第372話 惜しまず抹殺
(うっげ……あれ、イレギュラーっちゃイレギュラーなんだろうな)
ゴブリンライダーの軍団と衝突した際、まだ全容は見えていないものの、フィリップは嫌な気配を三つほど感じ取った。
(報告じゃあ、ゴブリンの上位種とウルフ系モンスターの上位種だけだったのに、もしかしなくてももう一体……いるな~~~~)
奥の方から、以前ガルフたちと共に戦ったミノタウロスと同じ気配を感じ取り、眉をへの字に曲げるフィリップ。
(まぁ、俺は俺の仕事をやらんと、なっ!!!)
フィリップは全身に雷を纏うと、アイテムポーチの中から複数の短剣を取り出し、前衛として戦っているメンバーの直ぐ傍にいる個体、もしくは今しがたガルフたちが戦っている個体に向けて投擲を行う。
「っ!? ギギャッ!!!!」
「破ッ!!!!」
「ッ!!!!!?????」
たかが投げナイフ一本、さりとて投げナイフ一本。
毛皮が堅いウルフ系モンスターであればともかく、ゴブリン程度であれば投げナイフに魔力を纏わせてしまえば、とりあえず刺さりはする。
喉や心臓、頭部に刺さればそのまま致命傷に繋がり、手や眼に突き刺さっても戦力が低下する。
「疾ッ!!!!」
「ゲギャっ!!??」
たとえゴブリン自身が完全に躱す、もしくはゴブリンを乗せているウルフ系モンスターが起点を利かせて躱せたとしても……今のアドレアスたちであれば、回避する方向を読むことが出来る。
「ウィンドカッターっ!!!!」
「「「っ!!??」」」
そして準備が完了したローザの攻撃魔法が発動され、複数の風刃が襲いかかる。
数は脅威であれど、あまりにも多ければ……逃げ場を失う場合もある。
一度に絶命させることは出来ずとも、腕や脚の一本や二本を奪い、戦力を低下させる。
(オッケー、オッケー。今のところ順調っ!!?? この、ふざけんなっつの!!)
とはいえ、素直に戦力が削られるのを待つゴブリンライダーたちではなく、数少ないゴブリンメイジたちがフィリップたちの予想通り、ウルフ系モンスターに乗って移動魔砲台となって襲い掛かる。
「イブキっ!!!」
「えぇ、かしこまりました」
事前に話していた通り、メイジライダーの登場を把握し、イブキはその他のゴブリンライダーから放たれる攻撃を対処しながら、気を窺う。
(……っ…………今っ!!!)
ウルフ系モンスターの爪撃を刀で弾きながら、イブキは無造作に前足を掴み、ローザを狙って放たれたウォーターランス目掛けてぶん投げ、相殺。
直後、まさかの方法で自身の攻撃魔法を相殺されたことに驚きを隠せないメイジライダーを狙い、全力で接近。
「っ!!! ギギャギャ!!!」
「ガゥっ!!!!!!!!」
「居合・桜乱……飛燕ッ!!!!!!!」
ライダーの指示に従い全力で逃げようとするウルフ系モンスター。
だが、イブキも逃がすつもりはなく刀技を発動。
一瞬にして複数の斬撃波を放ち……ウルフ系モンスターの体は真っ二つ。
ゴブリンメイジはなんとか片腕の切断だけで済むも、転げ落ちる。
「ギギャギャギャっ!?」
「最後まで戦う意志だけは、見事なものでしたね」
ゴブリンメイジは最後まで攻撃魔法を発動しようとしたが、それよりも早くイブキのクナイが額を突き刺した。
(流石イブキ、仕事が、早くて……なにより、だ!!!)
早速一体のメイジを全力で討伐したイブキを見て、良い方向へテンションが高まる。
状況が状況であるため、たかがゴブリンメイジに刀技を使うのは魔力が勿体ない、とは言えない。
元々想定していた二体のBランクモンスターに加えて、イレギュラーな個体の三体は対応すべき人物たちが対応する。
その為、イブキやフィリップたちは別の場所で使うべき時に魔力を消費していなければ、それこそ勿体ないというもの。
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
序盤は自分たちのペースで戦えている。
そう思っていたフィリップたちの耳に、勇ましくも冷や汗を感じる雄叫びが森中に響き渡る。
(チッ!! 素早さを、修正しねぇ、とな!!!!)
森中に響き渡った雄叫びの主は……ゴブリンキング。
種族の王である彼の声は、同族であるゴブリンライダーたちを鼓舞し、身体能力を上げる。
「人間を、嘗めるなぁああああああああああッ!!!!!」
しかし、雄叫び一つで圧される彼等ではない。
そこだけは折れてはならぬと、ヨセフはすぐさま吼え返し、ローザを守りながら的確にゴブリンやウルフ系モンスターの急所を狙い、突き刺す。
「同感、ですわね!!!!!!」
「うむッ!!!!!!」
ミシェラの風刃が首を引き裂き、パオロの剛槍が薙ぎ払われ、ゴブリンたちを引きずり下ろす。
ステラやクリスティールたちも後輩たちの雄叫びに嬉しさを感じ、素早いゴブリンライダーの動きに惑わされず、的確に潰していく。
五十以上もあった数が、徐々に……徐々に減っていく。
幸いなことに、ミシェラたちの不安要素であった囚われていた女性たちが盾にされる様なことはなく、荷物が増えることもない。
「ッ!!!!!!!」
「っ!? ガルフ!!!!」
「大、丈夫だよ!!!!!!」
突如、木影から現れた巨狼。
戦場を飛び越え、ローザへ爪撃を叩き込もうとするも、嫌な予感を察知したガルフがなんとか間に入り、防御することに成功。
(あ、危なかった……闘気じゃなくて、護身剛気で受けて、正解だったね)
巨狼の正体は、ブランネスウルフ。
ブラックウルフの進化先の一つであり、ゴブリンキングの相棒なのだが……ゴブリンキングと共に出てくるのではなく、一体だけで現れた。
(物凄く強いウルフ系モンスターって事は、この巨狼がゴブリンのトップの相棒……なんだよね? なのに、どうして一体だけで……っ!!!)
もっとじっくり考える時間が欲しい。
だが、それはガルフ側の要望であり、黒毛の巨狼……ブランネスウルフがわざわざ考慮する必要はない。
「わざわざ出てきてくれたのは、有難いですわね」
「ッ…………ルルゥ」
「ミシェラさん!」
「ガルフ、ひとまず二人でこの巨狼の相手をしますわよ」
本当はイブキ、フィリップもそちらに回りたい。
しかし、順調に数を減らせてたとはいえ、まだゴブリンライダーの数は脅威と言えるほど残っている。
現状……残っている脅威も含めると、ガルフとミシェラの二人で対処するしかなかった。




