第386話 嘗め過ぎ
厄介なライダーは、あと一対のみ。
レオナは弾き飛ばした近衛ゴブリンライダーの存在は無視し、全速力でゴブリンクイーンの元へ駆けだす。
「っ、ギギャギャギャッ!!!!!!」
緊急事態だと叫ぶ近衛ゴブリンライダー。
ゴブリンの中で、クイーンという存在がどれだけ貴重なのか解っているからこそ、近衛ゴブリンライダーは恥を捨てて他のゴブリンやウルフ系モンスター達に助けを求めた。
クイーンを助けるよりも、まだ生きている岩石女を殺すよりも、それが先。
そんな最後の近衛ゴブリンライダーの判断は……決して間違ってはいなかった。
間違ってはいなかったが……ただ、クイーンを守りながら自分たちに挑む二人の
雌を倒すことに集中していた近衛ゴブリンライダーは、全く気付いていなかった。
自分たちの同族が……自分たちを纏める王が、王の相棒たる闇狼が……既に討伐されていることを、知らなかった。
「よそ見、厳禁ッ!!!!!!!!!!!!」
決定的な隙を見逃さず、ステラは一瞬で距離を詰めて宙を跳び……岩石を纏った拳を顔面に叩きつけた。
「ギっ!!!!!!!???????」
普通のゴブリンではない……ゴブリンの中でもエリートと呼べる存在ではあるが、それでも王に、本当の意味で特別な存在に至れていないゴブリン。
そんなゴブリンが、ステラの本気の一撃に耐えきれるわけがなく……顔面は一撃で粉砕されてしまった。
「せやッ!!!!!!」
「ァワッ!!!!!?????」
そして殴り際にCランクウルフの尾を掴み、再度全力で地面に叩きつけた。
「ふぅーーー、ぃよしッ!!!!!!!」
自分の仕事はこれで終わった……とはならない。
まだ女王の護衛を討伐しただけで、女王自身は討伐していない。
ふんどしを締め直……ブラを締め直し? ステラは親友の元へ全力で駆けだす。
「おらッ!! ハッ!!! ん、ぉらッ!!!!! 逃げてんじゃ、ねぇよッ!!!!」
「っ!!!!!!!」
護衛の近衛ゴブリンライダーたちを失ったとはいえ、それでもゴブリンクイーンはBランクモンスター。
最大火力を叩き込めば、レオナやステラといえど一撃で殺られてしまう。
だが……それは、最大火力の攻撃魔法を叩き込められればの話である。
ゴブリンクイーンは、キング程あれこれ考えて動くことが出来ない。
ただ、近衛ゴブリンライダーに守られ、基本的に安全圏から魔法を放っていたとはいえ……決して、戦闘に関してド素人ではない。
目の前の人間の雌二人を潰せるだけの攻撃魔法を放ったとしても……当てられなければ意味がない。
だからこそ、クイーンは必死に後方へ下がりながらボール、ランス、カッターなどの一度に大量に放てる攻撃魔法を連射していた。
どうにかしよう、どうにかしなければ、どうにかしないと……死ぬ。
レオナが蛮刀で自身に迫る攻撃を切断しながら接近しており、ついでに最後の近衛ゴブリンライダーを始末したステラまで一気に距離を縮めてくる。
何か、ここから一発逆転、もしくは逃げられる手段はないかと考えに考え……ゴブリンクイーンは、ある手段を思い付いた。
「おっ、ちっとは戦る気になったのかなッ!!!!!!」
ゴブリンクイーンは両脚に風を纏って脚力を強化しながら下がり、杖を両手で掴み、火の魔力を集中させる。
そして……意を決し、最高火力の攻撃魔法を発動。
「ギゲゲゲギャギャギャッ!!!!!!」
ゴブリンクイーンが発動した魔法は……火魔法、ヴォルカニック・ロード。
火魔法のスキルレベルが五に至る事で発動出来る攻撃魔法。
人によって発動の際に生まれる存在は様々だが、ドラゴンや獅子……ユニコーンなどが放たれることが多い。
そしてゴブリンクイーンが放つヴォルカニック・ロードによって生まれたのは、東洋スタイルの火竜。
雄々しく、勇ましい火竜が通る。
その通り道に触れれば……焦げるでは済まない。
本来であれば、ゴブリンクイーンの火魔法のスキルレベルは四であるため発動出来ないが、冒険者を殺して奪った杖の効果により、膨大な魔力を消費することでスキルレベルが一つ上の魔法を発動することが出来る。
そんな覚悟を持って放ったであろうヴォルカニック・ロードが放たれた先はステラとレオナの二人…………ではなかった。
「「っ!?」」
ゴブリンクイーンの最大火力が放たれると、そう予想していた二人はまさかの出来事に驚きを隠せなかった。
何故、自分たちを狙わなかったのか。
何故……ここに来て、ゴブリンクイーンは邪悪な笑みを浮かべているのか。
理由は、直ぐに解った。
(こいつ)
(強か、ね)
ヴォルカニック・ロードが向かう先は、ブランネスウルフやゴブリンキング、多数のゴブリンライダーとの戦闘で消耗しているエリヴェラたちの元だった。
ヴォルカニック・ロードを防がなければ、あいつらは死ぬぞという、既に実行されてしまった脅迫。
ここで二人が戻り、ヴォルカニック・ロードを何とかしなければ、仲間達が死ぬぞと……それが、ゴブリンクイーンからのメッセージであった。
杖の力を借りて発動した攻撃とはいえ、それでもスキルレベル五というその道のトップクラスの者しか辿り着けない領域の攻撃魔法。
その威力は本物であり、仮に森に放たれれば一瞬で森林火災になりうる。
さぁ、戻れ……仲間を死なせたくないでしょう。
言葉を口にせずとも、表情から、行動からゴブリンクイーンの意思が伝わってくる。
ゴブリンクイーンの思惑通り、確かに見逃せない超高火力の攻撃である。
ただ……二人は、確かに驚いた顔をした。
しかし、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべ、思いっきり地面を踏みしめ、更にゴブリンクイーンとの距離を縮めた。
「っ!!!!!!!???????」
「誰があんたの思惑通りに動くかッ!!!!!!」
「クリスティールさんを、後輩たちを、嘗め過ぎねッ!!!!!!!」
ゴブリンクイーンが訳が解らないと、なんでどうしてと冷や汗をダラダラと流す中、二人は渾身の一撃を放つ。




