第397話 一番の良体験
「こうして共にお茶を飲むのも久しぶりですね」
「えぇ、そうですわね」
カラティール神聖国から戻って来た現在、ミシェラは激闘祭で対峙したライザード学園の魔法使い、フルーラ・ストーレとガルフが二回戦目で対峙した同じくライザード学園の拳士、メイセル・ファストとお茶会をしていた。
「はぁ~~~~~」
「どうしましたの、メイセル。そんなに大きな溜息をついて」
「ミシェラはあれでしょ。もう自分たちだけで依頼を受けられるようになったんでしょ」
「……えぇ、一応そうですわね」
「うちはまだ二年生か三年生と同行するならって条件付きでさ~~~」
メイセルだけではなく、フルーラも上級生と同行するという条件付きであれば、依頼に参加することを許可されていた。
その状況に不満を垂れるメイセルだが、一年生が条件付きとはいえ依頼に参加出来るということは、それだけ学園から評価されていることになる。
良い環境だと感謝こそすれ、不満を垂れる状況ではない……と思うのが普通だが、今回に関しては周りの状況が状況であった。
「ミシェラはまだ知らないけど、この間ディムナの奴が完全に許可を貰ったんだよ」
「っ……彼なら、納得出来ますわね」
高等部の一年に進学してから、それまでの自分と比べて大幅に成長出来た自覚はある。
しかし、高等部に上がる前から、ディムナという男は自分よりも上の実力を持つ強者だと彼のことを認めていたミシェラ。
学園が違うため、時おりイシュドからアドバイスを貰える環境などにはいない。
それでも……ミシェラは今の自分なら絶対にディムナに勝てるとは思えない。
だからこそ、メイセルからディムナが一年生ながら依頼を受けられるようになったと聞いても、さほど驚くことはなかった。
「とはいえ、もう直ぐ私たちも二年生です。そうなれば、上級生と組まなければとい枷は外れます」
「それはそうなんだけどさ~~~~……あれじゃん。ミシェラたちは良い経験してるんでしょ」
「そういえば、ここ最近はカラティール神聖国の方に滞在していたらしいですね」
既にアンジェーロ学園と関わっていたことに関してはバレているため、その件に関しては特にかくすことなく、その通りだと頷いた。
「良い経験をしたという事に関しては、否定しませんわ」
ゴブリンライダーという、決してたかがゴブリンと侮れない存在と遭遇し、戦うことが出来た。
ブランネスウルフというBランクの闇狼と戦い、今度こそあの時の四人と共に強敵を討伐することが出来た。
本当に良い経験を得ることが出来た……だが、ミシェラの中で最も自身の為になった経験はそれらではなく、傑物……エリヴェラ・ロランドとの出会いであった。
貴族の子供たちの中でも、ミシェラは間違いなくエリートに分類される。
それでも、真の強者ではなかった。
それを改めて思い知らしてくれたのが、エリヴェラであった。
「カラティール神聖国といえば、うちらと同じ歳の奴が、聖騎士の職に就いてるでしょ。その訳解らなさ過ぎる学生とも交流したの?」
「えぇ。交流させていただきましたわ」
「へぇ~~~~~……ちなみに、戦り合った結果を聞いても良い感じ?」
「構いませんわ…………真剣勝負であれば、勝てたのはイシュドのみですわ」
「「っ…………」」
多少、そうなのではと予想はしていた。
聖騎士とは、本来であれば三次職に転職する際に就ける職業。
それを二次職の時点で就いていることを考えれば、まずスペックではほぼほぼ勝てない。
それでも、二人はミシェラやガルフ……フィリップの強さを知っている。
だが、今のミシェラの言葉から、アラッド以外の全一年生が勝てなかったのが解る。
「やっぱ、普通じゃない感じなのね」
「そうですわね……イシュドとの試合でも、普通ではない強さを、見せ付けられました」
バーサーカーソウルを発動した状態から放たれた剣技、裂空。
そのイシュドが放った裂空に対し、エリヴェラは見事相殺してみせた。
双剣士という軽快なフットワークも持ち味の一つであるミシェラなら、それを避けるというのも正解の一つ。
だが……激しい戦いの中で、避けるのではなく……誰かを守るために、迫る攻撃を対処しなければならない場合がある。
しかし、今のミシェラには、どう考えてもあの裂空を真っ向から対処出来る手段がなかた。
「……ふふ、その割には楽しそうな顔をしてますよ」
「ねぇ~~~。全然こう……才能とか実力の差に打ちひしがれて絶望したって感じじゃない」
「当然ですわ。私はいずれあの男を……イシュドを絶対にぶった斬りますのよ。同世代の強者が更に現れたからといって、いちいち絶望してられませんわ」
イシュドの強さは、二人も激闘祭のエキシビジョンマッチで十分理解していた。
文字通り怪物を呼べる強さを持つ男の戦いっぷりを見て、戦慄せざるをえなかった。
それ故に、ミシェラの将来的な目標に……この人頭大丈夫かしら? といった疑問を覚えるも、彼女たちも歩みを止めないエリート。
疑問を持つ反面、ミシェラが強きに目標を語る内容をバカにすることはなかった。
「まっ、確かにそうね。うちも今度の激闘祭ではそっちのガルフに借りを返したいしね」
「私も、今度こそミシェラさんに勝ちます」
「望むところですわ、フルーラ」
お茶会らしくない盛り上がりを見せる中、ふと……メイセルは頭の中に浮かんだ内容を口にした。
「そういえばさ、ミシェラ」
「? なんですの、メイセル」
「ガルフは、カラティール神聖国に行った時、爆モテしなかったの」
「バ、爆モテ?」
「そうそう。だってほら、闘気を使える人って超貴重じゃん。まずうちらの世代にはいないし、一つ上にも二つ上にもいないじゃん」
「そ、そうですわね」
闘気を扱うことが出来れば、最低限の努力は必要ではあるものの、間違いなく激闘祭に参加することが可能。
だが、闘気を扱える学生は二年生のトーナメントにも三年生のトーナメントにもいなかった。
一般的にエリートと捉えられている令嬢や令息たちの中にも使い手がいない。
だからこそ、他国に行けば爆モテするのではないか。
というのは、メイセルの思い付きではなく、割とその可能性が高い流れであった。




