第390話 皆の戦果
「お待た~~~。んじゃ、とりあえず戻るぞ~~~~」
ある程度話し終えた後、イシュドたちはガルフたちと合流し、最寄りの街へ帰還。
ゴブリンキングの群れを討伐したという話を冒険者ギルド経由で正式に伝えてもらうことにし……ひとまず、最初の宴会が開かれた。
「エールが足りねぇぜ!!!!」
ギガンテス希少種との戦いの際に溜まった鬱憤を晴らすように、イシュドは普段よりハイペースでエールを呑んでいた。
「イシュド君、少しペースが早くないかい? 大丈夫かい」
「これぐらい普通ってもんよ、エリヴェラ!! つか……帰り道じゃあ俺が質問攻めにあってばかりだったな~~」
激闘からの帰り道、イシュドはギガンテス希少種との戦いについてあれよこれよと色々と訊かれ、離せる範囲内で語った。
だが、イシュドはまだエリヴェラたちの対ゴブリンキングの群れとの戦いに関して全く聞いていなかった。
「俺が訊かれるだけ訊かれるってのはぁ~~、割に合わねぇ。だから、ちゃ~~~んとお前らの話も聞かせろよ」
「う、うん。それは勿論構わないけど……えっと、何から話そうかな」
確かに、質問するだけ質問して、自分たちの話をしないのは不公平。
そんなイシュドの言い分は理解出来るため、応えようとは思うものの、何から話せば良いのか解らない。
「序盤から中盤前にかけては、やはりフィリップが一番活躍していたかと思いますよ、イシュド君」
「私も同じ意見だよ、イシュド。フィリップ君が本当にあれよこれよって援護をして回ってくれて、イシュドの言う通り圧倒的中衛として活躍してくれたの」
クリスティールは元より、ステラもフィリップという男子生徒がどういった学生なのかある程度把握しているからこそ、嬉々として彼こそがMVPだと話し始めた。
「いや、だから俺はやれる事をやっただけなんで」
「やれる事をやる。それは確かに当たり前の事かもしれませんが、フィリップが求められた内容は私たちの中でもトップクラスのハードな内容かと」
「ただ討伐する、急所に攻撃するんじゃなくて、最低限の足止めや隙を生み出す為の攻撃は一対一の戦いならともかく、あれだけの数がいる中でそれを一人で行うのは、並大抵の働きじゃ足りないかな」
「なっはっは!!!!! な~るほどな~~~~~。いやぁ~~~、俺としてはフィリップがやる気になってくれてたみたいでなによりだぜ!!」
ツートップのお姉さんたちから本音と意地悪心を含んだ褒め言葉を貰い、イシュドからは純粋な賞賛を貰った結果……エールを一気飲みするも、一向に酔いを感じられないフィリップ。
だが、フィリップとしてはそこに関して反論したいことがあった。
「ぷはぁ~~~~~……あれだ、イシュド。褒められるのは……まぁ良いんだよ。ただ、中盤に関しては俺よりもアドレアスの活躍があったから、上手いことライダーたちを減らすことが出来たんだぜ」
お前も道連れだと言いたげな笑みを王子様に向けながら、フィリップはアドレアスがどの様にしてゴブリンライダーたちの数を減らしていったのかを語り始めた。
「もう、気付いたらあっという間だったぜ」
「へぇ~~~~~。割とライダーたちから気付かれない距離から狙撃してたのか……どうしたんだよ、アドレアス。頑張ろうって向上心は持ってんのは解ってっけど、らしくないやり方だったんじゃねぇの」
「そうだね。出来ることなら、内側からライダーたちを貫き、仕留めたかった。ただ、事前に解ってはいたけど、ゴブリンライダーの戦闘力はかなり厄介で、数が増えると更にそれが増す……ゴブリンクイーンというこちら側のイレギュラーもいたから、正攻法じゃ駄目だと思ったんだ」
酒場での宴会でありながらも、綺麗にオークの肉をフォークとナイフで切り取るアドレアス。
普段と変わらない表情……の様に見えて、解る者はそれが仮面であることを察していた。
「だから、こっそり気配を隠して外から狙うことにした」
「……良いんじゃねぇの。それを思い付いたとして、出来るか出来ないかはまた別問題だ。お前は今日、それを実行するって選択肢を取った……それは、間違いなくてめぇの強さに変わる筈だ」
「そう、か………………イシュド君にそう言ってもらえると、自信になるよ」
「へっ、そうかよ。んで、ゴブリンキングとブランネスウルフ……後ゴブリンクイーン。そこら辺の大物は誰がどうしたんだ」
「あれだな。最初に戦場に来たのはブランネスウルフで、最初はガルフとミシェラが相手をしてくれてたんだよ」
フィリップの説明を向け、イシュドの顔が勢い良く二人の方へ向けられる。
「どうだったよ、ガルフ。デカパイ」
「その……あれだったね。解ってはいたけど、まだ二人だけで討伐することは出来なかったね」
「素早いだけではなく陰に隠れるのが上手く、脚運びも並ではなかったですわ。それでいて、闇を纏った爪撃も恐ろしかったですわね」
正直なところ、可能であれば二人は自分たちだけでブランネスウルフを討伐しようと考えていた。
それが出来れば、フィリップたちの力でもっと早くゴブリンライダーの数を減らせると考えていたが……そんな甘い考えが通用するほど、甘い相手ではない。
「でも、途中でミシェラさんが賭けに出てくれて、良いダメージを与えてくれたんだ」
「へぇ~~、やるじゃねぇの、デカパイ。んで、どんな感じで良いダメージを与えたんだよ」
「え、えっと……」
「ガルフは、私が自分で言いますわ」
言い淀むガルフの気遣いを嬉しく思いながらも、ミシェラは恥ずかしさを押し殺し、どの様にして良いダメージを与えたのかを話した。
「なっはっはっはっは!!!! いやぁ~~~~~~、最高最高!! 超最高じゃねぇか、デカパイ!!!!」
「…………無理に褒めなくて良いですわよ」
やっぱり話さなければ方が良かったと、ほんの少し思うミシェラだが……イシュドは笑いこそすれ、バカにしている訳ではなかった。
「な~~~に言ってんだ、無理に褒めてねぇっての。アドレアスと同じで、またそれが出来たってのは、デカパイの一つの武器になるだろ。よくやったじゃねぇか」
「……それはどうも」
褒めてくる相手がイシュドだからか、フィリップの様に素直に褒め言葉を受け取れない。
だが、次のブランネスウルフの攻略話を聞き、イシュドは腹が痛くなるほど大爆笑した。




