカウトされるのでは? とも考えていた。
「……あり得ないとは、言えないでしょう。ですが二人共、ガルフの傍にはあのイシュドがいますのよ」
「あぁ~~~、全然話したことはないけど、激闘祭の後のパーティーチラッと見た感じ、誰であっても超喧嘩上等みたいな性格してたわね」
「間違ってはいませんわね。それもあって、そもそも交流会に参加していた学生意外とは関わらなかったの」
「…………なるほど。非常に理解出来る判断ですね」
フルーラの勝手なイメージだが、そもそも信仰心を持つ者とイシュドは相性が悪い。
そして……イシュドは全く神の存在など信じておらず、神を信じて祈るという行為をバカにしそうだと思っていた。
実際のところ、意外にもイシュドは神という存在がいてもおかしくないと考えている。
ただ……神に祈るだけで、自分は偉いと錯覚している者、神をバカにする者には……自分を侮辱する者には天罰が下ると本気で思っている者に対して、本気で爆笑しながらこれでもかとバカにする。
「ってことは、ガルフは別に爆モテはしなかったんだ」
「そうですね。参加者の中に女子生徒はいましたが、特にガルフに対してそういった反応は示していませんでしたわ」
「ふ~~~~~ん…………」
意味ありげな態度を取るメイセルを見て、勘の鋭いフルーラは直ぐにメイセルが考えている事を察した。
「メイセルさん、あなたもしかして……ガルフさんに気があるのですか?」
「気っていうか……ん~~~~、良く解んないんだよね」
「異性として好意を抱いているわけではないと」
「なんて言うかさ、久しぶりにこう……こいつは、そこら辺の男とは違うって感じてさ」
貴族の令息は良くも悪くも似たより寄ったりなところがある。
メイセル自身、騎士を目指す者たちの中では男女関係無く上位に入る実力を持っていることもあって、大半の令息たちが有象無象に見えてしまう。
だが、自分を激闘祭で倒した平民の男は……違った。
「それに関しては同感ですわね」
ミシェラから見ても、ガルフはそこら辺の男達と比べて違っていた。
(ただ強いというだけではなく、あのノット紳士たちとは比べ物にならないほど礼儀もありますし)
物凄く私情が入っているものの、ミシェラにとって礼儀正しい令息と比べても……平民でありながら礼儀正しいガルフの方が、どこか好印象が持てる。
「でしょう。だから、ちょっとそこら辺気になってたんだよね~~」
「男性として気になる存在ではあるものの、異性としての好意には至ってないと、そういうことですね」
「まぁ……そんな感じなのかな。んで、向こうで爆モテとかしてたなら、とりあえず本当の感情がどうこうとか気にせず、とりあえずアタックしといた方が良いのかもって思って」
「大胆というか、考え無しと言いますか……ですが、メイセルらしくはありますわね」
「でしょ。けどさ、今思ったんだけど、今後ガルフに女性が近づけば、イシュドのチャックとかが入んの?」
友人に近づく女をチェックする。
それは友人とはいえ如何なものなのかと……と思う者は、この場にはいなかった。
何故なら、令嬢たちは友人を本当に友人だと思っているからこそ、相手の家柄や人柄、実力などを気にする事が多い。
「……どうかしら。今のところ、見てる限りではイシュドはあまりガルフのそういった点や、進路に関しても口を出してないように思えますわ」
「へぇ~~~、それはなんか意外ね。既にうちにこいよって言ってるのかもって思ってた」
ミシェラが語る通り、イシュドはガルフの進路に関して大して口を出していない。
本音を語るのであれば、自分のところに来てくれれば良いと思っている。
だが、本当に友人だと……親友だと思っているからこそ、ガルフの人生を自分の思いや言葉で縛りたくなかった。
「けれど、勝手な予想ですけど、近寄って来る女性の一人にガルフが興味を示したとしても……その女性がガルフの足を引っ張る存在になるか否かは、見定めるかもしれませんわね」
イシュドにとって、ガルフは友人であると同時に、将来戦ってみたい相手の一人。
ガルフに恋人ができ、その女性と結婚して幸せになることは……イシュドとしても望ましい未来である。
だが……その女性のせいでガルフが強くなる道が塞がれ、不必要な争いに巻き込まれ、命を狙われる可能性などがあれば……口を出す可能性はあり得る。
「なるほど……という事は、最低限の強さが必要ということでしょうか?」
「どうかしら………………弱くても、その方が自分は弱いのだからガルフに守られて同然と思っているのであれば口を出しそうだけど……弱いのであれば、自分でどう解決しようかと模索して行動に移す方であれば、強くなくとも問題無いと私は思いますわ」
ガルフに近寄る女性、恋仲になるかもしれない女性に関して、ミシェラは本当にイシュドから話を聞いたことがなく、これらは全てミシェラの憶測。
にもかかわらず、ミシェラは随分と細かく考え、語っていた。
「ふふ」
「? どうかしましたの」
「いえ。ミシェラさんは、随分とイシュドさんの事を知ってるのだと思いまして」
「……それは、つまりどういう事ですの」
ハッキリと言え。
そう言わんばかりに皺を寄せ始めるミシェラを見て、フルーラは楽し気な笑みを零しながら答えた。
「メイセルさんと同じく、ミシェラさんもイシュドさんに対して気があるのではないかと思いまして」
要望通り、ハッキリと口にして伝えたフルーラ。
次の瞬間、別のテーブルでお茶会をしていた客のティーカップにヒビが入った。
「フルーラ……それは、天地ひっくり返ろうと、スライムがドラゴンに進化してもあり得ませんわ」
いつか絶対にぶった斬る。
ミシェラにとってイシュドとはそういう存在であり、他に例えを上げるなら……精々、学友といった程度。
それ以上の存在になることはないと、二人の前で断言するのだった。




